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メコン河開発メールニュース2026年1月20日
タイでは気候変動の影響を強く受ける国の一つと言われています。昨年も各地で大規模な水害が発生しました。タイ政府は、気候変動法案や温室効果ガスの排出削減目標達成の前倒しなどを閣議で承認しています。そんな中、化石燃料であるガスを主な燃料とする発電所の建設が持ち上がり、反対の声が上がっています。
この件に関し、タイのグループが事業に関与する可能性のある銀行に対し、昨年10月に送付した公開書簡を紹介します。宛先には、日本の三井住友銀行、三井住友信託銀行、三菱UFJフィナンシャル・グループのグループ企業、アユタヤ銀行が含まれています。
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公開書簡「タイのブラパー発電事業に関する喫緊の懸念」
宛先:アユタヤ銀行、中国銀行、タイ・政府貯蓄銀行(GSB)、中国工商銀行、カシコン銀行、みずほ銀行、ナティクシス、三井住友銀行、ソシエテ・ジェネラル、スタンダード・チャータード銀行、三井住友信託銀行
私たちFossil Free Thailand(化石燃料フリー・タイランド)は、タイおよびアジア各地の市民社会組織で構成される連合体です。タイのチャチュンサオ県で計画されている600メガワット(MW)規模のブラパー発電事業に関連して、地域社会、財務、環境および気候の観点から深刻なリスクが存在することを警告いたします。同プロジェクトは、ナショナル・パワー・サプライ社(National Power Supply PLC)とガルフ・デベロップメント社(Gulf Development PCL)が共同開発する、天然ガスを燃料とするコンバインドサイクル発電所です。
以下に、ブラパー発電事業に関連する重大なESGリスクを記載します。潜在的な資金提供者としてご検討をお願いいたします。
・財務リスク
最新の財務分析によれば、再生可能エネルギーへの完全移行シナリオの下では、タイの化石燃料発電設備のうち、容量ベースで最大67%が2040年までに座礁資産となり、それによる損失の総額は5,300億バーツに達するとされています[1]。ブラパー発電事業は大規模なガス火力発電所の開発計画であることから、上述の移行に伴うリスクに対して特に脆弱です。移行リスクは、貴行の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)報告書においても、重要な懸念事項として明示されているリスクです。移行リスクは、タイ・タクソノミーによってもさらに明確に示されています。同タクソノミーでは、新規のガス発電所(2023年12月31日以降に建設許可を取得したプロジェクト)を「赤」に分類しています。この分類は、こうしたプロジェクトが環境に配慮したものではなく、段階的に廃止していくべき対象であることを示しています。
このリスクは、大幅な電力余剰、ガス火力発電の競争力低下、急速に拡大している再生可能エネルギーの導入というタイのエネルギー状況の変化によって、さらに深刻化しています。タイでは、電力余剰の拡大により、新規ガス火力発電所の事業としての継続可能性に対する懸念が高まっています。同国はすでに発電設備が過剰であり、多くの既存発電所が想定されていた稼働率を大きく下回る状況にあります。タイの電力システムは、ここ数十年にわたり慢性的な発電過剰と高い予備率に直面しており、予備率は約36%で推移しています[2]。これは、ピーク時の電力需要に対して推奨される15%という水準を大幅に上回っています。
再生可能エネルギーの発電コストが低下し、省エネルギー対策が向上するにつれて、化石燃料を用いた発電所の利用はさらに減少する見込みであり、さらに不要かつ採算性も低いものになっていくでしょう。ブルームバーグNEFの最新調査によれば、新規の大規模太陽光発電設備の均等化発電原価(LCOE)は、2022年以降、新規のガスタービン・コンバインドサイクル発電所や石炭火力発電所をすでに下回っています[3]。
電力開発計画2024(PDP2024)の草案によれば、タイはクリーンエネルギーの比率を50%以上に引き上げることを目標としています。従って、ブラパー発電事業は、仮に建設されたとしても稼働率の低い資産となり、投資収益をほとんど生み出さない一方で、融資機関に長期的な債務エクスポージャーをもたらすおそれがあります。本プロジェクトへの資金提供は、貴行が表明されているサステナビリティへのコミットメントに反するだけでなく、貴行をタイの電力セクターですでに顕在化しつつある重大な座礁資産リスクにさらすことにもなります。
