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メコン河流域では様々な開発事業がおこなわれています。事業によっては、自然に深く依存する農業・漁業といった地域住民の生業に負の影響を与えてしまう場合があります。メコン・ウォッチは、開発による貧困化や社会的不公正の拡大を防ぐため、開発事業とそれを取り巻く状況に関して継続的に情報収集・発信をしています。
自然資源と住民の生活という観点で、タイで重要だと考えられている問題は、水と電力に関わる開発計画です。
国際協力機構(JICA)が資金協力を行ったコック・イン・ナン導水計画、世界銀行の融資で1994年に完成したパクムンダム、日本の国際協力銀行(JBIC)と、日本が最大資金供与国であるアジア開発銀行(ADB)が融資した中部サムットプラカン県の汚水処理プロジェクトなど、タイの治水と電力に関する開発には過去、日本の大きくかかわってきました。また、経済発展を遂げたタイは、被援助国から援助国に変わってきていますが、国内の格差問題など、発展の歪ともいうべき問題にも直面しています。
水力発電ダムと森林が変わらず大きなイシューです。 水力発電ダムは主にタイに電力を輸出するために開発されています。国内で稼動中、建設中、もしくは具体的に計画が進んでいるダムのうち、8つにおいて何らかの形で日本の援助が関わっています。
社会主義国で、共産党にあたる人民革命党の一党支配が続くラオスでは、住民が政府のダム政策を公に批判することは難しく、かつ情報の少ないラオスの農村部の人たちにとっては、開発によって生活がどうなるのか全くイメージできない状況が続いています。完成したナムグムダムやセセットダム、トゥンヒンブンダムなどの事例では、社会環境への影響は大きく、それに対し政府も援助機関も適切な補償や緩和策をとってきているとは言えません。また、「貧困削減」のために進められたナムトゥン2ダムも様々な環境・社会問題を新たに生み出しています。
カンボジアでは1990年代半ばから丸太の伐採・輸送は禁止され、新規伐採権も認められていませんが、抜け道となっているのが植林です。木材伐採が認められていない森林を、ゴム植林のための土地として指定し直すことで、森林伐採を正当化する事例も見られます。伐採問題は、植林という形をとってより複雑化しており、注意深いモニタリングが必要です。
また、開発に伴う住民の立ち退きが深刻な問題を引き起こしています。強制立退きに関して様々な人権侵害が報告されています。バンコク−プノンペン−ホーチミンを結ぶ第二東西回廊、国道一号線の改修などで立ち退きによる住民の貧困化といった問題も発生しています。
ベトナムでは、日本のODA(政府開発援助)による電源開発事業が数多く実施されています。また、開発に伴う住民の立ち退きが問題です。ダム開発、植林、大規模な社会基盤整備により、ベトナムでは毎年数万人の住民が立ち退かされています。特に、農村部の少数民族の自然資源利用は、ダム開発によって大きな影響を受けています。また、地球温暖化に悪影響の大きい石炭火力発電所への支援も複数行われています。
天然資源の豊富なミャンマー(ビルマ)では、天然ガスや水力(ダム)の開発がさかんに進められ、適切な環境・社会影響評価や周辺住民への情報提供のないまま、環境破壊や不十分な補償によって周辺住民の生活に大きな影響が出ていました。更に少数民族居住地域では、資源開発に伴って強制移住や強制労働といった深刻な人権侵害が起きてきました。2011年から軍政主導の民政化が始まり、2015年には選挙で文民政権が誕生したものの、2021年2月の国軍によるクーデタ―で「民政化」の流れは完全に途絶えました。クーデター以降、国軍によるさまざまな人権侵害が続いています。
中国雲南省でもっとも大きな問題は、メコン河本流ダムです。ダム建設による中国国内の現地住民への影響はさることながら、上流での開発は、はるか下流のカンボジア・トンレサップ湖やメコンデルタにいたるまで大きな影響を及ぼしました。雲南省内で発電された電力はまず、中国国内の広東省などに送られた後、タイやベトナムに輸出されます。また、メコン河流域における投資家としての中国企業や中国の輸出入銀行の役割も大きなものとなっています。
メコン河は6カ国を流れる国際河川です。ここでの開発は時に、国境を超える環境・社会影響を生み出します。