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ホーム > 資料・出版物 > プレスリリース・要請文>メコン本流ダム>安倍首相は、日・アセアン首脳会議で、ラオスに関係諸国との十分な協議の呼びかけを

【要請】
安倍首相は、日・アセアン首脳会議の場で、ラオス政府首脳に、
メコン河開発をめぐり関係諸国と十分に協議するよう働きかけを

日本政府は、12月13日より三日間、東京で、日本・東南アジア諸国連合(アセアン)首脳会議を開催します。
メコン・ウォッチでは、この機会に、メコン河流域で論争となっている本流ダム建設について、安倍晋三首相に対して、昨日12月10日、要請書簡を提出しました。要請の趣旨は、「(首脳会議に参加予定の)ラオス政府に対して、メコン協約の精神に立ちかえり、本流ダムの建設をいったん中止し、科学的な追加調査の結果を基に、市民社会も交えて、関係諸国と十分な協議を実施するよう強く働きかけること」です。

以下、本文(全文)を紹介いたしますので、ぜひ、ご一読下さい。

>> 要請書本文(日本語版PDF) (英語版PDF)


2013年12月10日

内閣総理大臣
安倍晋三殿

【件名:要請 安倍首相は、日・アセアン首脳会議の場で、ラオス政府首脳に、
メコン河開発をめぐり関係諸国と十分に協議するよう働きかけを】

前略

私たちメコン・ウォッチは、東京に事務局を置く特定非営利活動法人で、1993年の設立以来、東南アジア・メコン河流域の開発について調査・提言活動を行ってきました。その知見に基づき、2013年12月13日〜15日、東京で開催される日本・東南アジア諸国連合(アセアン)首脳会議の場で、安倍晋三首相が、ラオス政府首脳に対して、メコン河の開発をめぐり関係諸国と十分に協議するよう働きかけることを要請いたします。

メコン河の環境と資源を脅かす本流ダム建設
中国・チベット高原に源流を発し、ミャンマー(ビルマ)、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムを流れるメコン河は、全長4,900`に達し、魚類の多様性が世界第2位を誇る世界最大の淡水漁場です【注1】。漁獲高は、下流域だけで年間75〜210万d、経済価値は、4,200〜7,600億円(小売価格)にのぼると推定され【注2】、約6,000万人の流域住民、とりわけ貧困層にとって、貴重な食糧・収入源となっています。

しかし、今、メコン河の環境と自然資源が、本流での大型ダム開発によって破壊されようとしています。11か所のダム計画のうち、現在、ラオス政府が、サイヤブリダムとドンサホンダムの2か所のダムの建設を進めています。本流での開発事業は、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムの4か国で構成するメコン河委員会の場で協議することが、4か国の署名した「メコン河流域の持続的な開発のための協力に関する協定」(通称「メコン協約」)によって義務付けられています。ところが、ラオス政府は、メコン協約の精神を無視し、他の加盟国ときちんと協議しようとしません。メコン河委員会の協議手続きにも不備が多く、ラオス政府の独断専行を止めることができません。

2010年10月、メコン河委員会は、ラオス政府のサイヤブリダム建設計画(1,260メガワット)【注3】について協議を始めました。サイヤブリダムが魚類の回遊や栄養分の移動を妨げ、下流のトンレサップ湖やメコンデルタの生産性を損なうことを懸念したカンボジア、ベトナム両政府が計画に異議を唱えたこともあり、2011年5月、ラオス政府は、すでに始めていた工事をいったん中断すると発言しました。そして、2011年12月、メコン河委員会の理事会(担当大臣会議)は、本流ダム計画全体が流域に及ぼす影響について追加調査を実施し、調査のための資金援助を、日本政府などの「開発パートナー」に求めることで合意しました【注4】。ところが、ラオス政府は、結局、工事を中断することもなく、その後、ダムの設計を変更したことなどを理由にあげて、加盟国の同意も得ないまま、サイヤブリダムの建設を進めています。日本政府をはじめ開発パートナーが要請した設計変更の詳細も未だに公開していません【注5】。

そして、今年9月、ラオス政府は、あらたに、ドンサホンダム建設計画(260メガワット)【注6】をメコン河委員会に通知しました。ドンサホンダムは、水量の少ない乾季に魚が回遊する流れをふさぎ、川イルカ(絶滅危惧種)の生存を脅かすなどの危険性があります。そのため、2007年5月、30名以上の科学者が、「(わずか260メガワットのダム建設のためには)おそらく最悪の地点」であり、地元の漁業や観光業を破壊することで、「ラオス国民のためにもならない」と関係諸国や国際機関に対し警告を発しました【注7】。ところが、ラオス政府は、ドンサホンダムは本流ダムではなく、メコン河委員会の場で協議する必要もないと主張し、建設工事を進めようとしています。タイ、カンボジア、ベトナム政府は、ラオス政府に対して、それぞれ、ドンサホンダムをめぐる協議を実施するよう要請を提出しました【注8】。また、日本政府をはじめ開発パートナーも、今年6月の非公式会合で、ラオス政府に対して、ドンサホンダムについてメコン河委員会で協議するよう求めています【注9】。