・銀行のファイナンスド・エミッション目標へのリスク
ブラパー発電事業のような新規ガス火力発電所への資金提供は、貴行のファイナンスド・エミッション(投融資先の排出量)目標、ひいては2050年ネットゼロ達成という全体目標に対して深刻なリスクをもたらします。貴行は国連責任銀行原則(PRB)に署名されており、パリ協定の長期目標と整合する投融資を行うことが求められています[4]。しかしながら、発電所は通常25〜30年間稼働するため、ブラパー発電事業への金融支援は、2050年以降も稼働が継続する化石燃料事業に関与する意思を示すことになりかねません。国際エネルギー機関(IEA)の2050年ネットゼロに向けたロードマップは、世界の気温上昇を産業革命前と比べて1.5℃以内に抑えるためには、排出削減対策を講じていないガス発電所を含む新規の化石燃料供給プロジェクトの開発を承認すべきではないと明言しています[5]。化石燃料拡大へのいかなる支援も、この指針に真っ向から反し、貴行が支持するとした気候目標実現への世界的な取り組みを損なうものです。
・送電線をめぐる紛争
ブラパー発電所を近隣の変電所に接続するために必要な高圧送電線の建設は、地権者の土地利用権が厳しく制限される、あるいは土地を完全に失うおそれがあるとして、影響を受ける住民の間で深刻な懸念を引き起こしています。送電線の建設は少なくとも51世帯に影響を与えると見込まれており、地域住民の生計、食料安全保障、経済的安定が脅かされています。
送電回廊は全長14.18キロメートル、幅60メートルに及び、この送電線用地(Right of Way:ROW)内に土地を有する地権者は、安全規制により土地利用が制限されます[6]。規制は、クレーン、フォークリフト、ホイール/ショベル・ローダー、掘削機を規制区域に持ち込むこと、住宅、建物、居住用構造物を建設することなどを禁止しています。また、一部の多年生作物や樹木の植栽も禁止されています。その結果、影響を受ける世帯は、生計の大部分を直接支えている合計531.75ライ(注:ライはタイの土地面積単位。この場合、約85ヘクタール)の農地へのアクセスを失うことになります。
地権者グループは、このプロジェクトが公聴会および影響を受ける地域住民の意味ある参加に関する法的要件に違反しているとして行政訴訟を提起しており、その訴えはタイ行政裁判所により受理されています。原告らは、プロジェクトの直接的な影響を受ける多くの住民が協議プロセスから除外され、十分な情報に基づく意思決定に必要な重要情報の開示が確保されなかったため、住民の同意を得ないまま計画が進められていると主張しています。特に、少なくとも62名が事前通知を適時に受けておらず、自らの権利や生計への影響を適切に評価することができませんでした。この手続き上の不備は、天然資源環境政策計画局(ONEP)が定める環境影響評価(EIA)プロセスにおける市民参加ガイドラインに違反しています。
ブラパー発電事業は、10年以上にわたり地域住民の強い反対に直面してきました。当初は石炭火力発電所として計画されましたが、反対運動が継続した結果中止され、ガス火力発電所として再計画されたのは2019年のことです。地域住民の反対は依然として根強く、住民たちは抵抗の姿勢をさらに強めています。発電所の稼働に不可欠な送電線をめぐって現在訴訟が係属中であり、本プロジェクトは実現可能性や事業スケジュールの面で重大な不確実性を抱えています。
・深刻な水ストレスと資源紛争のリスク
ブラパー発電事業は、チャチュンサオ県のすでに乏しい水資源にさらなる負荷をかけ、同じ水源に依存する産業と地域住民との競争を激化させます。本プロジェクトが計画している1日あたり12,000立方メートルの取水は、既存の水ストレスを悪化させ、資源紛争のリスクを高めます。
環境影響評価(EIA)報告書によれば、ブラパー発電事業は稼働段階において1日あたり12,000立方メートルの水を使用します。水はインダストリアル・ウォーター・サプライ社(Industrial Water Supply Co., Ltd.)から供給され、容量約46,055立方メートルの貯水池1カ所に貯留されます。その大部分(1日あたり約11,753立方メートル)は冷却工程に使用されます。同社は、王立灌漑局よりラボム水路(Khlong Rabom)からの取水を7月から10月までの4か月間に限り許可されています。
しかし、チャチュンサオ県はすでに慢性的な水不足に直面しています。2023年9月時点で、県内にある主要および中規模の貯水池5カ所の貯水量は、総容量のわずか19.46%(9,412万立方メートル)にとどまっていました。その一方で、県内における年間の総水需要は以下のとおりです。
