メコン河開発メールサービス 2001年8月19日
地元住民の激しい反対が続く、タイ南部プラチュアップキリカン県のヒンクルート石炭火力発電所計画に対して、トーメンに続いて中部電力と豊田通商が資本参加することを明らかにしました。昨年初めにプロジェクトからの撤退を表明していたフィンランドとアメリカ系の企業の出資分を、両社の新規参入と、タイのSaha Union社の増資でまかなったようです。
この案件については、(1)開発プロセスにおける被影響住民への不十分な情報公開と参加、(2)温排水による漁業影響、(3)石炭火力による大気汚染と地球温暖化影響、(4)タイの電力供給過剰、などの問題が指摘されています。更に、トーメンを中心とする開発業者が賛成派を増やすために資金をばら撒いていることで、地域社会が分断されてしまっています。反対派リーダー宅に銃弾が打ち込まれる事件などが起きています。
こうした住民の激しい反対をふまえて、タイ政府ですら慎重に検討しているにも関わらず、あろうことか在バンコク日本大使館が、赤尾大使を筆頭にプロジェクトの推進をタイ政府に働きかけています。赤尾大使は、国際的な環境保護団体である国際自然保護連合(IUCN)の評議員をしていますが、大使館の役割は日本企業の利益を守ることだと、中村敦夫参議院議員の質問主意書へ回答しています。
日本企業の海外進出を支援する国際協力銀行(JBIC)は、プロジェクトへの融資の審査に入っていません。しかしそれはプロジェクトの是非とは関係なく、必要な手続きが終わっていないからです。同銀行の担当者が8月8日にタイ政府のエネルギー担当であるChaturon首相府大臣を表敬訪問した際に、(1)タイにおける電力需給見通し、(2)独立事業者による発電事業(IPP)に関するタイの政策、(3)プラチュアップキリカン県の2つのIPPプロジェクト(ヒンクルート、ボーノック)に関するタイ政府の立場、について尋ねたということです。この担当者によりますと、首相府大臣は、タイ政府内での議論がまだ必要で、タイ政府の立場を決めるのにまだ1〜2ヶ月はかかるという返答だったということで、国際協力銀行としては、プロジェクトの融資審査を始めるためには、タイ政府の明確な立場が必要だと考えているようです。
これまで国際協力銀行が融資審査を始めるための条件として、出資企業の構成の確定とタイ政府の明確な支持が挙げられていました。フィンランドとアメリカ系企業の撤退後不確定だった出資企業の構成がほぼ固まった今、タイ政府の明確な支持が融資審査開始の最大の条件となっているようです。
いずれにしましても、ヒンクルット石炭火力発電所計画を推し進めるユニオン電力会社(UPDC)のシェアの64%を日本企業が所有することになります。中部電力と豊田通商の出資は4600万ドルずつ、15%ずつのシェアで、タイのSaha Unionを含むタイ企業もシェアを増やしているようです。
両社のプレスリリースは以下のページをご覧下さい。
○ 中部電力:タイにおける火力発電事業への参画について〜当社初の海外発電事業〜
○ 豊田通商:タイ国における独立発電事業(ヒンクルット石炭火力発電プロジェクト)に資本参加
以下、NHKと日経の報道です。
NHKニュース速報 2001年8月16日
中部電力は、タイで進められている火力発電所の建設事業に参加し、2005年から電力の供給を開始する計画を明らかにしました。
これは、きょう中部電力の清水眞男(シミズマサオ)常務らが記者会見して明らかにしたものです。
それによりますと、火力発電所の建設計画は、タイの首都バンコクから南西におよそ三百八十キロ離れたプラチャップ・キリカン県に、総工費およそ千六百億円かけて火力発電所を建設・運営するもので、中部電力では総合商社のトーメンと豊田通商の二社とともに、合わせておよそ三百七十億円を出資するとしています。
建設される発電所は、出力七十万キロワットの石炭火力発電所二基で、2005年10月から一号機で、翌年一月からは二号機でも運転を始め、発電した電力は、タイ国営の電力事業者であるタイ発送電公社(タイハッソウデンコウシャ)に販売する計画です。
中部電力では、事業の効果について「二十五年間にわたる電力売買契約を結んでいて安定した収益が期待できるほか、発電所の建設から運転、保守点検に至るノウハウが伝わることで、タイの環境対策の向上や経済発展につながるものと考えている」と話しています。
中部電力が海外で発電事業を行うのは今回が初めてです。
[2001-08-16-18:26]
日経ネット 2001年8月16日
中部電力と豊田通商は16日、トーメンがタイで計画している発電事業に参画すると発表した。IPP(独立発電事業者)としては世界最大規模になる石炭火力発電所を建設、運営する計画で、2社は2001年度中に事業運営会社の株式を15%ずつ取得する。中電と豊田通商が海外で発電事業を手掛けるのは初めて。同事業を安定収益源に育成、施設の保守受託や燃料供給など付随業務を拡大する。
トーメンや欧米企業などが1997年に設立した運営会社の株式を取得する。事業から撤退する欧米企業から譲り受けるが、取得金額は明らかにしていない。運営会社の資本金は3億ドル(約360億円)で、出資比率はトーメン34%、中電と豊田通商が各15%。タイの大手財閥サハユニオンなどが36%となる。プロジェクトはタイ南西のヒンクルットに石炭火力発電所を建設、同国の発送電公社に25年間電力を供給する計画。出力規模は140万キロワットで、現在のタイの電力需要の約5%に当たる。総事業費は約13億ドル(約1560億円)。2002年4月をメドに着工し、2005年にも稼働させる計画だ。