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タイ揚水発電>健康被害に苦しむ住民たち
メコン河開発メールニュース 2003年4月29日

日本の円借款ODAと世界銀行の融資で建設されているタイのラムタコン揚水発電所事業についての報告です。

メコン・ウォッチのメール・ニュースでは、これまでパクムンダム反対運動と一緒に書いていましたが、ラムタコン揚水発電所事業の詳細についてお伝えするのはこれが初めてです。そこで少し長文ですが、現地でこのプロジェクトの影響をモニタリングしているメコン・ウォッチの木口由香が、これまでの経緯と問題点などを詳しく書きました。

以下の報告では、主に工事に伴う健康被害について書かれていますが、『日本の電気料金はなぜ高いー揚水発電がいらない理由』の著者である未来バンクの田中優さんが指摘していますように、出力調節が容易な天然ガス発電が7割を占めるタイにおいて、揚水発電所が必要かどうかという根本的な問題もあります。

【事業の概要】

タイで初めての揚水式発電所、ラムタコン揚水式発電所が建設された「カオヤイティアンの丘」は、バンコクから車で3時間の距離にあるナコンラチャシマ県に位置している。総工費は4億7540万ドル(世界銀行の資料による)、事業実施主体はタイ発電公社(EGAT)。発電所は丘陵地に作られた上部池と下部池の370mの落差を利用し、1000MWの発電が可能な設計となっている。揚水発電のための下部池は既設のラムタコン貯水池を利用しており、この事業では上部貯水池、水路、発電所などが建設された。

このプロジェクトに対しては国際協力事業団(JICA)が1991年に事前の開発調査を、また1994年に国際協力銀行(JBIC)が世界銀行との協調融資を行った。(JBIC:182億4200万円、世銀:1億ドル)そして、特殊法人電源開発(2003年4月1日から完全民営化)が工事の施行管理を行っているという日本と関係の深いプロジェクトである。

【工事によって引き起こされた問題】

この上部池やトンネル工事を行う際、近くにあった2ヶ村オヤイティアン6区と10区に、工事由来の粉塵が2年7ヶ月もの間降り注いだ。粉塵のため、農作物・家畜だけでなく住民の健康被害までも引き起こしている。住民は事業主体であるEGATと話し合いを続けたが、なんら具体的な解決策はとられず、今日に至っている。

【ラムタコン揚水発電所建設影響住民の声】

<以下は、2003年2月14日にバンコクのチュラロンコーン大学で開催した「メコン・ウォッチ・バンコクセミナー」での住民代表の話をまとめたものです。>

皆さん、こんにちは。私はラムタコン揚水発電所の建設で影響を受けた、カオヤイティアン村の者です。私はイスラム教徒を信仰しています。私たちの村には仏教徒とイスラム教徒が一緒に生活しています。村は山の中腹にあり、眼下にラムタコン貯水池があるため、揚水発電にふさわしい場所として目をつけられたのです。

建設前、タイ発電公社(EGAT)はスタッフを村に送り、発電所が建設されれば生活は向上すると宣伝しました。建設地近くの二つの村は反対しませんでした。このプロジェクトが県の「顔」になる事業で、貯水池が観光地になるといわれたからです。住民も、観光客相手に商売ができるだろうと思いました。またEGATは織物や洋裁、溶接などの様々な仕事を指導するとも言っていました。

1995年の末から、上部池建設に伴う爆破作業が始まりました。作業は昼と夕方2回、騒音、振動、粉塵を村にもたらしました。村人はもともと果樹園、乳牛、肉牛飼育、野菜作り、地鶏の養鶏、そのほか日雇い仕事を行っていました。しかし、振動は木々を枯らし、積もった粉塵が実りを妨げました。また当時、村人が食用にしていた植物も採取できませんでした。草も生えなくなったので、乳牛のために牧草を育てる必要が生じました。粉塵は水源にも降り注いだ上、屋根につもり、雨水を飲用していた村人は腹痛を起こしました。また、生活用水も汚染されたので、発疹になる人が出てきました。そして振動のためか、村の水源が枯れました。

放牧に利用していた土地にも地割れや浸食がおきたのです。

このような中で、村人の健康への影響が一番ひどいものでした。人々は呼吸困難を起こし、胸が苦しく嘔吐する人、急死する人も出たのです。病院に運ぶまもなく、亡くなった人もいます。多くの人が頻繁に病院にかかるようになりました。

工事期間中、ずっと風邪のような症状があり、寝る前には睡眠薬のようなアレルギー薬を飲まなくてはなりませんでした。最初の2,3年では自分たちの身に何が起こったのか分かりませんでした。人々は、水や空気が汚染されていることを知りませんでした。

