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開発協力大綱案についてのパブリックコメントを提出

 

新・開発協力大綱案(ODA大綱から改名)へのパブリックコメントに対し、メコン・ウォッチでは国際環境NGO FoE Japanと共同で以下の意見を提出しました。

 

 

>PDF版は こちら

 

開発協力大綱案についての意見提出の件

2014年11月27日

 

この度の大綱見直しに当たり、国際環境NGO FoE Japanと特定非営利活動法人メコン・ウォッチは共同で以下の意見を提出いたします。

 

現状の認識について

本大綱が、国際社会の急激な変化や各種問題があるなか「一人ひとりの良き未来のために」をめざし、開発協力を行うという主旨であることは歓迎いたします。しかし、大綱を見直す前提として「非国家主体の影響力の増大」を認める一方、「平和で安定し、繁栄した国際社会の構築は、我が国の国益と益々分かちがたく結びつく」、「世界が抱える課題の解決に取り組んでいくことは我が国の国益の確保に不可欠」とし、日本の「国益」を追求することが謳われていることには、懸念を持たざるを得ません。現在、世界には195の国があり、多様で複雑な利害関係を持つ社会が形成されています。その中の一つの国家である日本の「国益」が、世界の人びとの「一人ひとりの良き未来のために」どのように関連しているのか不明確であり、かつ、日本の国益について国内で国民的合意もありません。
世界の一人ひとりの良き未来のために平和で安定し、繁栄した国際社会の構築が必要なのは議論の余地がないことですが、国民の共通理解のない「国益」の確保を大綱に盛り込むことについては反対です。よって「繁栄した国際社会の構築は我が国の国益と益々」の部分を「繁栄した国際社会の構築は我が国の生存と益々」と変更、また、「さらに、我が国自身の経済社会状況…(中略)…我が国の国益の確保にとって不可欠となっている。」の部分を削除することを提案します。

 

T理念
(1)開発協力の目的 について

・日本の現状についての楽観的すぎる分析

日本は現在、少子高齢化により第2次世界大戦後に築いてきた福祉やセーフティネットの維持に困難をきたし、その解決の道を模索中です。また、東日本大震災後の福島第一原発の事故は未だ終息せず、今も環境中に大量の放射性物質を放出し、そこで働く多くの人々が将来健康被害を受けるリスクを背負いながらその処理にあたっています。更に、福島とその周辺から避難した人びと12万人は、未だに将来の見通しの立たないまま生活を送っているのです。
雇用の分野では非正規雇用が増加し、経済格差の増大が社会的な課題となっています。また、世界経済フォーラム(WEF)が発表する国際男女格差レポート(The Global Gender Gap Report)の2014年版では、日本は調査対象142カ国中104位であり、日本はジェンダーにおいても平等な社会を築けているとは言えません。
本大綱案では日本が「世界でも類まれな高い経済成長と格差の小さい平和で安定した社会を実現し」とありますが、日本が直面する課題の多くは、このように未だその回答や明確な解決策が示されておりません。それらを踏まえれば、「独自の経験と知見は、世界が現在直面する開発課題の解決に役立つ」と安易に日本の経験を是として世界に貢献できるとするのは、短絡的であると考えます。

(2)基本方針 について

イ)において人間の安全保障の推進を詳しく述べていることは歓迎いたします。しかし、ウ)の「相手国の自主性、意思及び固有性を尊重し」と述べている点の、「相手国」を示す範囲が相手国政府のみという認識であれば、問題です。過去のODAでは、開発を進める相手国政府と住民との間に大きな軋轢が生まれたことは、忘れてはならない点です。
例えば、タイのサムットプラカン汚水処理場事業では、現地政治家が不正に土地権を発行した場所に事業地が移され地元住民の大反対にあい、更に政権交代によって事業が中止となり、タイの国民に全く裨益せず、借款返済の義務のみを残しました。カンボジアでは政府の認可した民間事業による住民の強制移転が頻発し、40万人もの人が農地や生活の場を失う、または失う恐れがあり、全国で大きな問題となっています。またビルマ(ミャンマー)では債務の多い国に対し日本の円借款を返済した場合、同額の無償援助を行なうという債務救済無償資金協力に関し、2002年の調査で、4年間のうち50億円もの使途不明金が見つかった上に、ミャンマー木材公社が26億円近くを伐採用重機などの購入に充てていたことも明らかになっています。この伐採からの収益は、軍事政権下で軍の増強にあてられたとみられています。フィリピンでは、バタンガス港開発事業での軍隊による住民の強制排除で流血の惨事にまで至り、(当時、日本が円借款供与を検討中であった)アグノ川統合灌漑事業(サンロケ多目的ダム開発事業・灌漑部門)に反対の声をあげた農民団体代表が暗殺されるなど、深刻な人権侵害が問題となりました。現在でも、ODAの開発現場に「護衛」を名目として軍・警察が配備され、開発に反対する住民・市民団体への人権侵害を引き起こしています。インドネシアのコトパンジャン・ダムでは、被害住民が原状回復や損害賠償を求め、日本国、JICA、東電設計を相手取っての訴訟を日本で起こしたことはまだ記憶に新しいはずです。
このようにガバナンスが脆弱な国で、相手国政府の意向のみを尊重しては、居住する住民に多大な被害をもたらすだけでなく、そこから生まれる不平等は、将来的にその地域の安定を脅かすものとなる可能性があります。
よって、「相手国の自主性、意思及び固有性を尊重し」を「相手国における社会的合意を尊重し」に変更することを提言します。

