メコン河開発メールサービス 2000年8月5日
タイのパクムンダムの情報が多いですが、他の地域でも水資源開発をめぐるコンフリクトは起きています。舞台はメコン河の最大の支流であるセサン川。お手持ちの世界地図を広げて下さい。ベトナムの中央高地(コンツム省あたり)からカンボジアに向かって流れています。下流への放水によって32人の命を奪ったと言われるヤリ滝ダムの水を制御するために、セサン3ダムという別のダムを造ろうという計画が進行中です。しかし、タイのNGOは、民間ベースで建設するセサン3ダムが発電利益より洪水制御を優先するとは思えないし、下流の人々の病気の原因と考えられる水質悪化は、解決できないと主張。カンボジアで活動する複数のNGOは、ヤリ滝ダムの撤去と、これまでの被害への補償、更にセサン川流域での新たなダム計画の放棄を求めています。
これまでの情報を、メコンウォッチの後藤歩が以下にまとめました。
アジア開発銀行(ADB)の日本特別基金から120万ドル出資されて1999年7月に開始した技術支援(PPTA)の終了を待って、2000年7月のADB理事会で建設への融資決定が予定されていたベトナムのセサン3水力発電ダムですが、融資を検討する理事会が来年に延期されました。同じセサン川上流に一部完成したヤリ滝ダムの影響を緩和するための再調査をすることが、延期の理由と考えられます。NGOの働きかけの効果であることは間違いないようです。
現在までにヤリ滝ダムの一部運転による影響で、セサン川下流のカンボジア・ラタナキリ県では32人が死亡しており、952名が関連する被害を受けたと報告されています(オックスファム・アメリカ)。セサン3ダムはヤリ滝ダムの下流20kmの場所に建設が計画されており、ヤリ滝ダムのもたらすインパクトをさらに増大するとの懸念がもたれています。
国内外のNGOと現地の住民はヤリ滝ダムの撤去とセサン3ダムの建設中止を求めており、キャンペーン活動を開始しています。
以下、タイのNGO、TERRAから送られてきた情報のまとめです。
セサン3ダム建設への融資決定は、さらなる調査の結果が出るまで延期された。この調査(follow-on TA)はヤリ滝ダムの影響を緩和することを調査対象とし、ADBが180万ドル出資する。アジア開発銀行は2000年5月のメディア用のブリーフィング・ペーパーで、「下流の累積的影響の可能性を調査しており、場合によってはヤリ滝ダムの放水に対応するためにセサン3ダムの計画を練り直す可能性がある。ヤリ滝ダムの長期的な影響は、ダムを通る水の再調整によって緩和する以外ありえない」と主張している。
これは、 ADBが既にセサン3ダムを「建設する」ことを前提としていることを示す。セサン3ダムは「建設されなければならない」と理解されており、これを証明するために180万ドルをかけて調査を開始している。
しかし、 ADBの主張「ヤリ滝ダムの影響を緩和するためにセサン3ダムを建設しなければならない」というのはいくつかの論点を無視している。
セサン3ダムは、ベトナム電力公社か民間会社のどちらか、または両者によって所有される。よって、どちらが所有したとしても、利益に誘導されるため、発電以外の用途にダムを運用する可能性は低い。セサン3ダムの2つの機能(放水調整と発電)は補間関係にはなく、相反するものである。つまり、もしダムが発電用に使われるのなら、ヤリ滝ダムの起こす不定期の洪水と同じ問題を起こすことになり、もし調整機能を使うのなら発電はそれほど行えない。
セサン3ダムのフィージビリティ調査(F/S)によると、セサン3ダムのタービンからの放水はヤリ滝ダムよりも短い期間で一秒当たりより早くなされる。調査は「セサン3水力発電プロジェクトの放水計画の485立方メートルは、類似の放水計画420立方メートルよりも多く、セサン3水力発電ダムの予定運転時間/日は、ヤリ滝ダムから放水よりも平均的に短い」としている。これはセサン3下流の突然の洪水をヤリ滝ダムからの洪水よりもひどいものにする。
ヤリ滝ダムからの流水を「調整」するというADBのねらいは、水「量」の調整に言及しているに過ぎない。実際下流での新たなダムは水質を悪化させる可能性が高い。新たなダムからの明らかな影響は、さらなる量の水生植物が新しい貯水池内の水を腐敗させ汚染することになる。