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北タイ山岳民族>警察当局が活動家を脅迫

メコン河開発メールニュース 2002年8月31日


タイ北部の山岳民族は、「タイの市民」として法的に認められないため、森林などの自然資源の利用や移動の自由など、多くの点で不当な差別とそれに関連した迫害にさらされてきました。メコン・ウォッチでは、季刊「フォーラムMekong」において、1999年の大規模な山岳民族デモとその背景を報告しています。また、近刊の号でも、大きく取り上げています。

こうした問題の解決を目指して活動しているアカ族のミジューとその家族が、7月、警察当局による脅迫行為を受けました。タイ北部で山岳民族のために活動している団体が、以下の声明を発表しています。その中心的な団体であるIMPECTの日本人ボランティアの中田好美さんの報告です。


本文書は、タイ北部において山岳民族の国籍問題と人権について活動するアカ族出身のミジューとその家族が警察によって脅された事件について書かれている。

この事件に関しては、8月6日にチェンマイ大学内でプレスリリースが行われ、テレビ・新聞などでも報道された。同日、県庁にも書類が提出され、地元警察によって真相究明を求める要請を行った。弁護士会や国家人権委員会にも協力支援を要請している。その次の週にはバンコクの警察庁にて証拠書類の提出とプレスリリースが行われている。

影響力のある人権活動家かつアカ族のリーダー的存在であるミジューに対する警察による脅迫は、山岳民族全体に対する弾圧であると協力NGOグループは見ている。実際に村レベルでは、警察・軍隊・森林局のスタッフによる賄賂の要求、逮捕など多くの人権侵害が行われてきた。麻薬売買など無実の罪をきせられるケースもあれば、森林を利用したという現在の法律では法律違反に当たる行為のために逮捕されるケースもある。関連NGOは、これまでにも個々の逮捕ケースに応じてどのような対処ができるか村人に対してアドバイスすると共に、場合によっては身元引き受け人になるなどの村人支援を行ってきた。今回の事件では、政府による人権活動家に対する人権侵害を訴えるとともに、報道されることのない多くの村人の苦しみを訴えるためにプレスリリースを行うことにしたという背景がある。

以下は事件のあらましと関連NGOによる声明である。


【人権活動家ミジューと家族に対する人権と尊厳の侵害】

コーディネイター

Inter-Mountain Peoples’ Education and Culture in Thailand Association (IMPECT)

2002年7月14日土曜日の午後3時、警察と称する3人の男がチェンマイ県サンサイ郡にあるミジューの家に踏み込んだ。当時、2人のアカ族のボランティア(アペとアロン)がミジューの家で掃除をしていた。アペとアロンは3人の男によって尋問をうけた。はっきりとした逮捕状の提示もなく、威圧的な態度で男たちは家の鍵を取上げ、女性であるアペを彼らの自動車に乗せて連れまわし、約6時間もの間拘束した。

同日午後6時45分、チェンマイ国際空港に降り立ったミジューを警察と名乗る5-6人の平服の男が取り囲んだ。ミジュー、迎えにきていた姉、5歳の姪(姉の子)がはっきりとした逮捕の理由や逮捕状もないまま捕らえられ、ミジューの家の鍵と姉の車の鍵が取上げられた。携帯電話も取上げられたため、外への連絡もできなかった。

逮捕の後、ミジュー本人は姉・姪と引き離され、2人の男から両脇を抱えられるように拘束され、国際線到着口のすぐ外に駐車してあったピックアップトラックに乗せられた。姉が所有する車は他の警察と称する男が運転し、姉と姪がその車に乗せられた。一同は、そのままミジューの家へ移動した。移動の間も携帯電話の使用は禁止された。

空港での逮捕の目的は、ミジューの家を取り調べることであった。同時に、ミジューの妹の家や、母ともう一人の姉が住む家も家宅捜索を受けていた。捜索状の提示や捜索の理由も述べられないまま、捜索は行われた。しかも、家宅捜索は夜中まで続いた。ミジューにとっては急な展開で、見知らぬ男達に家に踏み込まれた怖れから抵抗することはできなかった。

捜索の後、家は荒らされ様々な損害が出たことが分かった。例えば、200米ドルがミジューの鞄から紛失した、など。この事件は、ミジューと家族の精神状態にも大きな影響を与えた。ミジューは平常な生活を送り、安心して仕事をすることができなくなった。ミジューの母親と姪はショックのあまり具合が悪くなり、入院した。ミジューが本件を公にするのをためらった最大の理由は、警察と称する男達が家宅捜索後、本件を口外したら彼女と家族の生命の保障はできないと彼女を脅したことである。

