ホーム > 資料・出版物 > [情報公開] 国際協力銀行の融資契約不開示決定に対する異議申立書
2001年8月1日
外務大臣 田中真紀子殿
異議申立人 メコン・ウォッチ代表 神田浩史
異議申立書
行政不服審査法第6条に基づき、次のとおり異議申立をする。
第1項 異議申立人の住所・氏名・年齢
住所:東京都台東区東上野1-20-6 丸幸ビル2
名称:メコン・ウォッチ
代表者の氏名:神田浩史
代表者の住所:(省略)
代表者の年齢:(省略)
第2項 異議申立に係る処分
処分庁の平成13年5月28日付けの異議申立人に対する行政文書の開示決定等処分(情報公開第02257号)
第3項 異議申立に係る処分があったことを知った年月日
平成13年6月4日
第4項 異議申立の趣旨
第2項記載の処分を取り消すとの決定を求める。
第5項 異議申立の理由
(1) 異議申立人は、平成13年4月2日、処分庁に対して、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」)に基づき、「1993年タイ環境保全基金支援事業(以下、本件事業)に関する融資契約(Loan Agreement)、及び契約に付随する環境保全対策などに係わる合意事項」(以下、本件文書)の開示請求を行った。
(2) 処分庁は、平成13年5月28日、(1)の請求に対し、開示決定等処分(以下、本件処分)を行った。
(3) しかし、本件処分は、次の理由により違法である。
<決定が行われた文書について>
(1)の請求においては「1993年タイ環境保全基金支援事業に関する融資契約(Loan Agreement)、及び契約に付随する環境保全対策などに係わる合意事項」を開示請求したにもかかわらず、本件処分において不開示が決定したのは「1993年タイ環境保全基金支援事業に関する融資契約(Loan Agreement)」のみであり、請求にあった「同契約に付随する環境保全対策などに係わる合意事項」については開示・不開示の決定が行われていない。これは、開示請求に対して請求者に対し開示・不開示を書面により通知するよう定めた情報公開法9条に反する。
<理由付記について>
本件処分は、不開示の理由として、情報公開法第5条各号を引用するのみであり、本件文書が各号に該当する根拠を示していない。
開示等決定は行政手続法に定める処分にあたり、処分にあたっては同法8条の規定に基づき書面により当該処分の理由を示さなければならない。この理由付記にあたっては、不開示事由の根拠となる条文だけでなく、当該文書がその不開示事由にあたる根拠を同時に明らかにするべきである。最高裁判所も、警視庁情報公開請求事件の判決においてこの立場を支持している(最1小判平成4年12月10日)。したがって、本件処分は行政手続法第8条の要件を満たしておらず、違法である。
なお、本件処分の根拠につき、処分後口頭での説明があったが、上記最高裁判決は、事後的な説明では上記瑕疵の治癒とはならない旨を判示している。
<不開示事由:第5条2号(法人等の情報)について>
本件処分は不開示事由の1つとして、本件文書が法人等に関する情報であり、公にすることにより、当該法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するとしている。その後口頭で説明されたところによれば、本件文書には契約の当事者であるタイ国政府の信用に関する情報が含まれ、これを明らかにすることは国際協力銀行が今後各国政府と融資契約の締結交渉を行うにあたって不利になるという。
第一に、国際協力銀行は本号にいう「法人等」に含まれるものの、本件文書は日本国政府による円借款供与に関する文書であり、行政の執行に関する情報であって、この意味で国際協力銀行は政府の一部を構成する法人である。したがって、本件文書は行政情報であり、その開示の可否については、国際協力銀行は国に準ずるものとして、本号ではなく6号が適用されることが適当である。(現在国会で審議中の「独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律案」によって、国際協力銀行は5条2号の法人から除外される予定である)
第二に、国際協力銀行は有償資金協力業務の一環として開発途上国政府に貸し付けをおこなっており、融資にあたっては、融資条件等の情報は原則として公開されるべきあり、開示の可否の決定にあたっては、本件処分にいう「当該法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益」と開示による利益との比較衡量が行われるべきである。相手国政府の信用情報を明らかにすることで国際協力銀行が被る不利益はきわめてあいまいなもので、本件文書の公共性を考えれば、2号による不開示は妥当でない。
第三に、本件文書は国際協力銀行の融資の停止・中止を求める唯一の法的な根拠である。本件事業により健康上また生活・財産上の影響を受ける地域住民は、本件文書の公開を強く求めている。本件文書については、2号但書にいう「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」にあたり、2号の適用はないものというべきである。
<不開示事由:第5条3号(国の安全等に関する情報)について>
本件処分は不開示事由の1つとして、本件文書が有償資金協力業務に関する情報であって、公にすることにより、関係国等との信頼関係が損なわれるおそれがあるためとしている。これは、本件文書の一方当事者であるタイ国政府が公開に反対しているため、日本国政府が一方的に文書を公開することで両者の信頼関係が損なわれるとの判断を示しているものと思われる。
第一に、国際協力銀行同様、開発協力のための融資を行っている世界銀行においては、本件文書に相当する融資契約を一般に公開しており、本件文書の公開が相手国との信頼関係を損なうという主張は蓋然性が薄い。
第二に、文書に含まれる情報にはすでに公とされている情報、その他公にしても信頼関係を損なうには至らない情報も含まれているはずであるにも関わらず、本件処分は本件文書を一括して不開示としている。外務大臣は、本件文書に含まれるいかなる情報が、信頼関係を損なうことにどのようにつながるのかを明らかに示すべきである。
<不開示事由:第5条6号(事務・事業に関する情報)>
本件処分は不開示事由の1つとして、本件文書が有償資金協力業務に関する情報であって、公にすることにより、業務の適切な遂行に支障を及ぼすおそれがあるためとしている。
本号については、行政情報が公開されることは情報公開制度の中核をなし、その適用においては限定的な解釈が求められ、「支障」の実質性、「おそれ」の蓋然性について、慎重な検討が要求されるものと言える。
これまで述べてきた通り、本件文書に含まれる情報の開示が、相手国政府との信頼関係を損ね、将来の国際協力銀行による融資交渉に支障をきたすとの主張は、必ずしも根拠が明らかでなく、法的な保護に値する蓋然性は示されていない。また有償資金協力業務の公共性を上回るだけの保護法益があるとは言えない。さらに、本件文書を公開することにより、国際協力銀行による融資業務の透明性が高まり、有償資金協力業務の適切な遂行に貢献するものと思われる。したがって、本件文書について6号は適用されるべきではない。
<部分開示>
上に述べた通り、外務省の説明によれば、本件文書の不開示における理由は相手国政府の信用に関する情報が含まれていることにあるように思われる(詳細な根拠は理由付記の不備のため明らかではない)。しかしながら、本件文書には相手国政府の信用に関わらない情報も多数含まれている。文書の一部の情報を理由に本件文書全体を不開示にした本件処分は、行政文書の開示を定めた情報公開法第5条及び部分開示を規定している同法6条に違反する。
(4)以上から、本件処分の取消しを求めて本申立に及んだ。
第6項 処分庁の教示の有無及びその内容
「決定に不服があるときは、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第6条に基づき、この決定があったことを知った日の翌日から起算して60日以内に外務省に対して異議申し立てをすることができます。」との教示があった。
第7項 その他
(1) 添付書類 メコン・ウォッチ役員名簿