メコン河開発メールサービス 2000年8月22日
たびたびお伝えしています、日本の援助の可能性が懸念されているビルマのサルウィンダムに関して、毎日デイリーニュース(英字新聞)が記事を掲載しました。
以下長文ですが、メコンウォッチの後藤歩の翻訳です。
毎日デイリー・ニュース、アジアーフォーカス
2000年8月3日
BY RICHARD HUMPHRIES
【第1世界では撤去されている。利益よりも被害を生むという事実は、すでにもうただの推測ではない。大規模ダムは時代遅れである。大規模ダムは非民主的である。】インド人作家Arundhati Roy.
Harn Yawnghwe は、軍人が彼の家に来た当時、まだ13歳であった。それは1962年の3月2日、ネウィン将軍が今日まで続いている軍事統治を開始するためのクーデターを命令した日だった。Harnの兄弟のMyeeが殺された。しかし、軍人が狙っていたのは実は彼らの父親だったのだ。その父親Sao Shwe Thaikeは、シャン州の公国Yawnghweの王子であった。さらに重要な事に、彼は独立ビルマの初代大統領でもあったのだ。それから8ヶ月後、奇妙な状況の中彼は牢獄で死亡した。
Harnと生き残った親族は、国から逃れなければならなかった。それでもなお、彼はビルマとその人々と深く関わっている。今日、Harn Yawnghweはブリュッセルに住み、EUの資金協力を受けている民主主義推進団体のEuro-Burma Officeのプログラム・ディレクターである。
5月30日、Harn は民主主義推進運動の国連への代表者Dr. Thaung Htumととも、日本政府の役人に会うために東京へやって来た。彼らの目的は、日本の援助と投資が長年苦しんできた民衆ではなく、ビルマの軍閥に利益をもたらしている事に対して、懸念を訴えるためである。
東京の記者や大使館職員を迎えての連日の夕食会で、Harn は一つのプロジェクトを強調した。彼は「サルウィン川にダムを建設する計画があると私たちは信じています」と述べた。サルウィン川は、自然の状態で残された最後の川のうちの一つである。大蔵省が67%所有する特殊法人の電源開発(EPDC)がこのダムのフィージビリティ調査を行ったことから考えると、日本政府はある意味関係がある。
サルウィン川は、チベット高原を発しビルマを通り、モルメイン近くのマルタバン湾に注ぐ長さ2400kmの川である。サルウィン川は自由に流れる大きな川として東南アジアに残る最後のものである。同川は、320,000平方kmの土地を潤している。
ダムのプロジェクト・サイトは、川がシャン州南部を通り、タイ国境より北に80kmいったタサンという場所である。ビルマは超現実主義で残忍な独裁政権により統治されているため、外国の政府や企業が望んで関係を持ちたいとすることは、一見普通ではないと考えられる。
欲というのは主権を有するものだが、地域の政治と環境主義活動は何らかの役割を果たした。いくつかの例外を除いて先進国では大規模ダム建設は減少している。仮プロジェクトについてはより多くの透明性や議論があり、時にはあざけり(火星からも明らかに見える無駄な仕事)さえも不合理な意向をもみ消すに十分である。ダムの建設者は途上国に目を向け始めた。
そんな所でも抵抗はめらめらと燃えていた。1980年にタイのクワイ川のナム・チョアンに試みられたダム建設計画は、公式な認可があったにも関わらず、激烈な一般の反対派に最終的にくつがえされた。そのためタイ当局は、近隣国で統治者の眼識が低く、世論をより簡単に操作でき無視もできると思われる国を探した。タイは自国の工場に、さらなる電力と貯水池を満たし川を潤す導水を欲していたのである。
将来の建設者や資本家はサルウィンを長年、お腹を空かせた狼が遠くの牧草地で浮かれ騒ぐさまよう子羊を凝視するかのように見つめてきた。タイ、ドイツ、日本という多様な利害関係者は1979年以来連続してフィージビリティ調査を行った。最近完成したEPDCの調査は唯一最新のものだが、これが最終デザインと建設に導くものだと確信されている。よって、「フィージビリティ」という用語は、「するか否か」よりは「いかに」を意味するものと汲み取れる。
EPDCの英語のウェブサイトでは、EPDCは自然環境や地域のコミュニティーを多大に尊重し、自然環境とコミュニティーと調和するかたちで電力発電施設を建設・運転するよう心がけると発表している。しかしHarnは、EPDCがシャン州のコミュニティーまたは彼と話したかを問われると語気が強くなった。「いいえ。私たちは全くコンタクトは取られませんでした。たぶん彼らはSPDC(ビルマの軍事政権)とだけ話したのでしょう。現地の人間とは全く議論はありませんでした。何もです」。
EPDCからの答えを待ったが、EPDCは一連の動きが印刷されるまでにコメントを用意することはできなかった。
