ホーム > 資料・出版物 > メールニュース >メコンの魚>漁民たちは「激減」と証言
2か月くらい前の記事ですが、メコン河の捕獲漁業の水揚げが減っているというルポです。メコン・ウォッチの翻訳ボランティア井山美穂さんの翻訳です。
バンコクポスト、POONA ANTASEEDA記者
2003年1月26日
メコン河下流の村人や環境派の人たち(environmentalist)たちによると、ここ数年漁獲量は劇的に減少しているという。更なる壊滅的打撃が待ち受けているにもかかわらず、他の人たちは誰ひとり心配しているようには見えない。
タイのウボンラチャタニ県コンジアム郡では、メコン河は、タイを離れラオス国内へと曲がっていく。メコン河は国境の村Woenbuekでタイ領内から離れていく。この小さな漁民の集落は100世帯弱。そのうちの大部分がメコン河からの魚を当てにしている。この村はコンジアムの街中からからボートで約30分のところにある。
「私は半世紀もの間、メコン河で漁業をしてきた」と、60歳のBuasi Kaewsai氏は言う。魚網の修繕箇所を繕いながらそう話しているとき、彼はメコン河で初めて魚を捕まえた小学校時代のことを思い出していた。
Buasi氏は最近では1日あたりおよそ200バーツ(約600円)の稼ぎを漁から生み出しているが、これは以前よりかなり少ないのだと言った。Pua nua onやbleekeriといった魚は1キロ当たり70バーツする。Pla jogやholdier river barbといた魚なら1キロ当たり90バーツだ、と彼は言う。バンコクの市場では、そうした魚は1キロ当たり120〜150バーツで売れる。
「昔はよく一日に6キロも捕ったもんだ」と彼は言う。「今じゃ2キロ捕れればラッキーだよ」
Buasih氏は、魚が減ったのはパクムンダムのせいだと非難する。ダムはWoebnbuek村からメコン河上流へ流れているメコン河支流の母なるムン川に建設された。
「今じゃ、私たちはダムが建てられる前より少ない魚しかとれない。ダムはメコン河の水量に不自然な変動を引き起こしている」と彼は言う。「だから漁獲量が減っている」。中国の雲南省にあるメコン河上流に沿って建てられた大きなダムがより深刻な影響をもたらしていると言う人もいる。
Buasi氏は、ダムが生態系の点からどのように川に影響しているのかは知らないのだと認める。「私は魚が減ったことだけはわかる。もしこれが続けば、私たちは収入を失い、しまいには職を求めてバンコクへ行くことになるだろう」。
Woenbuek郡の31歳の魚行商人であるWichian Piegna氏は、この老漁民の嘆きを繰り返す。
彼によると、昔は各週タイとラオスの漁民からメコンの魚を平均して2トン買い上げたものだと言う。「今はたった1〜2トンしか買えない」。
「私が思うに将来、メコン河の魚はますます減っていくだろう」と、魚行商人は言った。
この漁村での言い分は、メコン河のあちらこちらから聞こえてくる一般的な警鐘を示唆している。
Woenbuek村のメコン河はたった300メートル幅だ。河をはさんで向かい合わせにあるタイとラオスの集落はよい関係を保っている。ラオスの漁民たちは河を渡って、Woenbuek村のWichian氏に魚を売った後、建築材や食料を買い込むのである。バンコクポスト紙の「日曜の視点欄(Sunday Perspective)」は、北タイのチェンライ県のチェンコンから南ラオスのコックパデーク村へと川下りをした。どこでも漁民は同じことを言う。「メコン河の魚は減った」 。
Kokpadaekの村人は言った。「漁獲量は減り続けている。30年前、私たちは毎日100キログラムもの魚を網でひきあげたものだ。1996年までに、1日たった3〜4キログラムの漁獲量になってしまった」。
こうした深刻な状況はもはや彼らの手にはおえない。しかしKokpadaek村やラオスのいたるところの村人たちは、自らの生計を守り、川の生態系を保護するためにできることを実行している。1997年、村人たちは300平方メートルもの規模の魚類保護管理区域を成功のうちに設立した。今日、南ラオスのコーン郡だけでもメコン河に沿って76もの魚類保護管理区域がある。
メコン河は東南アジア最大の川であり、世界でも12番目に大きい。
絶滅の危機に瀕しているメコン大ナマズを含め、推定1700種もの魚がメコン河に生息しているとみなされている。そのほかの絶滅危惧種としては川イルカ(イラワジ・イルカ)がいる。
メコン河委員会はメコン河流域が約6000万人を支えているとしているが、直接・間接的にこの川に依存している人の数は誰にもわからない。魚はメコン河流域の6000万人にとって何より大切なたんぱく源でもある。
