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タイ汚水処理>タイの首相が「不透明」と明言

メコン河開発メールサービス 2002年5月4日


日本の国際協力銀行(JBIC)による円借款援助70億円と、日本が最大ドナーのアジア開発銀行(ADB)の2億3000万ドルの融資を受けて、タイ・サムットプラカン県に建設が進んでいる汚水処理プロジェクトが、重大な局面を迎えています。長文ですが目を通して頂けると嬉しいです。

5月2日、タイのタクシン首相が現地を訪問し、プロジェクトの不透明さを住民の前で明言したのです。背景には、政府の調査報告書の存在があるようです。また、ADBの独立専門家による調査委員会は、このプロジェクトはADBの6つの政策に違反しているという調査結果を3月に公表しています。もう一方の援助機関のJBICは沈黙を続けているだけです。

ADBの年次総会が5月10日から上海で開かれます。メコン・ウォッチをはじめ、このプロジェクトの問題を追及し続けてきたタイのTERRA、アメリカのBank Information CenterなどNGOは、上海でも精力的にロビー活動を行なう予定です。

以下、(1)5月2日のタクシン首相の現地訪問についての土井利幸氏の現地報告、(2)タクシン首相の訪問に関する報道、(3)ADBの独立調査に対する住民からADB総裁へのレター、(4)独立専門家による調査結果を受けたADB理事会に関するプレスリリース、をお伝えします。


【1.タクシン首相の現地訪問レポート(土井利幸)】

午後5時に現地に到着したタクシン首相は、まず住民が準備した船に乗り込み、住民リーダーからクロンダン地区の漁業について説明を受けた。おりしもイガイを満載して寄港した船を対岸に見つけて首相はひどく感心した様子。この後、住民や記者団を乗せた三隻の船と数隻の巡視船をしたがえて湾内に繰り出した。湾の出口に通じる運河の両側では住民が船上や対岸から首相に手を振り、歓迎の横断幕も見られた。しかし、この時付近を通過した雷雨のために湾内見学は切り上げられ、30分後にタクシン首相は対話集会の場に急いだ。

屋外テントに用意された500あまりの席に座りきれず、雨を避けようと会場を取り囲んだ参加者は約1000名。まず、住民リーダーの一人ダワンさんが「ADBの政策違反が明らかになった今、タイ政府としてはどのような対策を取るつもりですか。建設業者は工事の遅れが政府の責任だとして法外な補償金を請求していますが、どうするつもりですか」と、前日から用紙した質問を矢継ぎ早にマイクに向かってぶつけた。もう一人のリーダーであるチャラオさんも「クロンダンは環境や文化や宗教のどれ一つ取っても、とっても豊かなところなんですよ。汚水処理施設ができたらそれが失われてしまいます」と訴えた。

二人が発言したところで、感想のマイクを向けられたタクシン首相は立ち上がって謝辞を述べた後、おもむろにマイクに向かって、「この計画は明朗ではありません(クロンガン・ニー・マイ・ブローン・サイ)」と一言。この時、コンマ何秒か時間が止まり、そして会場をわれんばかりの拍手が包んだ。タクシン首相はさらに「計画による悪影響が出るかも知れません」など計画に否定的な発言を続けて、「各方面の協力を得て、なんとか解決策を模索したいと思います」としめくくった。

午後6時半、首相の一行が会場を去った時、まだ司会用のマイクをしっかりと握り締めていたダワンさんは、だれかれなくつかまえて、「タクシンが『汚職がある』って言ったわよ!」、「『影響がある』って言ったわよ!」と興奮さめやらぬ様子。「これまでいろんなところで住民と対話したけど、こんなにはっきりと言ったことなかったわよ!」

住民たちが首相訪問を知らされたのは4月30日の夕方。当日まで二日もない。「なぜ突然?」と憶測が飛ぶ。どうやら理由の一部は、二週間前に完成したばかりの調査報告書にあるようだ。この政府委員会作成の報告書には、サムットプラカン県汚水処理施設の今後に関して三つの可能性が想定されているという。その一は、施設を完成させる。その場合、建設業者が建設遅延を政府の責任として請求している賠償金の支払いを逃れることはできる。しかし、いずれ施設を運転する電気代を支払うだけの資金が底をつく、と報告書は述べている。その二は、施設建設を一時中断し解決策を検討する。この場合には、環境影響評価などあらたな調査を行なわざるを得なくなる。三つ目の選択肢は、施設を完成させてしまうが全く別の用途に使用する。これには、海洋資源研究センターなどが考えられ、実際住民の間からもこうした代替案が出ており、一部の上院議員からすでに支持を得ているという。