企業のダムサイトにおける住民とのコミュニケーションでは、EPDCだけでなく全ての関係企業が現地の住民を避けているようである。Salween Watch、the ShanHerald Agency for News、そしてタイの環境NGOのTERRA (Towards EcologicalRecovery and Regional Alliance)のようなモニタリンググループによれば、400から500のビルマ軍がサルウィンに沿って居り、ダムの準備活動をしている企業を守っているという。
関係のある主要企業はタイのGMS public Power Co. Ltdである。ここは電力をタイの電力公社EGATに売りたい思惑がある。GMSはタイのMDX グループの一部でラオス、カンボジア、雲南省などでのダムプロジェクトに関わってきた。サルウィンの計画はコンクリートが上塗りされるダムで高さ188mである。これは東南アジア本土で最も高いダムになる。長さ230kmの貯水池は最低でも640平方kmの土地を浸水する。これはサルウィンの年間流量の3分の1を貯めることになる。
そのようなプロジェクトのロジスティックスは、コスト面でも最低30億ドルかかるという一つの概算からも、莫大なものになる。GMSはプロジェクトを請け負うだけに必要な資力はどう見てもない。理事や海外の影響力のある友人がいなければ、実際上は破産者である。第3国を通しての日本の融資に関する多くの噂は多々あるが、それはまだ確認されてない。
大規模ダム推進派たちはもちろん利益を強調する。ダムが現在の世界の電力需要を満たすこと(ある計算では20%)は拒否できない。大規模ダムは典型的に原子力発電や火力発電に比べてはるかに多くの発電をする。ダムはまた川の流れを調整するにも使えるし、水流を他の場所へ転換する、水需要を管理することもでき、早瀬を湿らせることで航行の助力にもなる。
しかし、チェスマッチで十分な考慮もせずにポーンを取られてしまうように、時の経過とともに不利な立場が圧倒的であることが証明された。エネルギー貯蓄の減少と沈殿からの頻繁なコストの超過は効率性を無くす。さらに、世界中の何百万人もの人々、多くはマイノリティーの先住民は、強制的に土地を追われた。
サルウィンのプロジェクトも例外ではない。民族紛争はシャン州ではいまだに広範囲に渡っており、ダムサイト・計画中の貯水池地域で約30万人のシャン族が強制移住させられている。典型的に何が起きるかというと、3日前に移住するように勧告され、その3日後にその地域で発見されれば撃たれる、とHarnは説明した。
皮肉にも、地域コミュニティーの何人かのメンバーは、サルウィンをラフティングで下り逃れることに成功した。シャン族の一人の男性は、人権モニタリング団体に「河口の両側にドリルマシンを見、そのいくつかは水を吸い上げ穴をあけていた。それぞれの河口に3つのマシンがあった」と伝えた。もしも貯水池が建設されれば、Harnを含め何千人もの人々が帰る家を失う。
熱帯地域では、ダムは病気を蔓延させる。シャン州はすでに地方特有のマラリア・ゾーンにある。貯水池の端に沿って水がよどんでいる場所は病原菌増殖の理想的な場所である。そして、TERRAによれば、他の生態的な惨事が続けて起こるとされている。
サルウィン川流域の魚は川のシステムの中で進化してきた。もしも川が貯水池に変われば、ダムの下流に住む魚の種のほとんどが、水流の変化や貯水池から放出される質の低い水による生態系へのインパクトから絶滅する。ダム自体の建設は、おそらくビルマのあまりにもひどい人権レコードに加わるだろう。大規模インフラプロジェクトは典型的に強制労働をともなう。共犯は軍事政権だけにとどまらず、民主化グループはこのことをよくわきまえている。私たちは日本の政府にその関与について警告する、とHarnは言う。もしダムが建設されるならば、強制労働が行われる事は明らかである。
Arundhati Roy が大規模ダムについて見解を述べた時、彼女はインドのサルダルサロバル・ダムプロジェクトについて話していたのであった。同プロジェクトに対しての人々の不快感はあまりにも痛烈であったため、日本政府さえも融資撤退した。サルウィンプロジェクトの反対派は、日本が再びダム建設に協力しないように望んでいる。
企業や政府には、Dr. Thaung Htun が指摘するように、ビルマへの投資を考慮するさらなるインセンティブがある。「私たちはビルマの軍事政権は違反であると述べる。彼らは国の資源を管理する権利は一切ない。これに基づき我々は、軍事政府と結ばれた全ての契約は、次の民主的政府によってレビューされることに言及する。」
(Richard Humphries は日本に住むフリーランスジャーナリストでアジア・フォーカスに恒常的に投稿している)