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ラオス・ナムトゥン2ダム>国際環境NGOの関与をめぐる議論

メコン河開発メールサービス 2002年6月22日


少々長いメールニュースです。ラオスのナムトゥン2ダムをめぐる議論が繰り広げられています。ナムトゥン2ダムは、かつて東洋のガラパゴス諸島と呼ばれたラオス中部のナカイ高原45,000haを水没させる1000MWを超える巨大ダムで、漁業被害を含めた被影響住民は人口500万人のラオスで10万人を超えると見込まれています。フランス電力公社(EDF)などが出資した企業が開発を進め、世界銀行が支援を検討している段階です。

世界銀行がプロジェクトを支援するかどうかを判断する1つの材料が、プロジェクトによる環境影響を軽減し、むしろ自然保護につなげることができるかどうかという点です。ダムの経済性を考えれば、銀行が集水域の保全を考えるのは、環境への配慮というよりは、ダムの経済性への懸念に過ぎないと言えるでしょう。

この環境影響の軽減に多大な協力をしているのが国際的な環境保護団体のIUCN(国際自然保護連盟)です。以下の2つの記事及び手紙は、IUCNのナムトゥン2ダムプロジェクトへの関与に対する批判と、それへの反論です。

ともに一橋大学大学院の東智美さんが翻訳して下さいました。


【ICUNの関与を批判する世界熱帯林運動の記事】

ラオス:ナムトゥン2ダムにおけるIUCNの危うい役割

クリス・ラング:chrislang@t-online.de

世界熱帯林運動 会報56号、2002年3月(英語版)

こんな状況を想像してみてほしい。ある企業が環境団体に資金を提供した。その企業は、熱帯地方で大規模かつ環境への損害が非常に大きいプロジェクトを計画しているが、一方で周辺の森林地帯を保護する資金を提供することにも同意している。環境団体は、そのプロジェクトに反対するのではなく、保護区を管理するための調査を行い、プロジェクト推進を奨励した。

残念なことに、この架空のシナリオは全く架空ではない。「ある企業」とは、フランス電力公社(EDF)という世界最大級の電力公社だ。そして、「環境団体」とは、国際自然保護連盟(IUCN)であり、「環境への損害が非常に大きいプロジェクト」とは、ラオス・ナムトゥン2ダム水力発電計画のことを指している。今年2月、タイ政府は、その1000メガワットの水力発電用ダムが建設されたら、そこから電力を購入するという「初期買電契約」に調印した。

IUCNのウェブ・サイトによれば、EDFは最近までIUCNの「環境保護パートナー」であった。IUCNの資金源及び多国間政策関係担当であるセバスチャン・ウィンクラーは、「我々のウェブ・サイトに載っている後援企業のほとんどは、IUCNの50周年(1998年)記念に寄付を寄せてくれた団体だ」と説明した。「我々はEDFと対話を始める道を探っていた」とウィンクラーは付け加えた。彼は「IUCNは世界の巨大電力会社が参加するE7グループに加入している」、「EDFもまた、1992年に結成されG7諸国の電力会社から成るE7のメンバーである」とも指摘している。

EDFは、フランス国内に58もの原子力発電所を建設し、現在東ヨーロッパに原子力技術を輸出しているだけではなく、時代遅れで、高額かつ社会的・環境的に有害な技術を今一度ラオスに輸出しようとしている。EDFは、メコン河の支流であるトゥン川に15億米ドルをかけてナムトゥン2ダムを建設しようとしているナムトゥン2電力会社(NTEC)の35%を所有しているのである。この合弁会社に出資しているのは、EDFの他に、ラオス政府(25%)、イタリア・タイ開発(15%)、そしてタイ発電公社の一部である発電会社(25%)である。

ナムトゥン2ダムが建設されれば、ナカイ高原の450平方キロメートルが水没し、28の異なる民族に属す5000人の人々を現在の住居から立ち退かせることになる。貯水池を作るために、高原や周辺地域の森林はすでに伐採され尽くしている。貯水池から流れる水は、発電所を通って、メコンの別の支流であるセ・バン・ファイに導水される。独立した調査によれば、このプロジェクトが引き起こす漁業被害や川岸の農園の水没によって、セ・バン・ファイ沿いに住む少なくとも120,000人の人々の生計が、深刻な損失や脅威にさらされる。このプロジェクトの事業主であるNTECは、セ・バン・ファイにおけるプロジェクトの影響についての調査を行っていない。

一方でNTECは、ナカイ−ナムトゥン保護区を含む集水域を保護するために、30年間にわたって、ラオス政府に年間100万ドルを支払うと主張している。IUCNの論法では、このダム計画が保護区に財源を得る唯一の方法なのである。そして、IUCNは保護される集水域についていくつか調査を行なった。その中には、ナカイ−ナムトゥン集水域・回廊地帯のための環境社会管理計画がある。IUCNはラオス政府にプロジェクトについても助言を行っている。