5月10日から上海でADBの年次総会が開催される。ADBは独立審査機関(インスペクション・ファンクション)からこの汚水処理施設建設に関して6つもの政策違反を指摘されながら、住民のためになる何らの手段もこうじて来なかった。ADBは今回のタクシン首相の言動にどう対応するつもりなのだろうか。


【2.タイの報道から】

首相がクロンダンを訪問
プロジェクトは「透明性に欠く」と認める

Thai News Agency, May 2, 2002

2002年5月2日、(タイの)タクシン首相一行はサムットプラカン汚水管理プロジェクト地を訪問した。そして首相は、「このプロジェクトは透明性に欠け、調査が必要である」ことを認めた。

首相とソンタヤ科学環境技術大臣はクロンダン区を訪問し、ボートに乗ってマングローブ林と周辺の環境を視察した。この一帯は、地域住民が生計を依存している沿岸海洋生物の漁場として重要である。首相一行はまた、海上で(処理後の)排水を放出する場所と同様に、貝の養殖場や漁業活動を視察した。しかし、視察は大雨で短縮された。

ボートでの視察後、タクシン首相は地域住民と会合を持ち、このプロジェクトは透明性に欠け、調査の必要があると述べた。このプロジェクトにはすでに多額の資金を費やしているので、今の段階ではどうしたらいいかについて考えはないが、問題の解決は必要である。中央政府レベルで科学環境技術大臣に助言する委員会が設置され、全ての問題についてフォローアップすることになるだろう。首相はまた未確定の報告書を受理し、(それによると)このプロジェクトは重金属を処理しないと述べた。もしそれが事実ならば、生態システムに影響を与え、この地域の海洋資源を壊すことになるだろう。

住民たちは首相に対してこのプロジェクトを廃止し、「海洋動物研究センター」に変えるように要求した。


【3.住民からADB総裁へのレター】

2002年3月26日

サムットプラカン汚水処理プロジェクトの独立審査について

アジア開発銀行総裁 千野忠男様

サムットプラカン汚水処理プロジェクトの独立審査が終わり、独立審査パネル及び理事会審査委員会(BIC)の報告書が公開された。

クロンダンとソンクロンのコミュニティ代表である私たちは、独立審査のプロセスと独立審査パネル・BICの見解への懸念を表明したいと思う。独立審査パネルの見解によれば、ADBはプロジェクトの審査・実施において6つの政策・手続きに違反したという。具体的には以下の通りである。

特に、独立審査パネルは、1998年の追加融資について再審査を行わなかったのは致命的な欠陥であり、他の政策違反につながったと結論付けている。

独立審査パネルはまた、ADBが次の政策について部分的に違反していたとする。

パネルはまた、地域住民、特に生計を沿岸の生態系に依存する人々のの権利と利益に対する直接的物質的な被害の評価として、次のように述べている。

私たちは、独立審査のプロセスに問題があり、受け入れることができないことを再度明らかにしておく

  1. 独立審査パネルの活動計画に関する業務指示書(TOR)は、独立審査そのものの本質を危うくするものであった。
  2. パネルの活動計画は、審査を申請した地元住民の懸念よりも、ADB経営陣の優先事項に焦点をあてていた。
  3. 独立審査パネルは、サムットプラカン汚水処理プロジェクトによって被害を受ける地域住民と十分に協議し直接情報を得るのに必要なプロジェクト地訪問を行うことができなかった。
  4. 独立審査パネルはマニラのADB事務局で活動した。このことは、ADB外の独立の情報源へのアクセスを困難にした。

こうした限界の多くは独立審査パネルのメンバー自身によって表明されている。BICに提出された最終報告書の中で、独立審査パネルは次のように述べている。

「今回の審査での事実確認のプロセスは不十分であった。不十分な情報の結果、事実の検証は極めて困難となり、分野によっては事実認定が不可能であった」(最終報告書、パラ18)。さらに、「パネルは審査プロセスの根本的な限界を認識しており、必要な全ての情報を得ることができなかった。限られた情報と分析に基づき、パネルは申請者が提出した主張について一定の結論に達した」(最終報告書、パラ157)。

パネルは、ADBは「機密保持と情報公開」、内部監査の2つの政策に従っていると結論付けた。パネルはまた、本プロジェクトの汚職疑惑について、ADBの一般監査室が内部調査を行ったことは「周知の事実である」と主張している。しかし、タイの一般市民やクロンダン住民はこの内部調査の結果を知らされておらず、汚職疑惑に関する私たちの懸念はADBによって十分に検討されたとは言えない。