食糧安全保障と地域協力の危機
サイヤブリダムとドンサホンダムの建設は、ラオスも含めたメコン河流域全体に、大きな問題をもたらします。第一に、メコン河本流でダム建設が加速し、メコン河の生態系が大打撃を受けます。メコン河委員会が2010年に公表した「戦略的影響評価」は、11か所の本流ダムによって、メコン河の55%で生態系が大きく変貌し、魚類が26〜42%も減少するなどの点を警告したうえで、結論として、本流ダムすべての建設を10年間棚上げし、詳細な追加調査を実施することを提案しています【注10】。魚類の激減は、動物性たんぱく質の摂取を魚類に依存する人びとの食糧の安全保障を脅かし【注11】、流域諸国の経済・政治上の不安定化を招きかねません。メコン河流域諸国の不安定化は、アセアン全体にとっても、日本政府にとっても、非常に大きなリスクです。

第二に、メコン河委員会の共同管理機関としての存在意義が大きく損なわれます。メコン河では、上流域でも、中国政府がすでに6か所の巨大ダムの建設を終え、下流国から影響を懸念する声があがっています。中国は、メコン河委員会に正式加盟しておらず、メコン河開発をめぐって下流国と協議する枠組みが存在しません。下流国間の協力が有名無実化すれば、下流国が、中国も交えて、メコン河の共同管理を実現する可能性がますます遠のきます【注12】。

安倍首相への要請
折しも日本政府は、12月13日〜15日、東京で、日・アセアン首脳会議を開催します。期間中には、日・メコン首脳会議や二国間の首脳会談も開催されると報じられています。私たちは、安倍首相が、この機会を利用して、ラオス政府首脳に対して、メコン協約の精神に立ちかえり、本流ダムの建設をいったん中止し、科学的な追加調査の結果を基に、市民社会も交えて、関係諸国と十分な協議を実施するよう強く働きかけることを要請いたします。

日本政府は、現在、メコン河委員会から、本流ダムの影響を追加調査するための資金援助を求められています。この追加調査が科学的に行われ、関係諸国間での合意形成に資するためには、ラオス政府が、ダム建設をいったん中止する必要があります。同時に、メコン河委員会の協議手続きには不備が目立つため、市民社会に対してきちんと情報を公開し、意見を求めることが最低条件となります。

安倍首相は、すでに、2007年5月、ブアソーン・ブッパーヴァン・ラオス首相(当時)との首脳会談で、「(ラオスの)長期的な経済的繁栄のためには、自由、民主主義、基本的人権、法の支配、良い統治といった基本的価値が重要である」との認識を示しています【注13】。ラオス政府にとって、科学的な調査に基づき、市民社会も交えて、関係諸国と協議を尽くすことが、まさしくこの基本的価値に合致します。

豊かな環境と自然資源に恵まれたメコン河の共同管理と関係諸国を交えた協議・協力を促す積極的な役割を果たすことが、これからの日本政府とアセアン/メコン河流域諸国との友好関係を発展させるためにも、きわめて有意義な外交的手段であると固く信じております。

敬具

特定非営利活動法人メコン・ウォッチ
代表理事
福田健治

【注】
【1】『自然と私たちの未来を考える〜メコン河流域と日本〜』(メコン・ウォッチ2013年)12頁http://www.mekongwatch.org/platform/bp/japanese1-3.pdf
【2】前掲『自然と私たちの未来を考える』14頁http://www.mekongwatch.org/platform/bp/japanese1-4.pdf
【3】サイヤブリダム建設計画の概要や問題点は、http://www.mekongwatch.org/report/tb/Xayaburi.html
【4】“Minutes of the 18th meeting of the MRC Council, 8 December 2011 in Siem Reap, Cambodia” 21段落 http://www.mrcmekong.org/assets/Publications/governance/Minutes-of-the-18th-Council.pdf
【5】“Report: Informal donor meeting, 27-28 June 2013 Phnom Penh, Cambodia” 22頁 http://www.mrcmekong.org/assets/Publications/governance/Report-IDM-2013-Complete-set-final.pdf
【6】ドンサホンダム建設計画の概要や問題点は、http://www.mekongwatch.org/report/tb/Donsahong.html
【7】“A letter from scientists concerned for the sustainable development of the Mekong River” http://www.internationalrivers.org/files/attached-files/don_sahong_scientists_letter.pdf
【8】“Viet Nam joined other MRC Member Countries calling Prior Notification for Don Sahong Project” http://www.vnmc.gov.vn/newsdetail/355/viet-nam-joined-other-mrc-member-countries-calling-prior-notification-for-don-sahong-project.aspx
【9】前掲“Report: Informal donor meeting, 27-28 June 2013” 2頁
【10】「メコン河の命運を占う〜メコン河委員会(MRC)による本流ダム戦略的環境評価(SEA)のまとめ(インターナショナルリバーズ作、メコン・ウォッチ訳2011年)1頁 http://www.mekongwatch.org/PDF/SEAfactsheet(20110409).pdf
【11】国連食糧農業機構(FAO)の統計などをもとに、年間1人あたりの淡水魚消費量を算出すると、世界平均2.3`に対して、ベトナム34.5`、カンボジア32.3`、タイ24.9`、ラオス24.5`となる。前掲『自然と私たちの未来を考える』14頁
【12】日本政府・外務省は、「『グリーン・メコンに向けた10年』イニシアティブに関する行動計画」(2010年10月29日)において、「メコン河委員会を通じて総合水資源管理(IWRM)のアプローチを促進していく」(「3.2各分野の行動(2)水資源管理」)とうたっている。http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/j_mekong_k/s_kaigi02/gm10_iap_jp.html メコン河委員会の弱体化で、こうしたアプローチは見直しを迫られる。
【13】「日ラオス首脳会談に関する共同プレス発表」3段落 http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/laos/visit/0705_kp.html

(文責 メコン・ウォッチ)

 

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