世界銀行(ダムによる環境破壊が起こる時にはいつも世銀の影がちらつくようだが)は、1997年にデイビッド・マクドウェルIUCN理事(当時)を国際顧問団の一員に任命し、その時から、IUCNはさらにナムトゥン2ダム計画に巻き込まれるようになってしまった。世銀が国際顧問団を設立したのは、ナムトゥン2プロジェクトにおける「世銀グループの社会・環境問題の扱い方について独立した評価を行う」ためだった。しかしながら、国際顧問団は、世銀の役割を評価するだけではなく、やがてこのプロジェクトを強力に推進する母体になってしまったのである。

マクドウェルは1997年に国際河川ネットワークのパトリック・マッカリーに宛てた手紙の中に、「結局のところ、計画の社会的・環境的な利点の方がマイナスの側面に勝るのです...国際顧問団としては、規制も監視も受けない民間セクターの合弁会社によってではなく、世銀が関係してダムが建設された方が、ナムトゥン流域のように世界的に重要な生物多様性が存在する地域を、より確実に保護することができると考えています」と書いている。しかし、パトリック・マッカリーがこの手紙への返事の中で指摘しているように、このプロジェクトに投資しようとしている民間の合弁会社は一つもない。世銀の「部分的リスク保証」なしでは、民間の投資機関が危険をおかしてこのプロジェクトに投資することなどないのだ。EDFインターナショナルのジャック・シゼイン代表取締役(当時)は、1997年にバンコク・ポスト紙に対して、世銀の保証なしでは、NTECがプロジェクトを続けることは難しいだろうと語っている。

NTECによれば、「ナムトゥン2ダムは、今後IAG(国際顧問団)とWB(世銀)が主要なインフラ開発プロジェクトに対して同様のアドバイスを行う際のひな型して扱われている」という。もしそれが事実なら、世銀は、「独立し」ているはず顧問たちが、プロジェクトを推進する企業からお金を受け取っている団体の仕事をしていないかを、まずきちんとチェックするのが当然だろう。また、プロジェクトが実行された時に顧問たちの関連する団体が(例えば、将来的にプロジェクトの事業主と契約を結ぶなどして)恩恵を受ける立場にないかをチェックすることも必要だろう。

一方でIUCNは、ナムトゥン2ダムのような環境破壊的なプロジェクトに関わっている企業から資金提供を受け続けてよいのかどうかを即刻自問すべきである。これは、IUCNと企業の「対話」が、企業のプロジェクトを後押ししているように見える今、特に必要である。


【IUCNの反論】

ナムトゥン2ダム、ラオスとIUCN−危うさはいつ危うさになるのか??

IUCN−国際自然保護連盟湿地及び水資源プログラム
広報担当 エルロイ・ボス

世界熱帯雨林運動(WRM)のニュースレターの最新版に「ラオス:ナムトゥン2ダムにおけるIUCNの危うい役割」というタイトルの記事があった。そこには多くの正当な質問が挙げられている。IUCN、世界銀行、またフランス電力公社(EDF)のように、公共の分野で働く団体は、公衆に対する説明責任と透明性を示す責任があり、どんな個人や団体でもそういった質問をする権利がある。記事を書いたクリス・ラング氏がIUCNに連絡を取ってきた際、我々は彼の質問に答え、彼に情報を提供したが、それは彼の記事には反映されていない。彼は、この件で陰謀など行なわれていないことを認めようとせずに―もちろんそんなことをすれば暴こうとした危うさ自体が記事からなくなってしまうわけだが―いかようにでも解釈できる話で読者の想像を煽っている。

我々にとって重要なことは、そのような記事で疑われているIUCNの独立性が損なわれたこともないし、ナムトゥン2ダムの計画過程で我々が行ったアドバイスが利益の対立を高めたとも考えられないということを示すことである。IUCNのラオスにおける関わりの背景は、生物多様性保護運動の促進や支援という長期にわたる貢献に始まるものである。

今日までのIUCNの活動の概観を以下に挙げる:

1.IUCNのラオスとの関わりは1990年代初頭に遡る。これまでIUCNは、ラオスが直面しているいくつかの主な自然保護問題に対して、政府やNGOなどラオスの諸機関を支援する中心的な役割を果たしてきた。ラオスに見られる豊かな生物多様性を保護するためには、保護地域の長期的なネットワーク作りが不可欠な手段だと考えられているが、IUCNのこれまでの活動のなかで、こうしたネットワークを育てる足がかりとなるような生物多様性保護地域に関する最初の国家システムの導入も支援してきた。我々は、森林や非木材森林生産物などの天然資源に関連するその他の分野や問題にも活動を広げてきた。こういった期間、IUCNは科学的な能力や専門的知識のネットワークを提供し、環境問題が最終的には確実にラオスの国家の開発計画のなかでより中心的に扱われるように、国家の能力や政策や法律を発展させる手助けをしてきた。

