メコン河開発メールサービス 2001年5月25日
久しぶりにタイ東北部のパクムンダム(世界銀行融資、1994年完成、136MW)に関するニュースです。4月12日に、貧民連合とタクシン政権との話し合いによって、魚の回遊を回復させるためダムの水門を開放するということで合意し、バンコクでの座り込みデモが終結しました。ところが、未だに水門が開放されていません。そうした中でタクシン首相自身が25日にパクムンダムを訪問しました。現地で魚の調査をしているメコン・ウォッチの木口由香さんからの報告です
タクシン首相は25日午後3時ごろ、タイ、ウボンラチャタニ県にあるパクムンダムを訪れ、貧民連合の住民とともに水の神を祭る儀式を主催しました。
先日閣議で決定したダムの水門開放を確認する、という触れ込みでやって来た首相ですが、結局水門は開きませんでした。「養殖業を営む漁民」が水門開放により損害をうける、と主張しダムのすぐ下の中洲で座り込みをしているからです。「座り込み住民が危険」ということで、タイ発電公社(EGAT)は今のところ政府に従っていません。
中州の住民は、タイ発電公社から金銭を授受しているといわれています。興奮して貧民連合の住民をなじる女性、自分たちにも座り込みの権利があると怒鳴る男性など、一時は騒然とし、川辺で行なわれるはずだった儀式も警備の都合上、少し離れた場所で行なわれることとなりました。今日はダムのあるフアヘゥ村の住民も、川岸に座り込みをしていました。貧民連合に所属している住民も多い村で、コミュニティが分断されている状況が垣間見えます。
実は、昨晩の内に軍隊を使って彼らを排除するという噂もあったのですが、さすがに政府もそこまで強行には出ませんでした。しかし、昼頃からヘリコプターが低空飛行で旋回し、座り込みに心理的な圧力をかける場面も見られ、戦争映画の撮影現場のような雰囲気ではありました。中州の住民が強制排除されるのかどうか、2時間ほど様子を見守っていましたが、結局排除はされず、彼らは彼らの座り込みを続け、貧民連合は貧民連合でタクシンを迎えて無事に儀式を終えました。警備の関係などで、5台のヘリコプターを飛ばし、沿岸警備隊の船も何台も配備され、そして、お金を受け取ってダムの水門を「開ける」なと訴える人たちもいて、と、パクムン関連の国家予算は膨らむばかりです。
首相は、水門開放をすれば影響を受ける人もでるだろう。しかしそれは影響の出た段階で検討すべきで、今は政府の決定に従って欲しい、とEGATに説明、「助けてほしい」、とEGATに言ったそうです。同時に、水門は近日中に開くので、少し待って欲しいとも。この発言に根拠があるのかどうか、今のところは分かりません。演説は非常に分かりやすく、皆さんにも受けていましたが、まとめると、タイラックタイ党の政策の宣伝(医療費30バーツ均一とか、村落基金、等々)という感じでした。
貧民連合の主要メンバーは、もちろん、水門開放で問題が解決されるとは思っていません。しかし、今回のことで、図らずも現政権との結びつきが非常に強いことも分かりました。今後、政府と距離を取って(あるいは取らずに?)どのような運動を展開していくのでしょうか。こちらとしては、発電公社が政府をしのぐパワーを持っている、というタイの現実を突きつけられ、困惑しています。
魚はもう、ダムのすぐ下まで帰ってきています。今水門があけば、また今年も多くの人が漁に出ることができるのですが。