* 生活用水:4,189万立方メートル
* 生態系維持:1,825万立方メートル
* 農業:13億473万立方メートル
* 工業:1億892万立方メートル
ラボム水路とそれにつながるタラート水路(Khlong Thalat)の水系は、すでに複数の大規模産業や地域の水道事業体に利用されており、これらによる年間取水量は現時点で合計1億5,000万立方メートルを超えています。たとえば、Tウォーター(EEC)社(T-Water (EEC) Co., Ltd.)だけでも年間最大8,000万立方メートルの取水権を有しており、県内の水道事業体全体でも年間6,000万立方メートル以上の水が消費されています。
既存の水ストレスを考慮すると、ブラパー発電事業による1日あたり12,000立方メートルの追加需要は相当な規模であり、限られた資源をめぐる競争を激化させることになります。その結果、深刻な水不足のリスクが高まるとともに、地域住民や利害関係者の間に、資源紛争が生じかねないとの正当な懸念が広がっています。こうした状況は、人々の生計と生態系の持続可能性の双方を脅かすものです。
貴行は、本プロジェクトを投資対象から除外する方針を明確にすべきです。
私たちは、ブラパー発電事業がチャチュンサオ県の地域社会の将来に脅威をもたらすことから、本プロジェクトに反対します。本プロジェクトは、人々の生計、文化、環境という重要な側面に対し、恒久的かつ不可逆的で、存続そのものを脅かす深刻な脅威をもたらします。こうしたリスクに対する懸念は、プロジェクト設計において意味ある住民協議や参加が欠如していることによって、いっそう大きくなっています。すでに少なくとも62名が、十分な補償がないまま農地へのアクセスや利用が制限されるリスクにさらされています。以上の理由から、ブラパー発電事業は、環境被害および社会的リスクの両面からみて極めてリスクの高いプロジェクトであり、金融仲介機関を通じた投資を含め、貴行によるいかなる投資からも除外されるべきです。
このプロジェクトに対する私たちの懸念はかねてからのものであり、これまで地域住民が抵抗を続けてきた経緯を踏まえると、近い将来に状況が改善する見込みは低いと考えられます。それどころか、プロジェクトが進めば、地域住民の権利侵害はさらに深刻化するおそれがあると危惧しています。したがって、私たちは貴行に対し、以下の対応を求めます。
1) ブラパー発電事業および/またはブラパー・パワー・ホールディングス社(Burapa Power Holdings Co. Ltd)への、融資、社債引受、保証の提供など、いかなる形態の金融支援であれ現在関与していないか、あるいは検討中でないかを確認すること。
2) 貴行の顧客のうち、計画中のブラパー発電事業を支援している、または今後支援を検討する可能性のあるすべての金融仲介機関に対して、本書簡に記載した地域住民の懸念を伝達すること。
3) 新規投資について金融仲介機関を通じた投資も含め、このリスクの高いプロジェクトに資金が提供されることのないよう、慎重に見直すこと。
上記について、2025年10月31日までに書面にてご回答いただきますようお願い申し上げます。[連絡先略]
この喫緊の問題にご関心をお寄せいただき、心より感謝申し上げます。ご回答をお待ちしております。
以上
化石燃料フリー・タイランド
脚注:
[1]
https://climatefinancethai.com/fossil-reckoning-valuation-of-coal-and-gas-stranded-assets-in-thailand/
[2]https://caseforsea.org/wp-content/uploads/2024/10/EN-Electricity-Market-Designs-in-Southeast-Asia.pdf
[3]https://about.bnef.com/insights/clean-energy/solar-wind-and-batteries-could-enable-thailand-to-reduce-reliance-on-lng-imports/
[4]https://www.unepfi.org/banking/more-about-the-principles/
[5]https://www.iea.org/reports/net-zero-roadmap-a-global-pathway-to-keep-the-15-0c-goal-in-reach/executive-summary
[6]https://ratchakitcha.soc.go.th/documents/135885.pdf
(文責:メコン・ウォッチ)