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ホーム > 資料・出版物 > プレスリリース・要請文>ビルマ・ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業>「異議申立人に対する人権侵害の疑いについて」 JICAに要請書を提出

ビルマ・ティラワ経済特区>「異議申立人に対する人権侵害の疑いについて」 JICAに要請書を提出

2014年9月18日

国際協力機構(JICA)の政府開発援助(ODA)の下、日本の官民が連携して進めているビルマ(ミャンマー)・ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業(※)については、移転に伴う生活悪化の問題をめぐり、今年6月2日に現地住民3名がJICAへの異議申し立てを行ないました。

その後、7月5日には、JICA異議申立審査役による本格的な調査が開始され、当初は約2ヶ月で報告書が発表される予定でしたが、異議申立手続きに則り、同調査期間は2ヶ月(最長で11月4日まで)延長。現在も、審査役による調査が続けられています。(http://www.jica.go.jp/environment/objection.html

しかし、その審査役による調査が継続されている最中にも、現地では、申立人に対するビルマ政府当局による人権侵害の疑いが生じています。同申立人は、移転先での生活維持が困難なことから、これまで移転を拒んできましたが、現在、訴訟の可能性についても言及されるなど、早急に移転するよう当局からの圧力がかけられています。移転先では、まだ具体的な生計回復措置はとられておらず、このまま移転しても、生計が悪化するのは目に見えている状況にもかかわらずです。

こうした明らかに脅迫に等しいと考えられる言動をビルマ政府当局がとっていることについて、メコン・ウォッチは、ビルマ政府当局が訴訟や強制退去など、強制的な措置をとらぬよう、JICAに要請する書面を本日提出しました。同要請書のなかでは、「生活水準の改善、少なくとも回復」というJICA環境社会配慮ガイドラインの規定に則り、移転先での具体的かつ実効性のある生計回復措置が実施されるまで、住民との対話を継続することも求めています。

以下、要請書の本文です。

>> 要請書本文(PDF)


2014年9月18日

独立行政法人国際協力機構 理事長 田中 明彦 様


ビルマ(ミャンマー)・ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業
異議申立人に対する人権侵害の疑いについて

特定非営利活動法人メコン・ウォッチ
代表理事 福田健治

 

 現在、JICAが海外投融資(出資)を行なっているビルマ(ミャンマー)・ティラワ経済特別区(Class A区域)開発事業、および、協力準備調査を実施中のティラワ経済特別区(SEZ)整備事業については、今年6月2日、住民3名が異議申立書を異議申立審査役(以下、審査役)に提出後、7月5日から異議申立手続きが開始されています。また、9月4日までとされていた調査期間については、2ヶ月間の延長手続きがとられ、現在も異議申立手続きに係る調査は継続されていると理解しております。

 これまで私たちは、審査役によるJICA「環境社会配慮ガイドライン」(以下、ガイドライン)の遵守・不遵守にかかる事実の調査、また、当事者間の対話の促進に係る業務等について、審査役との会合やペーパーの提出等を通じ、意見交換をさせていただいておりますが、この調査期間中にも、以下のような大変憂慮すべき人権侵害が生じていることから、早急にしかるべき対応をとっていただきたく、本要請書を提出致します。

<問題状況の背景>

 上記異議申立書の申立人の1名は、同申立書において、また、過日7月19日の審査役との直接面談において陳述【1】しているとおり、補償金を一部受け取ったものの、これまでと同様の生活水準を移転先で維持できないことから、当局に提示された補償金の全額受け取りを拒み、同SEZ早期開発区域(400ヘクタール)内での生活を続けている。また同時に、移転先でも同様の生活水準を維持できるよう、適切な補償・生計回復措置を求めてきた。

<人権侵害の状況>

(1)2014年8月22日
ヤンゴン管区政府が上記申立人を政府機関の事務所に呼び、「残りの補償金を受領し、移転するよう」伝えると同時に、「補償金を受け取らず、移転もしなければ、政府は(申立人を)裁判で訴える。」と発言。

(2)2014年9月11日
ヤンゴン管区政府、タンリン郡政府の高官ら、および、アルワンソ村の村長が、上記申立人の400ヘクタール内の居住地を訪れ、「補償金の一部を受け取っているのだから、可能な限り早急に、ここを出て移転地に移るよう」伝えるとともに、「残りの補償金を受領するよう」伝えた。また、同申立人に対し、ある書面を提示しながら、「(同申立人への)訴訟命令がある。」と説明。しかし実際、同申立人はビルマ語の読み書きがあまり得意でなく、その書面をその場で読むことはできなかった。また、同書面は同申立人の手元には残されていないため、現在も、同書面の内容は確認できない状況にある。

 住民3名による異議申立後、住民グループ、現地政府当局、JICA間での対話の場がすでに2度持たれてはいますが、依然として、移転先での具体的な生計回復措置の実施にはつながっていない状況のなか、上記のようなビルマ政府当局による明らかに脅迫に等しいと考えられる要素が含まれている言動は、大変憂慮すべきものと考えます。ビルマ政府当局がプロセスの説明という意図で発言していたとしても、長年の軍事政権下で、政府の言質を受け入れるしかない住民が依然として多い背景を考慮し、「社会的弱者への配慮」を謳うガイドラインのとおり、政府の認識と住民の受けとめ方が異なる点に留意が必要です。

 また、このように実際、申立人が脅迫・嫌がらせを受けている事実は、JICAへの異議申立てをしたことによる不利益であるかは定かでないにせよ、そのように見做される可能性もあることから、今後の異議申立制度の有効性や信頼性を損なう可能性もあると考えます。

 従って、私たちは、早急にビルマ政府当局に事実を照会の上、上記のような住民に対する脅迫に等しい言動や訴訟、強制退去といった強制的な措置をとらないこと、また、「生活水準の改善、少なくとも回復」というガイドラインの規定に則り、移転先での具体的かつ実効性のある生計回復措置が実施されるまで、現在行なわれている住民との対話を継続することについて、JICAがビルマ政府当局に対し申し入れるよう、強く要請します。

 本要請書にご配慮いただき、迅速にご対応いただけるよう、よろしくお願い致します。

以上

連絡先:
特定非営利活動法人メコン・ウォッチ

Cc:  外務大臣 岸田 文雄 様
JICA 異議申立審査役
JICA 環境社会配慮助言委員会 各委員

註【1】同申立人はまた、7月19日の審査役との直接面談において、移転先でも家畜を飼育可能な代替の場所や、より広い居住区を要求していたことから、合意書に署名をしたくなかったものの、「署名しなければ、ヤンゴン管区政府と裁判になる。」と脅され、やむを得ず、合意書に署名した経緯についても陳述している。


※ミャンマー・ティラワ経済特別区(SEZ)
開発事業パッケージ型インフラ事業として、日本の官民を挙げて進められている。ヤンゴン中心市街地から南東約23kmに位置するティラワ地区2,400ヘクタールに、製造業用地域、商業用地域等を総合的に開発する事業。フェーズ1(400ヘクタール)にODA海外投融資による出資をJICAが決定。三菱商事、住友商事、丸紅が参画。JICAは残り2,000ヘクタールにおいても協力準備調査を実施中で、環境アセスメントや住民移転計画の策定を支援している。フェーズ1は2013年11月に着工し、68家族(約300人)がすでに移転。残り2,000ヘクタールの開発では、さらに1,000家族以上(約4,000人)が移転を迫られることになる。
ティラワ経済特別区(SEA)開発事業についての詳細はこちら
http://www.mekongwatch.org/report/burma/thilawa.html

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