BICは、独立審査パネルの結論のうちいくつかの重要な点、例えば「コスト超過時の追加融資」、「ADBの業務調査団」、ガバナンス、「便益監視と評価」の違反について同意している。しかし、BICのADB理事会への勧告は、話にならないほど実効力にとぼしく、パネルの結論とのつながりもない。

ADBの指導者及び上級幹部は、自身の行為について責任をとるつもりはなく、間違いを正すための適切な行動をとるつもりもないのは明らかだ。

独立審査パネル及びBICの報告書によって、ADBはサムットプラカン汚水処理プロジェクトの審査・承認・実施において深刻な過ちを犯したことが明らかになった。したがって、ADBは即座にプロジェクトに対する財政的支援を中止するべきである。

ADBは、精神と行動の双方において、「良い統治」の実現に最大限の努力を行っていることを示す骨太かつ正しいステップを踏み出さない限り、クロンダン住民との「誠意ある」対話など望むべくもないことを肝に銘じるべきである。

Narong Khomklom、クロンダン村村長

Chalao Timthong、クロンダン村民

Dawan Chantarahassadee、クロンダン村民

(翻訳/福田健治)


【4.ADBニュースリリース No. 036/02 】

ADB理事会、サムットプラカン汚水処理プロジェクトに関する勧告を承認
理事会はADBインスペクション・ファンクションの見直しを歓迎

フィリピン・マニラ(2002年3月28日)--アジア開発銀行理事会は月曜日、クロンダン住民から提出された審査請求への対応策として、理事会の常設委員会である理事会審査委員会(BIC)が作成したタイ国サムットプラカン汚水処理プロジェクトに関する勧告を承認した。

理事会は、BICの報告書について留意し、BICの3つの勧告を1つの説明付きで承認した。理事会はまた、この決定を全て公開することに合意した。

理事会議長(=総裁)である千野忠男氏は、議論の締めくくりとして次のように述べた。「ADBの政策・手続きに関する遵守の問題は、本日承認された勧告には含まれていないが、この実際に違反があったかという重要な問題について、理事の見解は分かれた。理事会メンバーはみな、パネル報告書、ADB経営陣の回答、BIC報告書で表明されたそれぞれの見解を認識している。しかし強調したいのは、私はそれぞれの見解と専門的判断に敬意を払っているということだ。今日、理事会議長である私にとって重要なのは、各理事の見解を聞くことができたことだ。ADBの株主である皆さんの見解とアドバイスは極めて重要である」

「初の審査となった今回のケースは、大きな学びの機会となった。実際に、私たちは一連のプロセスを通じて、独立審査政策の機能を学び、理解し、解釈し、明確にしてきた。今、サムットプラカンに関する独立審査は終了した。今すぐガバナンスを達成するための重要な道具である独立審査機能を改善することに注力することは、時期を得ておりまた重要である。皆さんがご存知の通り、私はすでに独立審査政策の見直しを行うための運営委員会と作業部会を設けた。私たち全てがこの見直しに積極的に参加しなければならない。特に、全ての関係者の見解を反映するために、誠実かつ熱心に、ADB内外の人々との協議が行われることは非常に重要であると考える。私はスタッフに対して、この重要な政策文書の準備にあたって、透明性と理事会との頻繁な協議を確保するよう指示した」

「現在私たちは、独立審査政策の見直しと同時に、業務マニュアルの包括的かつ体系的な見直しと更新を精力的に行っている。これは業務政策が適切に関連する業務マニュアルに反映されるよう確保することを目的としている」

「最後に、理事会メンバー、BIC及びパネルメンバー、今回の独立審査に関わったタイ政府関係者、またADB経営陣・スタッフの貢献と努力に感謝したいと思う。パネルは独立の組織としてなすべきことを行った。タイ政府は自身の主張を表明してくれた。ADB経営陣とスタッフは専門性と経験に基づいて回答を作成した。BICは分析を行い報告書にまとめてくれた。そして理事会は最終的な責任を果たした。それぞれが役割を果たしてくれた。全ての見解と努力はADBのためになっている」と千野氏は述べた。

サムットプラカン汚水処理プロジェクトは環境改善を目的としており、プロジェクト経費である7億5000万ドルの一部(2億3000万ドル)がADBによってまかなわれている。プロジェクトは、汚染がひどい地域の運河や川を通じて海へと垂れ流しになっている工業・商業・家庭排水を処理するべく設計されている。現在、汚水は100万人に達する住民への健康リスクであり、タイ湾岸のかなりの長さを汚染している。プロジェクトは水質汚染を排水の排出源と最終処理時において対処する統合アプローチを取っており、汚水問題を最小化しようとする積極的な試みの代表例である。

(翻訳/福田健治)

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