ホーム > 資料・出版物 > プレスリリース・要請文>ビルマ(ミャンマー)・ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業 早期開発区域の住民移転に関する緊急要請書
メコン・ウォッチは2013年9月27日、下記の要請書を外務大臣及び国際協力機構理事長宛てに 提出いたしました。
>> 要請書本文(PDF)
2013年9月27日
外務大臣 岸田 文雄 様
国際協力機構 理事長 田中 明彦 様
ビルマ(ミャンマー)・ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業
早期開発区域の住民移転に関する緊急要請書
特定非営利活動法人メコン・ウォッチ
代表理事 福田健治
現在、貴機構が海外投融資の支援(出資)を検討しているビルマ(ミャンマー)・ティラワ経済特別区(SEZ)(早期開発区域)開発事業について、用地取得や移転の対象となる住民に対して、移転や補償への合意文書の署名の強要や脅しともとれる発言など、人権侵害の疑いが生じています。
これまで私たちは、この早期開発区域(約400 ha)に関し、ビルマ政府が策定中の住民移転計画(RAP)が、今後策定されるRAP(つまり、SEZ早期開発区域以外の約2000 ha、および、今年6月に貴機構が融資契約を締結された「ティラワ地区インフラ開発計画フェーズ1」の開発地域で発生する住民移転対策)の試金石にもなりうる大変重要な位置づけにあることから、貴機構への意見書(2013年7月4日付)の提出や貴機構との会合の場を通じ、特に「RAP最終版が策定されるまでの現段階のプロセスにおいて留意すべき8点」について強調してきました。その結果、貴機構からもビルマ政府当局に対し、住民移転のプロセスにおいて配慮すべき点等に関するご助言があったものと理解しております。
しかし、去る2013年9月21日に住民移転に関する住民協議会が開催されて以降、昨日(9月26日)までの間に、特に協議プロセスや情報公開、また、合意取得に関して、以下のような大変懸念すべき状況が生じています。
(1)9月21日の住民協議会での当局からの説明によれば、住民が当局と協議可能な内容の範囲は、当局が作成したRAPドラフト版に提示されている項目に限定されるとのこと。多くの農民(約2000ha内で影響を受ける農民を含む)が懸念を示している農地の喪失に係る補償措置については、「ヤンゴン管区政府と裁判所で話し合う」よう、当局の脅しともとれる一方的な説明がなされたのみである。
(2)9月21日の住民協議会で配布されたのは、RAPドラフト版の要約版のみであり、RAPドラフト版の全文は公開されていない。
(3)9月21日の住民協議会にて、RAPドラフト版に関する意見がある場合は9月30日までに当局事務所に意見を提出するよう求められたため、9月23日、約40名の住民(ティラワSEZ予定地400ha内、および、2000ha内の影響住民両者を含む)が意見を述べるため、指定の当局事務所を訪問した。しかし、「早期開発区域(400ha)に係る影響住民でない」ことを理由に、担当者は「2000haに係る影響住民」との面会を拒否。その後、住民側は400haに係る影響住民も含む全員が一度その場を立ち去ったが、再度、数人の住民が事務所を訪問し、翌9月24日の面会に関する約束を担当者から取りつけた。9月24日に行なわれた担当者との会合では、住民が述べた意見に対し、担当者からの真摯な対応・回答はなされずに終わった。
(4)9月24日、村の行政官が早期開発区域(400ha)の各影響住民の家を訪れ、「(移転・補償に関する合意文書への)署名をしなければ、一切補償を受け取ることはできないだろう。」「署名しなければ、今の家をブルドーザーで壊される。」等の脅しともとれる発言があった。
(5)9月25日、当局が早期開発区域(400ha)に係る影響住民を当局事務所に召集し、対象影響住民81世帯中、約60世帯が参加。影響住民は、これまでに提示された補償内容に基づく補償額の算定結果(つまり、RAPドラフト版の内容に基づく補償額。但し、補償額に変更があった場合には、補償額も変更する旨の注記有り。)に合意する文書への署名を求められた。結果として、これまでに影響住民の多くが合意文書への署名をした。
(6)9月26日、村の行政官は再び、早期開発区域(400ha)内で、上記の文書に署名をしていない影響住民に対し、署名するように呼びかけた。
上記のような状況は、明らかにJICA環境社会配慮ガイドラインの以下の規定に違反しています。
「別紙1 対象プロジェクトに求められる環境社会配慮
非自発的住民移転
3. 非自発的住民移転及び生計手段の喪失に係る対策の立案、実施、モニタリングには、影響を受ける人々やコミュニティーの適切な参加が促進されていなければならない。また、影響を受ける人々やコミュニティーからの苦情に対する処理メカニズムが整備されていなければならない。
4. 住民移転計画の作成に当たり、事前に十分な情報が公開された上で、これに基づく影響を受ける人々やコミュニティーとの協議が行われていなければならない。」
そもそも、依然として、RAPドラフト版の内容について協議が行なわれている段階であるにもかかわらず、ビルマ政府当局が、移転・補償に関する合意文書への署名を影響住民に求めていることは、本末転倒です。また、ビルマ政府当局による発言は、明らかに脅しの要素が含まれており、上記の合意文書への署名を強制された影響住民が少なからずいるであろうことは、大変憂慮すべき事態と考えます。
従って、私たちは、貴省、および、貴機構に以下の点を強く要請します。
i.現在、ビルマ政府当局が進めている移転・補償に係る文書への「合意」取得プロセスについて、RAP最終版が策定されるまで停止するよう、早急に申し入れること。
ii.すでに影響住民が合意文書に署名したケースについても、RAPがいまだ策定中であること、脅しともとれる署名の強要があった疑いがあることに鑑みて、そのような合意は、国際的な基準に照らせば「合意とはみなされない」旨、ビルマ政府当局に伝達すること。
iii.今後のRAPドラフト版に関する協議にあたって、ビルマ政府当局が以下の点に配慮するよう申し入れること。
(a)RAPドラフト版を住民が十分に閲覧・理解する期間を設けた上で、意見交換が十分にできるよう、複数回にわたる協議の場を設定すること。
(b)RAPドラフト版の全文を公開すること。
(c)幅広いステークホルダーの参加を確保すること。
(d)合意を住民に強要するような発言をしないよう、十分留意すること。
本要請書にご配慮いただき、迅速にご対応いただけるよう、よろしくお願い致します。
以上
連絡先:
特定非営利活動法人メコン・ウォッチ
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Tel: 03-3832-5034, Fax: 03-3832-5039
担当:満田夏花 携帯電話:090-6142-1807
Cc: 財務大臣 麻生 太郎 様
経済産業大臣 茂木 敏充 様
外務省 開発協力適正会議 各委員
JICA 環境社会配慮ガイドライン異議申立審査役
JICA 環境社会配慮助言委員会 各委員