ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > メコン上流浚渫 > 北タイ住民が中国大使館前で抗議
2002年もまもなく終わろうとしていますが、メコン河流域開発にとって、この1年は最上流国の中国の影響力を強く認識させられた年だったと思います。
以下、北タイの住民グループの動きと現地英字新聞の報道を中心に、バンコクの土井利幸(メコン・ウォッチ)の報告です。
メコン河上流浚渫計画に関するアップデートです。
これまで「12月15日(日)にビルマ・ラオス間で浚渫・爆破工事再開」と報道されてきましたが、現時点(12月29日夜)でも工事再開の確認は取れていません。中国の技術者がすでに現地入りしたとか、ラオス政府が中国政府に工事の見合わせを要請したとか、入ってくる情報は断片的で、「情報不開示」というこの計画にまつわる根本的な問題が露呈している格好です。
しばらく連日のようにこの件を報じていたタイの英字紙も、最近では12月23日にネイション紙が交通省の高官の発言を報じた程度です。タイ政府では国境線確定の関係から国防省が浚渫・爆破工事に反対していますが、ネイション紙の記事によればこの交通省高官は「今回の浚渫・爆破工事はタイの通商路には下流すぎて得られる利益はないが、反対するとラオス政府が気を悪くして外交関係を損なう」と語ったそうです。ラオス政府に気を使うとはタイ政府もずいぶん遠慮深くなったものです。
前後しますが12月15日の工事再開をなんとか阻止しようと、北部タイの影響住民の団体やビルマの少数民族の組織が12月12日(木)にバンコクにある中国大使館前で抗議行動を行い、計画即時中止要請の書簡を叩きつけました。以下、その時の模様をバンコク・ポスト紙の記事の翻訳で紹介します。
なお、各書簡の英語原文は以下のサイトに掲載されています。
土井利幸@バンコク
Anchalee Kongrut・Porpot Changyawa署名記事
バンコクポスト紙2002年12月13日
昨日(12月12日)、村人たちが中国大使館の前で抗議行動を行い、中国政府に対してメコン河の早瀬を除去する計画を中止するよう呼びかけた。
メコン河航路改善計画によって被害を受けるタイ・チェンライの村人たちは昨日、中国政府に同計画を中止するよう要請する書簡を大使館に手渡した。村人たちは新たな環境影響評価の実施を求めている。
「中国政府が書簡を読んでくれるかどうかは分かりません。でも、中国の計画が他国の人々にとって良くないものであることを言ってやらないといけないんです」とチェンコン郡からやってきたPrasong Tanasombat氏(60歳、漁師)は語った。
この抗議行動は、タイ・中国・ビルマ・ラオス各政府に働きかけて計画を中止させようとする村人たちとNGOによるキャンペーンの一環として行なわれた。抗議行動参加者によれば、中国雲南省からチェンライに商品を運んでくる大型船舶によって環境に被害が出る。
爆破作業によって航路が延長され、500トン級の船舶がラオス・ルアンパバーンまで航行できるようになる。
爆破は日曜日(12月15日)に再開される見通しである。チェンライのタイ水域にあるコン・ピー・ルアン早瀬も来年早々には除去されることになっている。
中国政府は同計画に対して2億2000万バーツ(約6億6000万円)を寄贈。中国資本の会社が委託を受けラオス・ビルマ・タイ部分の作業を行なうことになっている。
環境影響評価をまとめたのも中国政府だが、村人や環境保護団体のメンバーはあまりにも性急に実施されたとしている。
1992年に中国政府が主導して始まった同計画は、大型貨物船の航行を可能にすることで国家間の貿易ルートを拡充することが目的である。中国・ビルマ・ラオス・タイの四ヶ国は、昨年6月に全長5,594キロのメコン河の航路を拡張する同意書に調印した。
昨年四ヶ国が同意した計画では、メコン河の11地点で大きな早瀬が除去されることになっている。パパット・パンヤチャタック天然資源・環境大臣は、メコン河の生態系に起こりうる影響を調べると語っている。
在バンコク中華人民共和国大使殿
メコン河早瀬爆破計画を十分な環境影響評価完了まで中止する要請
2002年12月12日
私たち、メコン河に生活を依存する草の根の地域社会を代表する諸団体ならびにタイ学生組織は、ここにメコン河航路改善計画に対する懸念を表明する書簡を送ります。同計画は大規模計画であるにもかかわらず、住民参加・透明性確保・良きガバナンス(統治)が全く実施されていません。
まず第一に、メコン河に生活を依存する地元住民は同計画について知らされず、意思決定の過程にも加わっていません。これは基本的人権の侵害です。
第二に、これまでに実施された環境影響評価(EIA)は全く不十分で、漁業・社会・伝統・河川の生態系への影響など、想定しうる被害を全般にわたって評価した上で作成されたものではありません。住民が参加することなく、流域四ヶ国政府の関係者の手で実施されたものです。
私たちの経験では、先の乾季にラオス・ビルマ国境で三つの早瀬が爆破されたことで、流域に住んでいる人々に甚大な被害がもたらされました。例えば雨季にはメコン河の激しい水流によって、タイやラオスで河岸の侵食が起こっています。この侵食によってラオス側の河岸にあった113世帯の家屋が損失しました。また、大型船舶の通行が起す大波によって、地元の漁船も被害を受けました。
第三に、被害を防ぎ最小限にとどめる手段の検討がなされていません。社会・環境影響の観点から検討すべき手段は多々あります。
第四に、早瀬の爆破は周辺の資源や安定をおびやかし、持続可能な開発に背を向けるものです。
私たちは、中国政府の経済的支援によってこの計画が2002年12月15日に再開することを知りました。そこで、ここに以下の点を要請します。
私たちは、自らの権利とメコン河とともにある生活をここに主張します。
メコン河上流村民団体ネットワーク(北部タイ)
チェンコンを守る会
貧民フォーラム
タイ学生組織