メコン河は世界最大の内水面漁業を支えている。カンボジア、ラオス、ベトナムの下流国だけでも、年間総漁獲量は少なめに見積もっても180万トンとみられ、およそ14億ドルに相当する。カンボジアのトンレサップ湖は一年に40万トンもの漁獲量を誇っている。
しかし、漁民や環境派の人たちを除けば、川の魚減少についてメコン河沿いからは何の警鐘も聞こえてはこない。メコン河の止まらない漁獲量減少、その原因、そして食い止める方法を研究しようという組織も国もこれまでひとつもないのだ。タイの漁業局の水生生物学者であるChavalit Witdhayanon氏によれば、メコン河の漁獲量減少を特に扱った調査や研究はないということである。
「そのような研究は、時間、人材、多額の予算がかかる」と、ガセサート大学の講師でもあるChavalit氏は言った。
環境派の人たちは、漁獲量減少は森林破壊、河岸の環境変化、とりわけ中国雲南省のメコン河上流のダム建設といった多くの要因によって引き起こされていると言う。
「森林伐採はメコン河や支流に悪影響だ。なぜならそれは繁殖能力や魚の餌、魚の繁殖を減らしているからだ」とChavalit氏は言った。
漁獲過剰や近代的漁獲設備の使用はメコン河の魚の減少に部分的に責任を負っているし、火薬爆弾を使う漁民によって稚魚の一群は壊滅してしまう。
増え続ける人口もまた、メコン河の漁獲量に影響を与えている。繁殖期間も漁獲の手が休まることはない。
多くの環境派の人たちが、中国のダムは川の魚の繁殖場所を混乱させると主張してきたが、しかし水量の変化に敏感なタイプの魚に焦点を当てた調査はなされていない。
Chavalit氏は、中国のダムによって引き起こされるメコン河の水量の変化がどのようにメコン河の魚数に影響するのかを次のように説明した。
多くの魚は季節的な水量の高低に従って繁殖する。もし水量が異常な変化を見せれば、魚は卵を産まないかもしれない。もしくはかろうじて卵を産んだとしても、稚魚の生存率は高くないだろう。
「メコン河沿いのすべてのダムが魚に影響しているのだ」と彼は言った。メコン河の魚に対するダムの影響について何の調査も行われていないが、通常なら40匹近く獲れるメコン大ナマズは、もはや警鐘を無視できないレベルにまで激減している。
Chavalit氏は、ダムが大きくなればなるほど、魚の繁殖や養殖への影響も大きくなると指摘した。
メコン河の支流の母なるムン川にあるパクムンダムの歴史は、ダムが川の魚にどう影響するのかを物語っている。ダムはメコン河の魚が繁殖し、母なるムン川で繁殖し卵を産むのを妨げているのだ。
ラオスの環境派の人たちもまた、中国のダムはメコン河下流の漁業に芳しくない影響を及ぼすと考えている。
そうした人々が言うには、魚の数はダムによってばかりではなく、乱獲、破壊的漁法、工場・家庭・農業関連の汚水、早瀬の爆発、湿地や氾濫原の破壊、川岸浸食、そして護岸工事などによって脅かされている。
「脅威は多い。しかしダムが最大の脅威だろう。なぜならそれらは永久的、長期的に、水循環の変化をもたらし、生態系にはかりしれない影響を及ぼすからだ」とラオスで魚の保全を訴えている人が匿名で話してくれた。
その人はまた、中国のダムが引き起こすであろう異常な水文学的な状況は、メコン河の自然の水循環状態に合わせて回遊し、卵を産むという習癖を発展させてきた様々な魚種や他の水生生物や魚たちにとって必要な生活条件とは合い入れないものだ、と語っている。
たとえば、メコン河の主要な食料(藻)の生産には光合成が必要である。藻が乾季に岩の上で成長できるためには、日光が水を通らなければならない。多くの魚は乾季になるとこの藻を食べに回遊するのである。
もし、乾季に水が多いと太陽は水面下の岩まで到達するのが容易でなくなり、そのため魚や他の水生生物のための藻が少なくなるであろう。
今後10年間の漁獲量について推測するのは難しい、と先の魚の保全活動家は言った。
魚がメコン河から完全に姿を消すことはないだろうけれど、中国のダムと早瀬の爆破によって魚の減少傾向は続くかもしれない。
先の魚の保全活動家は、「しかし、人々は来るべき将来に備えて、より多くの魚を確保するために何かをしなければならない」と言う。
未来は、人々がメコン河を守ることに関わるかどうかにかかっている。と彼は言った。
「もしこの地域の政府が、メコン河沿い集落単位の魚の保全を支援するならば、魚の数は実際には増加に転じることもありうる」。
もし魚の数を減らしたくないという意図を持っているのなら、メコン河関連の政府や機関によって予防策を講じるような詳細な調査が、メコン河の生態系を守るためには絶対に必要だ。
もし魚の数が減り続けるなら、それは多くの川に関わる多くの仕事をなくし、人々が大都市へ移住する原因となる。そう、Buashi氏が恐れていたことが。子どもたちにとって唯一の選択肢になってしまうのである。