メコン河開発メールサービス 2001年4月29日
日本の新聞でも小さく報道されていますが、ビルマのバルーチャウン水力発電所の改修工事のために、日本政府(森政権)は35億円もの無償資金を軍事政権に援助することを事前通告しました。このODAをめぐっては以下のような問題点があります。
それに加えて以下の記事にあるように、民主化グループと軍事政権の対話促進への「ご褒美」という側面にも批判的な分析があります。バンコクのADB福岡NGOフォーラムの土井利幸さんの翻訳です。
なお、日本政府はこれまでもビルマ軍事政権への無償援助(人道援助と債務救済援助)は行なっており、この改修計画支援によって制裁が解除されて援助が「再開された」わけではありません。また、日本政府の事前通告は行なわれましたが、承認のための閣議決定は年末と予想されており、正式にはまだ決まっていません。
Thomas Crampton
インターナショナル・ヘラルド・トリビューン
2001年4月25日(水)
【香港】日本政府は、ビルマ軍事政権と反政府勢力指導者との間の非公式対話を促すために、現政権による1988年の民主化要求運動弾圧以来、最大額の無償援助をひそかに決定した。
この決定は長期にわたって事実上発動されていたビルマに対する二国間・多国間援助の禁止措置を反古にするもので、国連やアメリカ合衆国政府とも相談の上で下された。
首都ラングーンで国連が仲介している話し合いの進展状況に詳しいある筋によると、今回の無償援助はバルーチャン水力発電所のタービン補修のための費用35億円(2860万米ドル)で、軍事政権が反政府勢力指導者でノーベル賞受賞者のアウン・サン・スー・チー氏との対話を継続してきたことに対する目に見える形での報酬の意味が込められている。
「背中を叩いたり、ねぎらいの言葉をかけたり、ダムを直したりすることが対話を前進させることになる」と今回の取引の経緯に詳しい、ある人物は語った。「それを日本政府はこのダムでやろうとしたわけだ」。バルーチャン・ダムの修復は今月すでに合意に達し、ビルマのKhin Maung Win副外務大臣がほとんど報道もされずに東京を訪問した際にひっそりと公表された。
ビルマ東方のカヤー州にある同ダムは元々1960年代に日本の戦後賠償の一環として建設された。今後数週間の間に日本のコンサルタント会社がビルマを訪れ実行可能調査を行い、その上で日本政府が外務省によってすでに確保されている資金を正式なものにする予定である。
今回の合意はビルマでは公式に報道されておらず、ビルマ在住の外交官筋を含めて多くの事情通にも知られないまま実現した。軍事政権と反政府勢力との対話はラザリ・イスマイル国連特別担当官の就任を機に昨年10月に開始された。「今回の日本政府の決定は非常に大きな意味を持つ」とラングーンの消息筋は語った。
「日本政府は沈黙を守りながら一方でラザリ担当官と協力して対話の進展に報酬を出そうとしていたのだ」。
マレーシア出身のラザリ特別担当官は長年にわたる膠着状態を即座に打開し、国家民主連盟の指導者スー・チー氏と現在では国家平和発展評議会と名乗っている軍事政権の間での対話を再開させた。対話の内容は公開されていないが、スー・チー氏と国家民主連盟を激しく攻撃する軍事政権のキャンペーンはトーン・ダウンしている。
状況改善を示唆するもう一つの動きとして、ビルマ政府は五年ぶりに国連人権委員会代表団の受け入れを今月すでに決めている。
しかしながら、外交筋や事情通の中には今回の日本政府による無償援助再開が今の段階で時期尚早に過ぎないかとの懸念の声も多い。「日本政府にとってはリスクの多い決断だ。もし対話が暗礁に乗り上げでもすれば、勇み足ということで非難されるだろう」。ヒューマンライツ・ウォッチ・アジア代表のMikeJendrzejczyk氏はワシントンでそう語った。「ビルマの人権状況が根本的に改善されない限り、これ以上の無償援助を出すべきではない」。
日本政府関係者はスー・チー氏が今回の無償援助再開に同意したかについては言及を避けながらも、関係各方面との相談は全て行なったとした。「わが国だけの判断でやっているわけではない」とは、ある政府関係者の証言である。「関係するところには全て接触した」。
ラザリ担当官が対話の進展のためにまとめようとしているのは日本政府からの無償援助だけではない。出来るだけ横槍が入らずに日本政府がダムの補修に取り掛かれるように、ラザリ担当官は米政府にこれまでの補修計画反対の姿勢を軟化させる必要があった。
昨年米政府は今回のような二国間援助に対しては反対を表明した。特にこれまで出されたダム補修計画には批判的で、そのような計画を認めると人権状況を改善せずに報酬だけを与えることになると警告していた。しかし消息筋によると、対話の進展を楽観視する声と制裁を基調とした外交政策を嫌う新政権の誕生のおかげで、この件に関する米政府の態度が今や軟化した。
ラザリ担当官はまた今年すでに世界銀行を訪問し、ビルマと初期レベルでの話し合いを始めるよう要請し支持を取り付けようとしたが、こちらは失敗している。世銀はビルマ政府がこれまでの世銀の協力申し出に対してほとんど何の反応も示してこなかったことから、ラザリ担当官の要請を退けた。
1988年にビルマ政府は世銀と国連が政治改革と引き換えに申し出た10億米ドルの援助を断ったことがある。当時のビルマ政府指導者はビルマの国内問題に対して海外から寄せられる批判に対して怒りを露わにし、ビルマは外部からの圧力を無視し必要とあらば孤立無縁でもやっていけると豪語した。ラングーンの消息筋によれば、当時の世銀の援助計画は「飴と鞭外交」で、今回のラザリ担当官のやり方とは好対照である。
「ラザリ担当官は条件を押し付けずに、言わばオーケストラの指揮者のように振舞う」とはある筋の評である。「政府や国際機関は楽器で、ラザリ担当官によって協奏曲を奏でるようになる」。
しかし、無償援助計画が公表されたことで、日本政府に対する亡命ビルマ人活動家たちからの批判はさらに活発化するだろう。今ひとつの問題は、日本政府が今回の援助は単なる人道的なものだと主張している点である。「この発電所はビルマ国土の20%に電気を供給する。その中には病院も含まれる」と日本政府関係者は述べた。「その意味でこれは人道援助に分類してもいい」。
しかし、ある調査によれば、バルーチャウン・ダムが発電する電力の三分の一までをビルマ軍が利用することがある。