メコン河開発メールサービス 2002年4月29日
4月9日のメールニュースでお伝えしました北タイでの大規模な農民デモの最終報告をチェンマイの三宅夕姫さんが送って下さいました。デモ終了後、すぐにまとめて下さったのですが、配信が遅くなってしまいました。争点は、農民たちの、水、森林、土地に対する権利、それに多額の借金です。ODAによる構造調整や自然資源の商品化が進む中、北タイの農民たちは、自然に依拠した自らの生活を守るために闘いを続けています。
以下、三宅さんの報告です
3月10日以降1ヶ月にわたって北タイのチェンマイ県庁前にて行われていた北タイ農民によるデモですが、去る4月9日、デモによって提示・要求されていた各項目の交渉結果が内閣で承認されたのを受けて、翌4月10日、デモもついに終了、撤収しました。交渉項目が8項目にのぼるため項目によって交渉結果に差はあるものの、交渉はほぼ成功、農民側の勝利です。
デモ中は禁酒のルールがあったのですが、9日の夜は解禁。皆、老若男女を問わず、地酒やビールを片手に、歌あり、踊りありの祝宴が夜更けまで続きました。また、10日の最後の全体集会では感極まってか涙ぐむ人の姿も多く見られました。
今回のデモによる交渉の成果ですが、どの要求項目についてもほぼ共通して言えることは、まず、タイ政府が、農民達が主張する問題が確かに存在することを認めたこと、そして、問題があるから解決に向けて取り組むことを公約したことです。そのため、各項目につき、問題の詳細を調査するための、あるいは問題の解決に向けて取り組むための政府と農民達の合同委員会の設置が約束されています。その意味では、やっと問題の解決に向けてスタート地点に着いたに過ぎず、困難なのはこれからという気もします。
しかし、こうしてデモンストレーションという形で何らかの声を出して主張しなければ、決して政府から気を配られることもなく、いつまでも変わることなく続く農民達の貧困。今回、デモというものに初めて参加したという農民にもたくさん出会いましたが、政府が自分達の苦しさを分かり対策を取ることを約束してくれただけでも嬉しい、長く苦しいデモに耐えた甲斐があった、彼らの最後の涙はそういう涙のように私には映りました。
具体的な交渉結果などは、4月10日付けのネーション紙にまとめられていましたので以下に訳して添付します。ただ、ネーション紙も政府側が発表した文書を使っているのか、いくつか説明が不十分と思われる点があったので、実際の合意文書(デモの主催者側が、実際の担当大臣署名入りの合意文書のコピーを含む75頁にわたる報告書を4月10日に出しています)の要点や、一般的な背景説明などを、【*】内に私が付け加えていますのでご了承ください。
2002年4月10日 ネーション紙
農民団体によって挙げられた問題調査の委員長にチャバリット氏政府報道官のYongyuth Tiyapairatによると、昨日、内閣は、北タイ農民に被害を与えている問題の対策委員会を設置した。Chavalit Yongchaiyudh副首相を長とする委員会は、北タイ農民連合とNGOの要望に応えて、農民を救済するための政府機関となる。
農民連合とNGOは合同で8項目のアクションプランを政府に提出したが、委員会はこの項目に関する政府と農民達との合意事項が確実に実施されるように働きかけていくことになる。「委員会は、農民達の問題を解決するために8つの副委員会を設置する予定だ」と報道官は述べた。
Thaksin Shinawatra首相は、耳の治療で休養中ため、農民達の苦境についてテレビ電話を通じて内閣と話をし、大臣達に農民を助けるように伝えた。タクシン首相に問題対策にあたるよう指名された大臣達は、既に農民の代表達と、8項目のアクションプランについて話し合いを終えている。
これまでの交渉の進捗状況は以下の通りである。
森林への不法侵入【*山岳民族が慣習的に森林に住んでいること、あるいは、山岳民族が元々住んでいた土地を政府が後から森林保護区に指定したために起こっている問題を指す】:副農相Prapat Panyachatraksaが3月17日と24日に農民と話し合いを持ち、決議が合意されたが、詳細は未公開。【*政府側も問題があることを認め、今後の調査によって、一体、何人が、いつ以来何年間森林に住んでいるかなどを調査することが決められている】
水資源管理:政府は、水問題が農民へ与える影響を最小限に押さえようと検討されている水資源に関する法の制定が遅れていることを認め、農民の意見を聴取するための全国レベルの水政策委員会を設置する予定。【*実際の合意文書では、水法の制定に関しては、農民は現在政府が進めているような法律はいらないと要求となっている。だから政府も農民も法制定の遅れを容認。また、ラオ川においてパイロットプロジェクトとして現在進められている灌漑施設の国営化とそれに伴うダムの補修費について、農民が費用を負担せねばならないのではないかと懸念を表明していたが、この件については農民の費用負担はないと政府は約束】
農産物の価格低迷:政府はアグロ・インダストリー(農産業)の自由化による影響調査のための委員会を設置。小玉ねぎ生産農家には補助金が出され、ロンガンの価格を支えるための基金を設立する。【*小玉ねぎについては、昨年9月に農民が価格低迷のためにデモを行った時に160万バーツの補助金支出が約束されたにも関わらず未だに支払われていないと、同グループが今回再度抗議していた。彼らによると現在小玉ねぎは1キロ8バーツ(約25円)に達しないという】
農民の負債:問題を調査し、農民の救済法を探るための委員会を設置。【*私の前回の報告文には、デモに参加した農民の負債のキャンセルが約束された、と書いた。4月7日の時点で私が入手していた文書にはそうあったが、先程、債務問題のアドバイザーに当たっていた方に確認したところ、内閣に合意文書を送る前に担当大臣の署名を求めた時に文書の書き直しがあったよう】
少数民族【*少数民族の市民権】:国境周辺に住んでいる少数民族を移動させるかどうかについては政府はまだ結論に達していない。【*北タイには今日、少数山岳民族が8グループ程存在するが、その大半に対しタイ国は市民権を認めていないために起こっている問題。今回のデモで担当大臣が問題を認め、対策委員会を設置】
自家製酒(の販売):委員会は、密造酒を作った農民を逮捕しないように税務局に取り計らうようにとの村人の要求を検討する。
3つの環境影響プロジェクト(ランパンの貯水池、チェンマイのロンガン乾燥工場、ランパンの石炭火力発電所):政府はこれらのプロジェクトによって影響を受けた人々を救済することに合意。
(チェンマイ大学 三宅夕姫)