2.合弁会社がナムトゥン2ダムの計画を進め始めたとき、IUCNは、IUCNのメンバーであるラオス政府と世界銀行から、もしプロジェクトの推進が決まったら、環境保護に焦点を当てるにはどうしたらいいかということについて協力とアドバイスを求められた。IUCNは、ラオス政府に対し、独立した立場からの協力としてアドバイスを行った。そのアドバイスは、プロジェクトの全体的な運営概念における、革新的で、おそらく広範囲にわたる計画の基本的な部分として結実した。我々の任務は、全体的なプロジェクトの評価を行うことでも、ダムの環境影響を予想することでもなく、どうしたらいくつかの影響に目が向けられるか、そしてどうしたら近隣の環境保護地域の生物多様性にとって最大の利益がもたらされるかということに関し、その環境保護地域の管理や財政も含めて、20〜30年間にわたるアドバイスを行うことである。

3.デイビッド・マクドウェルが国際顧問団へ参加したことは、当時IUCNの理事長であった彼が専門家の集団の1人として、当時の利用可能な情報に基づいて、プロジェクトが完全に却下されるべきなのか、プロジェクトを次の段階に進めても良いのか、独立した立場からの見解を示すための公明正大で透明性の高い決断であった。彼個人としても、そして顧問団全体としても―メンバーは全て個人として顧問団の活動に参加したわけだが潜在的な利益はマイナスの側面を上回ると判断し、その結果顧問団はプロジェクトを次の段階に進めても構わないという結論に至った。

4.今日もIUCNの立場は変わっていない。IUCNは、ナムトゥン2ダムに対して、支持も反対もしてきていない。IUCNは、特に環境的な計画と社会的管理計画を重視して、プロジェクトの展開を監視し続けるつもりである。そして、生物多様性保護の立場から積極的に貢献できるようであるならば、メンバーと関係者に対するアドバイスを続けていくつもりである。IUCNは、ラオスにおける開発の道は複雑なものであって、単一のプロジェクトだけではなく、国の全体的な開発のシナリオを見ていくことが求められていると考えている。我々は、10年以上にわたる生物多様性の保護と持続的な資源管理の促進活動を通じて、自分たちの能力と長期にわたる貢献を証明してきた。この期間、我々は、ラオスのパートナーとの対話において、困難に直面することもあった。しかし、IUCNは、ラオスのような国が開発の方向について良識のある選択を行えるように、最も役に立てるアドバイスを行っていくことが、自らの役割であると信じている。そのような貢献は、成功することもあれば、つまずくこともあるだろう。

5.クリス・ラング氏は、彼の記事の中で、このプロジェクトを進めている合弁会社のパートナーの一つであるEDFが我々のウェブ・サイトに「環境保護のパートナー」として載っているので、IUCNは利益の衝突に直面していると述べている。我々は、ラング氏に、EDFの寄付は、フランス政府と多くのフランス企業や財団によって主催されたIUCNの50周年記念に対して行われたものであると説明した。それは、我々のラオスでの活動には全く関係なく、資金は、フォンテーヌブローで開かれた記念大会と行事のために、IUCNのフランス国家委員会(IUCNのフランスにおける政府及び非政府メンバーの登録団体)に寄付された。ラング氏にも提供されたこの情報を考慮に入れれば、複雑な陰謀説を作り出そうとするのはいささか不誠実であるように思われる。そして、この陰謀説の行き着くところが例の「危うさ」である。IUCNは政府系団体、民間団体及びNGOから寄付を受け取っている。それは、我々のように地球規模の環境保護活動に対応する団体にとっては、生命線である。我々は、利益の対立が起こる状況を避ける必要があるということははっきり認識しているので、ラング氏による監視を歓迎している。しかし、このケースについては、我々はラング氏の主張が真実であるとは全く思わない。

6.この十年間、IUCN−国際自然保護連盟は、何度もダムとダムがもたらす湿地の生態系、生物多様性、そして人々に対する影響についての議論を行ってきた。IUCNは世界銀行とともに、世界ダム委員会(WCD)の設立に寄与したが、そのWCDはダム計画に対する最先端の水準の批評を行い、水やエネルギーの資源管理とダムの管理・運営における選択肢の評価を改善するための方向を示した。IUCNは、世界中での幅広い活動を通じて、WCDのその後の過程を支援する公的な活動を行ってきた。

時に複雑で議論の余地があるプロジェクトに関係する場合であっても、我々の任務はコミュニティと国家が良識のある選択をするように支援することである。IUCNの独立性と誠実さはこの役割を満たすために不可欠である。こういった理由から、我々はこの記事に対する反論は重要であると考え、正しい情報が伝わることを願っている。

(翻訳:東 智美/一橋大学大学院)

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