ホーム > 資料・出版物 > プレスリリース > 「コンクリートではなく人を大切にする政治」の視点で対外援助も見直しを
2009年10月3日
本日、カンボジアのシアムリアップで開催される第2回日メコン外相会議に岡田克也外務大臣が出席します。メコン河流域の開発や経済協力が人々の生活を脅かさないよう、調査研究や政策提言を行うNGOメコン・ウォッチは今回の会議にあたり、鳩山新政権が打ち出した「コンクリートではなく人を大切にする政治」の視点から、インフラ重視の経済開発支援を見直し、メコン河の豊かな河川生態系とそれに基づく人々の生活を破壊しないような対外援助戦略を構築するべきであると考えます。
2009年1月16日の第1回日メコン外相会議では、ODAと貿易投資促進を有機的に結びつけ協力を促進し、「日メコン地域パートナーシップ・プログラム」に基づくODA拡充、「開発の三角地帯」支援案件候補リスト(約2000万ドル)を決定、東西回廊等の物流円滑化支援(約2000万ドル)することが高村正彦元外相から表明されています。また、「日メコン協力」として「信頼・発展・安定」をキーワードとして、包括的協力姿勢を示す、ともされました。それぞれ「信頼」を実現するための青年招聘、「発展」のためのODAと貿易・投資の有機的連携、東西回廊物流効率化支援、「安定」を促す国境を越えた問題への対処、ミャンマー情勢、が重点項目として挙げられていました。
しかし、「日メコン地域パートナーシップ・プログラム」はメコン地域の人々の生存・生活・尊厳の確保とその豊かな可能性の実現を目標としながらも、地域経済の統合・連携と日本とメコン地域の貿易・投資の拡大を謳っています。また、「開発の三角地帯」支援案件候補も、インフラ整備に重点を置いたリストであり、従来の経済発展に重点を置いた開発がその優先事項となっています。
http://www.mofa.go.jp/Mofaj/area/j_mekong/0801_clvl.html
中国はメコン河本流で積極的にダム開発を進めていますが、現在、メコン河流域で生活する人々は、ダム建設を中心とした河川開発による環境変化の脅威に直面しています。流域の多くの人々はメコン河が育む豊かな自然に根ざした生活を営んでおり、河川環境の破壊は地域の食糧安全保障を脅かします。国境を越え影響を受ける恐れのある下流の市民からの意見を開発に反映させるシステムは、現状では存在していません。日本は、他の国際ドナーや新興国とともに、メコン流域国における環境・社会配慮のための制度向上に積極的に取り組むべきであり、自然や社会の破壊を伴う恐れのある開発を歓迎すべきではありません。
http://www.mekongwatch.org/env/yunnan/dams/index.html
また、政策や制度の改善よりもインフラ開発支援に重点を置く従来の日本政府の姿勢は、流域政府の開発に対する誤った態度を助長する危険があります。カンボジアでは、強制立ち退きの問題が深刻化しており、それを憂慮した世界銀行、アジア開発銀行や各国ドナーが今年7月16日に、「カンボジアの都市貧困層への立退きの停止を求める」と題する声明を出しましたが、オーストラリア、ドイツ、イギリス、アメリカなど多くの国々が名を連ねる中、日本政府の名前はありません。このような状況下においても無償資金協力によりインフラ整備に支援し続ける日本政府の姿勢は、カンボジア政府が開発に伴う適切な補償制度を構築していくことへの妨げとなる恐れがあります。
http://www.mekongwatch.org/env/cambodia/evictions/index.html
ビルマ(ミャンマー)に対しては、ここ数年はインフラ整備こそ行っていないものの、民主化を求める国民ではなく軍事政権を支援する態度が目立っています。 外務省は、軍政体制の存続を保証する新憲法に基づいた総選挙の実施を支持しており、先月8月には、過去にアウンサンスーチー氏の暗殺を狙ったとされる事件を指揮した軍政の大衆翼賛団体「連邦連帯開発協会」のテーウー総書記を日本に招待しました。また、日本政府は、ビルマの天然ガス開発に権益を持っている日石ミャンマー石油開発へ出資もしており、現在の軍政を政治的・経済的に支援しています。
ラオスにおいては、河川開発と並び産業植林が人々の生活に大きな変化を強いています。「日メコン地域パートナーシップ・プログラム」では、天然ゴム産業振興が考慮されています。しかし、ラオスでは自給的な農業や林産物の採取の場である森林を破壊する大規模な産業植林事業が、農村部の人々の食糧安全保障を脅かし始めています。これからの開発事業には、経済効果だけではなく、環境・社会面の慎重な検討が求められます。
経済成長の優等生であったタイにも陰りが見えています。ODAで整備され、日本企業の海外進出の受け皿となった東部臨海工業地帯は、今年、同国の公害管理地域に指定されました。これは、日本で起こった負の経験を再び繰り返すものといえます。また、現在のタイの政治的混乱は、貧富の格差の拡大といった構造的な問題が根本に存在しています。最大の援助国の一つであった日本は、対タイODAの経験を正負の両面から慎重に評価し、今後の援助政策に生かすべきでしょう。
日本の新政権は、「コンクリートではなく人を大切にする政治」を目指すことを表明しましたが、メコン・ウォッチはこのような新しい視点に基づき、新政権が現在の経済開発を見直し、メコン河の豊かな河川生態系とそれに基づく人々の生活を破壊しない開発戦略を構築することを強く希望します。
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