メコン河開発メールサービス 2000年7月5日
タイのバンコク近郊のサムットプラカーン県クロンダン区に、アジア開発銀行(ADB)と日本の円借款で建設が進められている汚水処理施設について、現地住民から強い懸念と反対の声があがっています。このプロジェクトは環境ODAという位置付けです。5月上旬にタイで開催されたADBの年次総会でも、1000キロ離れたチェンマイにクロンダン区の住民300人が押しかけ、ADBの篠原理事や成田理事代理、大蔵省開発機関課長などに、プロジェクトの中止と環境影響調査の実施を求めていました。住民や研究者、NGOなどが問題として指摘しているのは、
非常に高い価格で用地が買収されており、現地政治家の汚職の疑いが強い
施設は生活汚水と工場排水の両方を同時に処理するとなっているが、重金属の処理をできる構造になっていない
事前調査で環境影響調査がなされていない(簡単なIEEのみ)
地元住民への情報提供や参加のよびかけが全くなかった
沿岸漁業によって3万人余りの生活が支えられており、それへの影響が全く考慮されていない
すでに建設が始まり、漁民が利用する水路などが閉鎖され、生活に影響が出ている
これに対してADBは
環境影響調査は実施している(IEEを)
生活排水で海が汚染されこのままでは漁業に影響を与える
と主張しています。また、タイ環境基金を通じて円借款を貸与している国際協力銀行(JBIC)は、タイでは下水処理事業は環境影響調査を義務づけられていないし、現地住民が反対しているという情報は聞いていないということでした。
こうした背景から、私たちメコンウォッチはタイのNGOなどと協力しながら、この問題にADBや日本政府が真剣に対応するように働きかけています。このたび、中村敦夫事務所のご協力で、以下のような質問主意書を政府に提出致しましたので、ご報告致します。
二〇〇〇年七月四日 参議院議員中村敦夫
現在、タイ国のチャオプラヤ川河口付近サムットプラカン県クロンダン区において汚水処理施設の建設が進んでいる。この施設は、旧海外経済協力基金によるタイ環境保全基金へのツー・ステップ・ローンから六十八億円、及び日本が最大の出資国であるアジア開発銀行から二億三千万ドルの支援を受けている。
ところが、このプロジェクトに対して、地域住民から強い懸念の声が出されている。この施設は工場からの排水を扱うにもかかわらず、重金属類を処理するように設計されておらず、豊かな自然の残る地域の海岸の生態系、及びその中で漁業を営む地域住民の生活に大きな影響を与える可能性があるためである。タイ環境技術協会のスチット・パナパプティクン博士は、本プロジェクトが他の代替案と比べて効率的でないと批判しており、三回にわたって行われた技術ヒアリングでも、多くの学者がクロンダン区における建設の問題点を指摘してきた。
さらに、この施設の建設地はフィジビリティ・スタディで検討された候補地から変更され、実際の建設地であるクロンダン区においては、環境影響評価が行われていない。この事実はタイ政府も認めており、現在新たに環境影響評価のやり直しが進められているほか、アジア開発銀行も独自に本プロジェクトについての調査ミッションを派遣すると聞いている。
「環境配慮のためのOECFガイドライン」は、下水道プロジェクトについて悪臭、水質悪化、生態系への影響への配慮を求めているが、本プロジェクトにおいてこうした点についての調査が不十分であることは、事業者側がこれから調査するという事実からみて明白である。また、どのような影響が出るかは未だ明らかでない。
よって、日本政府及び海外経済協力基金の業務を引き継いでいる国際協力銀行は、タイ政府への貸付実行を一時停止し、タイ政府による環境影響評価のプロセス完了を待ち、影響がどの程度あるかどうかをしっかりと把握し、環境ODAによる環境破壊を未然に防ぐべきであると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
右質問する。