メコン河開発メールサービス 2002年3月3日
アドボカシーについて思いを強くする記事がカンボジアからありました。
カンボジアでは、森林、土地、水など農村の生活に欠かせない自然資源にアクセスする住民たちの権利を法的に守ろうと、NGOや住民グループが協力して、国際機関やカンボジア政府に働きかけてきました。
そうして作られた法律が実効性にあるものとなるためには、日常的な監視やチェックが欠かせません。その役割を担っているのも、生活を守りたいという住民自身の自発的な意志なのです。
他ならぬ「住民のため」の法律を、住民やNGOや専門家が協力して作り上げ、その法律を盾にして住民が自らの権利を守る・・・カンボジアの村人やNGOから学ぶことは多いです。
以下、世界熱帯林運動(WRM)の会報に寄せられた記事を、後藤歩さんが翻訳しました。
アンドリュー・クック(カンボジアNGOフォーラム)
ピーター・スウィフト(東南アジア開発プログラム)
世界熱帯林運動(WRM)会報54号 (2002年1月)
「タッピング」(木に穴をあけて樹液を取ること)によって樹液を採取する方法は東南アジアで長い歴史を持っています。伝統的なタッピングの方法は、木の幹の底部に穴をあけ、火を使って樹液が間断なく流れ出てくるように刺激してやります。カンボジアで生産される樹液は、インドシナ半島全域をはじめ、東南アジアの他の地域や中国にまで輸出されてきました。
未だに森の残るカンボジア国内のほぼ全ての地域で、村人たちは樹液を採取して収入を得ており、こうした森林地帯は、高度に発達した共同管理方法で守られています。村人たちは樹液の取れる木を私有しており、ふつう誰かが樹液をとったら、あとの人はその木から樹脂をとりません。一本の木からは何年も樹液がとれ、その木はやがて婚期を迎えた子どもへと受け継がれます。森林は巧みに区分けされ、各区域個々の家族によって管理されます。
樹液の採集が村人たちの収入源として重要な価値を持つことから、村人たちは積極的に森林を守ろうとします。木を所有する村人は自分の木だけでなく周囲の森にも気を配り、誰も森を切り開いたり農地に転換することは許されません。カンボジアの現行森林法と議会で審議中の森林法草案はどちらも、村人たちが樹脂をとった木を伐採することを禁じています。しかしながら、特許権を持った者たちが大勢で下請け(場合によっては軍隊)を雇い、この法律や他の森林関連法・規制に対する違反行為を行なっています。樹液のとれる木は伐採され、またそうでない場合でも村人たちは所有する木を売らされるはめになってしまいます。
現在、多くの地域で、樹液のとれる森を公的に認知するよう求める村人たちが出てきました。こうした村人たちが、人の立ち入らない地域で森林法や関連規則を遵守・徹底させる上で重要な役割を果たしはじめているのです。
例えば、2001年2月のことですが、Pheapimex Fuchan特許会社が伐採を行なっているのを見て、O Lang村の17人の村人たちがいっしょになって自分たちの木を守りに行きました。会社の関係者がやってきた時、村人たちは樹液の取れる木の伐採を禁じた森林法の写しを見せました。すると、会社は伐採を中止しました。それからおよそ1ヶ月後、会社の関係者が今度は村人の木に札をつけにやってきました。村人から報告をうけた部落の長は、三つの村から集まった53人の村人たちとともに現場へ向かいました。そして札をつけている社員に会って、森林法が樹液の取れる木の伐採を禁止していると説明しました。社員は札を取りはずし、伐採を中止しました。それ以後、この地域では樹液のとれる木々が伐採されたことはありません。
また、2001年初頭、Tum Ar村の村人たちは中央政府に対して異議申し立てを行い、Grand Atlantic Timber (GAT)特許会社が伐採準備のために木に札をつけている件について抗議しました。その結果、業者は急遽準備をとりやめました。しかし、同年7月、GATは再び伐採の準備にとりかかりました。村では地域協議委員会(CCC)を設立して、村人たちは樹液の採取を兼ねて森のパトロールを開始しました。現在Tum Ar村では、村人たちが森林法にかんするはっきりとした理解をもとに、自分たちの森林を継続的にパトロールしています。同じようにRonteah村でも、最近、自分たちの森が伐採されていると知った村人たち20人あまりが伐採行為を止めに行き、成功しています。
Kampong Damrei部落では, Casotimという特許会社が森の木を伐採していました。5月頃のことですが、村人たちは「樹液の採取を守れ」というシールを自分たちの木々に貼り始めました。村人たちはさらに森林局による樹液採取の「手順」も貼り付けました。その結果、これらの木々は伐採されませんでした。さらに最近のことですが、地域協議委員会の委員が選出された直後、同じ会社がラベルの貼られていなかった3本の木を伐採してしまいました。村では20人の村人を集めて伐採をしている人びとに会いに行きました。しかし伐採をしていた者たちはすでに引き払った後で、会社に雇われた兵士たちが現場に残っているだけでした。
兵士たちは村人に向かって、「共同林をつくったら食べるものがなくなることが分からないのか?政府に全部取り上げられてしまうぞ」と言いました。そこで村人たちは、この件をどうするか、協議会委員が参加する月例会合で話し合いました。県の森林環境局の役人は、県知事がこの件について各方面の協力を得るための話し合いを召集し、その席に軍関係者も招くべきだと提案しました。
カンボジアの森林地帯、またはその付近に存在する村々は、樹液のとれる木が伐採されていることで非常な影響を受けています。最近まで、これらの村々に住む村人たちは森林の伐採権に適用される多くの法にかんする知識を持っていませんでした。
森に住み樹液の採取にたよって生活する村人たちが教育され、力をつけることが、森林を管理する諸機関に対して、特許業者の木材伐採を規制する法令や規制をきちんと施行するように要求する際の動機付けとしても中心的な役割を果たしています。地元の人びとが森林関係の法令や規制にかんしてさらに知識を蓄え、そして力をつけることで、自らの権利によって最も主体的に、そしておそらく最も効果的に森林法の運用をうながすことができるのです。