 

U重点政策
(1)重点課題
ア)質の高い成長とそれを通じた貧困撲滅 について

「貧困問題を持続可能な形で解決するためには(中略)民間部門の成長等を通じた経済成長の実現が不可欠」と表記されていますが、人びとの生活には、経済的な発展のみではなく、安全な水や空気、食料を提供してくれる自然環境や生物の多様性が担保されることが必要です。いわゆる低開発国において、環境の劣化は人びとの貧困に直結する問題であるという認識を大綱に反映させるべきです。

イ)普遍的価値の共有、平和で安全な社会の実現 について

自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配など、普遍的価値の共有が不可欠なことには議論の余地はありませんが、日本の開発援助が、それらの価値観を脅かしているという声も、援助対象国から上がっている過去を無視することはできないと考えます。つい先ごろもビルマのカレン民族平和支援ネットワーク(KPSN)から、国際協力機構(JICA)が調査を実施中の「ミャンマー少数民族のための南東部地域総合開発」に対し、懸念の声が上がりました。KPSNはビルマ中央政府によるカレン少数民族地域の天然資源の搾取と土地権の無視が、この地域における60年以上におよぶ紛争の主因であることを指摘しています。また、JICAがそうした背景を十分に認識せず、コミュニティーとの適切な協議をせぬまま計画を進めれば、和平構築を支援するどころか、対立を煽ることになると警鐘を鳴らしています。このような懸念の声は、過去にアジア各国の市民から多数上がってきています。新しい大綱は、このようなODAへの異論を踏まえたものになるべきです。
更に「安定・安全への脅威は、経済社会発展の阻害要因となることに鑑み、海上保安能力を含む法執行機関の能力強化」とありますが、特定の国の「海上保安能力」の強化に支援することは、間接的に被支援国とその相手国の紛争に加担することに繋がりかねません。これは、日本の憲法9条1項「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」に抵触すると考えます。また、テロ対策などで「治安維持能力強化」としている点についても、ガバナンスが脆弱な国における警察等の治安維持機関への支援は、市民に対する人権侵害の増加につながりかねない難しい問題です。このような支援項目を、具体的に大綱に盛り込むことについて、反対いたします。

 

V実施
(1)実施上の原則 
ア 効果的・効率的な開発協力推進のための原則
(ア)戦略性の強化

・評価について
国民への説明責任について明記されていることは歓迎します。しかし、「また、外交的観点からの評価の実施にも努める」という点は削除すべきと考えます。外交的な評価は数年で定まるものではなく、歴史的に判断されるもので、通常の業務評価の対象になりえないと考えます。

イ 開発協力の適性性確保のための原則
(イ)軍事的用途及び国際紛争助長への使用の回避 について

「民政目的災害救助等非軍事目的の開発協力に相手国の軍または軍籍を有する者が関係する場合には、その実質的意義に着目し、個別具体的に検討する。」という部分は削除すべきと考えます。提供した機材等が後に軍事目的転用されても、それをトレースする方法がありません。災害時に日本側が装備を管理し支援を行えば、援助は可能です。

(2)実施体制 
イ 連携の強化
(ア)官民連携、自治体連携 について

 企業益を重視する経済発展は、日本の水俣病の被害に顕著に示されるように、世界中に問題事例が見られます。また、現在、日本が官民をあげて推進しているビルマのティラワ経済特別区開発事業のように、開発のスピードを求めるあまり、本来とられるべき環境社会配慮や手続きが蔑ろにされ、結果として、影響を受ける住民が貧困化する事例も出ています。このように経済成長イコール貧困削減とはならない事例は多くあり、民間部門主導の成長は、必ずしも大綱が目指す「平和、繁栄、そして、一人ひとりの良き未来のために」に結びつかないことに留意すべきです。

以上

 

提出者:
国際環境NGO FoE Japan
〒173-0037 東京都板橋区小茂根1-21-9
Tel: 03-6909-5983 Fax: 03-6909-5986

メコン・ウォッチ
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