メコン河開発メールサービス 2002年2月18日
早生樹を使った大規模な産業用植林がベトナムで進められています。日本の商社や製紙会社も大きな関与をしています。
世界熱帯林運動 会報54、2002年1月(英語版)
クリス・ラング(Chris Lang)
昨年、ベトナム製紙会社(ビナピメックス社:Vinapimex)は、ベトナムのパルプ・製紙産業を拡大する野心的な計画を発表した。これは、総額10億ドル以上をかけ、15の新たなパルプ・紙生産プロジェクトを立ち上げる計画である。これらのプロジェクトが全て実行された場合、同社の年間紙生産力は現在の17万1000トンから41万9000トンにまで上昇する。
ベトナムのパルプ・製紙産業は、現在、年間総量で約36万トンの紙を生産している。同社は2010年までに、これを年間100万トン以上にしようとしている。
例えば、あるプロジェクトでは、ベトナム中高地にあるコントゥム省に漂白されたクラフト紙を年間13万トン生産する製紙工場を新たに建設する。2001年10月、ベトナム政府は同社の実行可能性調査(フィージビリティー・スタディ)を承認した。
2億4000万米ドルにおよぶプロジェクト資金の大半を確保することが今後の課題だが、ビナピメックス社は商業銀行より利率が低い外国政府からの「援助」融資に期待している。すでにベトナム政府は資金の7%を負担することで合意しており、その費用は道路、研究施設、診療所、学校の建設に充てられる。また政府は、プロジェクトのために土地利用権を買い取り、植林した木が最初の伐期を迎えるまで土地税を免除することになっている。
原料を工場に供給するために、ビナピメックス社はすでに植林を始めており、最終的に早生樹の植林地12万5000ヘクタールの造成を計画している。さらに同社のフィージビリティー・スタディによると、3万8000ヘクタールの天然林を工場への原料供給に利用する計画を立てている。
一方、ベトナム最大のパルプ・製紙工場であるバイバンも、数週間以内に事業拡大計画を開始する予定である。この計画によって同工場の紙の年間生産量は5万5000トンから10万トンに拡大する。同時に、年間パルプ生産量も4万8000トンから6万1000トンに増える。これは、計画の第一段階にすぎず、最終的には年間紙生産量を20万トン、年間パルプ生産量を15万トンに引き上げる。
この計画第一段階に対して、2001年11月30日、スウェーデン政府が1250万米ドルの優遇融資を行うことに合意した。すでに2000年にビナピメックス社は北欧の3つの銀行から4200万ドルの借款を受け、工場の改築に充てている。また、フォイスペーパ社(Voith Paper)と中国化学工業輸出入総公司(Sinochem)との間で工場を改築する契約も結んでいる。エロフ・ハンソン社(Elof Hansson)や丸紅は備品供給に関する契約を落札した。ハンソン社はクヴァナ・セメティックス社(Kvaerner Chemetics)、クヴァナ・パルプ社 (Kvaerner Pulping)、ピューラック社(Purac)、メソペーパー社(MetsoPaper)、 AF-IPK社などからなる製造業者グループを率いている。
ビナピメックス社の拡大計画に加えて、日本企業である日商岩井もベトナムにおける木材チップの増産を計画している。同社は、国営の林産物輸出機関と合弁で事業を行い、150万米ドルをかけて新たな工場を建設している。ここで生産された木材チップは日本の王子製紙へ輸出・販売される。同社はまた、現在使用している木材チップ生産工場の生産能力を15%引き上げ、年間15万トンにまで増やそうとしている。同社の2002年の目標は40万トンの生産量を確保することであり、それらのチップは全て日本に輸出される。
パルプ・木材産業の拡大にともなう原料の需要増加に対応するため、ベトナム政府は、100万ヘクタールにものぼる産業造林を行う野心的な計画をもっている。この計画は「500万ヘクタール」プログラム(『世界熱帯林運動会報』(WRMBulletin)38号を参照のこと)の一環であり、パルプ・木材産業に貢献するために行われる。
農業・農村開発省は、2001年2月の報告書で500万ヘクタール・プログラムは「持続可能な土地利用」を実現し、「財政的、環境的、社会的にも問題がない」と主張している。しかしながら、ベトナムで現在進行中の産業造林プログラムで、このような目標を満たしているものはない。政府からの補助金や海外からの低利融資「援助」によって、かろうじて財政的には問題がないとも言えるが、森林・原野・草地を早生樹による単層林に転換することは、環境上問題がないとも、持続可能であるとも言い難い。そして、産業造林によって失われる土地や森林に依存して生活しているベトナムの農民たちにとって、社会的な面での影響はとてつもなく大きなものになる可能性がある。
(翻訳:名村隆行/東京大学大学院林政学教室博士課程)