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ホーム > 資料・出版物 > プレスリリース・要請文>ビルマ・ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業>JICA異議申立審査役の報告書に対する意見書提出「事実確認や検証が不十分。問題を認めた点は、JICAガイドライン不遵守を認めるべき」

ビルマ・ティラワ経済特区>JICA異議申立審査役の報告書に対する意見書提出「事実確認や検証が不十分。問題を認めた点は、JICAガイドライン不遵守を認めるべき」

2014年12月3日

ビルマ(ミャンマー)の最大都市ラングーン(ヤンゴン)近郊で、日本が官民を挙げて進めている「ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業」では、移転に伴う住民の生活悪化が問題になってきました。

今年6月には、影響を受ける住民3名が来日し、同事業への海外投融資(ODAによる民間支援)を行なう国際協力機構(JICA)に対し、異議申立書を提出。調査と問題解決を求めるこの住民の申立てに対し、11月4日、JICA異議申立審査役から
は、5ヶ月間にわたる調査の結果が「異議申立に係る調査報告書」(以下、報告書)としてJICA理事長に提出されました(http://www.jica.go.jp/environment/present_condition_mya01.html)。

同報告書では、住民により配慮した形での透明性の高い多者間協議の場の設置など、問題の改善に向けた提案が「問題解決の方法」や「継続支援」として示されており、今後、JICAがこうした提案を早急かつ効果的に実践していくこと、また、住民の意見を十分に反映しながら、苦情処理メカニズムを構築していくことが期待されます。

一方、「JICA環境社会配慮ガイドライン」に沿った移転・補償措置がとられているか等に関し、JICA審査役が行なった調査の結果については、事実関係の確認や検証が不十分である点が多くみられました。また、事実認識として問題を認めているにもかかわらず、「ガイドラインは遵守されている」との結論が出されており、JICA異議申立制度自体の独立性に疑問を抱かざるをえない調査結果となっています。

メコン・ウォッチは、12月3日、こうした審査役の報告書に対する意見をまとめ、JICA、および、審査役に提出しました。主な意見は以下のとおりです。

(1)現地調査等による独自の情報収集が不十分
  ・5日間の現地調査で、移転住民と申立人らへのヒアリングの時間は計約6時間。
  ・申立て内容に関してJICA事業担当部が提出した情報・データのみに依存するのではなく、審査役が独自の情報収集により多くの時間をかけるべきであった。
  ・審査役は必要に応じて、コンサルタント等に委託するなど、現地でのヒアリングをより十分な形で実施すべきであった。

(2)JICA事業担当部が提出した情報に対する不十分な検証
  ・報告書では、各申立て内容について「JICA事業担当部の説明」が記されている が、JICA/専門家の説明・確認内容や努力事項を精査していない箇所がみられた。
  ・審査役は、JICA/専門家の説明内容が妥当なものか、事実関係の確認方法が適切かつ十分なものであったか、また、助言や支援の努力が適切かつ十分なものであったかを検証し、結論を論じるべきであった。特に、JICA事業担当部が提出した情報・データに対する住民側の反論意見を聞く機会を設けるべきであった。

(3)問題の認知と結論(ガイドライン遵守)の矛盾
  ・報告書では、問題があることを認めているにもかかわらず、住民がガイドライン不遵守を指摘した9項目すべてについて、不遵守を認めない結論が示されており、事実認識と結論の間に矛盾がみられた。問題があることを認めているのだから、「不遵守」を認めるべきであった。
  ・現状として問題が改善されていることから「遵守」と結論付けている箇所もみられたが、JICAの意思決定前の遵守状況を検証し、結論を論じるべきであった。

(4)不遵守を認めなかったことによる異議申立制度への信頼性失墜の可能性(不十分な独立性)
  ・今回のケースはJICA異議申立制度が設置されて以降、審査役による初の本格調査となったことから、その独立性・意義を社会に広く示し、同制度への信頼を高めるためにも絶好の機会となるはずであった。
  ・「不遵守」を認めなかったことで、今回の申立人ばかりでなく、将来の申立人も、異議申立制度の独立性・意義に疑問を抱かざるを得ない、つまり、本制度の信頼性を損ねる結果となったことが憂慮される。

(5)申立人への通知・報告書に関する説明責任が不十分
  ・申立人が審査役から受領した通知や報告書は、申立人が理解できない言語(英語)で情報提供された。
  ・異議申立制度の趣旨に鑑み、少なくとも、申立人の理解できる言語で情報を提供すべき。


→意見書の全文はこちらをご覧下さい。 http://www.mekongwatch.org/PDF/rq_20141203.pdf


今後、同ティラワSEZ開発事業に関する事実関係の確認や問題対処をJICAが継続するにあたり、また、他事業において異議申立てに関する調査をJICA審査役が実施するにあたっては、上記の意見も踏まえた対応が求められます。

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※ビルマ(ミャンマー)・ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業

パッケージ型インフラ事業として、日本の官民を挙げて進められている。ヤンゴン中心市街地から南東約23kmに位置するティラワ地区2,400ヘクタールに、製造業用地域、商業用地域等を総合的に開発する事業。フェーズ1(400ヘクタール)にODA海外投融資による出資をJICAが決定。三菱商事、住友商事、丸紅が参画。JICAは残り2,000ヘクタールにおいても協力準備調査を実施中で、環境アセスメントや住民移転計画の策定を支援している。フェーズ1は2013年11月に着工し、68家族(約300人)がすでに移転。残り2,000ヘクタールの開発では、さらに1,000家族以上(約4,000人)が移転を迫られることになる。

 

→ティラワ経済特別区(SEA)開発事業についての詳細はこちら
http://www.mekongwatch.org/report/burma/thilawa.html

 

(文責 メコン・ウォッチ)

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