この最初の捜索の際に警察官と名乗る男達はミジュー名義の預金通帳を取上げており、彼女はその後預金通帳を取りに警察署に出向いている。その時彼女は家宅捜索した一団が警察官であることを確認している。新聞記者(Nation)の取材を受けて、チェンマイ県第5地区警察署の捜査課長(捜査団のリーダー)は、ミジューを家宅捜索した件は、法に則った行為であると言った。しかし、まだ捜査中であるため、家宅捜索の理由は述べられないと彼は答えた。

8月3日午後6時、ミジューは2名の同僚を連れて帰宅した。そこで、誰かが家の中に侵入し、家の中を物色した跡を発見した。近所の目撃証言によると、7月29日月曜日の午後1時、3人の不審な男たちが赤い車でミジューの家に乗りつけた。証言者が当初、彼らが何をしに来たか尋ねると、ミジューに会いに来たと言った。しかし、当時ミジューはバンコクに行っており家にはいないにもかかわらず、一人の男は門の前に何時間も立っていた。さらに何をしているか尋ねたところ、チェンマイ県内の第5地区から来た警察だと証言者に名乗った。後の二人は家の裏手から家に侵入して捜索をしていたところが別の近所の人によって目撃されている。3人の男は一緒にチェンライナンバーの車に乗って去っていった。

2度目の家宅侵入の後、ミジューはサンサイ警察署に届け出、警察官が調査に訪れている。警察官の立会いの下、ミジューは家の中を調べた。現金35,000バーツと、そのお金を寄付してくれた村人の名簿などが紛失していることが分かった。一方で、3本の金のネックレスがベッド周辺で発見されたが、後に偽物と判明する。2度目の家宅侵入は、侵入者がミジューの生命を脅し、彼女の名誉を傷つけることを目的としていることをはっきりと示している。そうすることによってミジューが山岳民族の国籍と人権のために活動することを辞めさせようとしているのである。

タイ先住民・山岳民族連合(AITT、The Assembly of Indigenous and TribalPeoples of Thailand)とパートナーNGOは以下のようにこの事件を見ている。

  1. 今回の事件はミジューと家族を狙った暴力であり、国家権力の乱用である。警察による行為そのものは脅迫であり、人権や尊厳を無視している。また、タイ国憲法、刑法、刑事行政法のいくつかの条項を違反している。
  2. 今回の事件のような警察の行動を導き出した国家政策は、民主主義を基本とした国民の権利を全く尊重していない。また、NGOなどの活動に対する政府の否定的な態度を表している。
  3. 今回の事件は、人々による社会運動、つまり国民自身が自分の問題を解決する努力に対する攻撃であり、国家による弾圧である。
  4. 今回の事件は個人だけの問題ではなく、国家権力を中心に構築された既存の社会構造を、真に国民の参加による民主的な社会に変えるために活動している全てのNGOの問題である。
  5. 社会の中で守られるべき存在である山岳民族の女性や子供が政府役人によって脅迫された今回の事件は、明らかに「女性に対するあらゆる差別撤廃条約」の違反である。タイ政府は本条約に調印している。

私達は政府や関係諸機関に以下の要求を行う。

  1. 政府は国民の政治参加に関して民主的な考え方を学ぶべきである。自由権、人権、人間としての尊厳は尊重されるべきであり、国民による社会運動には相応の敬意を払うべきである。
  2. 政府は内務省と警察に今回の事件に関して以下の事項を調査する委員会を設置するように指導しなければならない。
    1. 誰がミジューと家族に対する逮捕と家宅捜索を行う命令を下したのか。そしてその行動の理由と証拠は何か。
    2. 今回の事件のような行動は法律や憲法を違反しているか。
    3. ミジュー、同僚、そして家族の自由や人権を侵害し、名誉を傷つけた今回の事件は、権力者による法を悪用した権力濫用ではないか。
    4. ミジューの家の家宅捜索を行った捜査団の行動は、法律や憲法に則った警察官としての義務だったのか。
  3. 政府は、国民の自由と人権を脅かすような権力の濫用を防ぐためにも、国民の安全、自由、人権を保護する責務があることを認め、宣言しなければならない。

2002年8月6日 火曜日 

チェンマイ大学女性学センターにて発表

発表団体

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