EGATは農業協同組合に、2400万バーツの予算をつけました。そして、住民に対して、EGATの行った振興事業の枠組みで融資を行いました。しかし、融資が始まったのは1997年で、まだ爆破作業が続いていたのです。

一部の村人は、振興事業にのってキノコの栽培をはじめ、ある人はアヒルや鶏などの飼育を行いました。また他にも、トウモロコシやタピオカ栽培を始めた人もいます。また一部は、乳牛を飼い始めたのです。しかし、乳牛は騒音、粉塵、振動によりストレスがたまりました。乳が出なくなり、繁殖もできず、3万バーツで買ってきた牛を3千バーツで手放す有様でした。私たちの一族は、工事の前から乳牛を飼っていました。当時、牛乳の卸値はキロ当たり7.5バーツでした。月に手元に残るお金(利益)が7千から1万バーツありました。農民にとって非常に良い収入です。人々が融資を受けた時期、全ての世帯が工事の影響を受けました。私たちの牛も放牧していたので、森の中で死んでいきました。イスラム教の戒律では、牛がそのように死んでしまったら食べることも売ることもできないのです。トウモロコシやタピオカ栽培を行った人も、トウモロコシが実らない、実っても硬く商品価値がない、といった影響をこうむりました。村人の理解では、これは振動と粉塵から発生した事態だったのです。また、アヒルや鶏を飼った人たちですが、ショック死をする家畜が非常にたくさんでました。呼吸器に問題があったからです。一世帯で、一日に肥料袋に何袋にもなるほど死にました。影響は、家畜や果樹だけで無く、自然の植物、たとえばタケノコなどの有用植物にもでました。季節ごとに採取して食べていたキノコも取れなくなり、食用のカエルなどもいなくなりました。このようにいろいろな影響が出たのです。

村人が融資を受けた金額は700万バーツでした。今や、公的機関から送られた書類から見ると1400万バーツ、ほぼ倍の金額になっています。健康に不安を抱えている村人は、どうやってこれを返済したらいいのか、途方にくれています。

振興事業として行われたキノコの栽培は、一軒しか残っていません。EGATがキャンペーン用に援助しているから、一軒だけ残っています。キノコができていないときでも、市場で購入してきてゲストに見せたりしています。この人は、キノコ栽培でまだ3-4万バーツの借金があるにも拘らず、よく出来ている、などとEGATは宣伝しているのです。ゲストが来たときに、見た目が良いように。

乳牛に、岩塩が配られたこともありました。牛は食べませんでした。牧草の種も支給されましたが芽は生えません。配布のときに写真をとって、宣伝に使うのです。しかし、支給されたものは既に品質が悪くなっていました。

住民の闘いは非常に困難です。EGATは、私たちの生活を事前に調査していない、と主張しています。また、工事は非常に良く行われたので、影響はないとも言っています。

気管支に問題のある人は、酸素吸入などの処置を時々受けています。村人の抱える症状は、気管支以外にもあり、驚きやすい、疲れやすい、眠っているときに痙攣がおきるという症状があります。私も時には、電話の音を聞いただけで非常に驚くほどです。また、手の痺れなどが見られ、いまだにめまいがします。私たちは、工事の影響でこうなったと考えています。

タクシン政権ができてから、問題解決のための委員会が作られ2年近く経っています。しかし、予算がないため、実態調査ができないのです。いまだに予算はおりていません。政府が、実施者のEGATが予算をつけるべきだと主張しているからなのです。しかし、EGATが責任を取るかどうか。大臣も変わりますし、政治状況も変わっていきます。私たちはずっと待たされているのです。

【国際協力銀行(JBIC)の今までの対応】

被害住民は、2002年5月から、プロジェクトを推進した融資者として責任を取るようJBICに申し入れをしている。今年3月、環境NGOのFoE-Japan主催のセミナー『アジアのダム開発と日本の役割』が東京で開かれ、ラムタコンからも影響住民代表が参加した。来日中、住民代表はJBICなどの関係機関と話し合いを持ちこの問題への対応を求めた。融資を行ったJBICからは、タイ政府の対応を見守り問題解決のプロセスを早めるため、事業主体との話し合いを行うことが口頭で約束された。また、正式な依頼があれば、問題解決委員会にオブザーバーとして参加することも可能であるとの返答を得ている。

この話し合いを受け、住民は3月31日にJBICバンコク駐在事務所を訪問、具体的な対応を求めた。この際住民側はJBICに対し、

  1. 影響住民からの情報を得るための現地訪問実施
  2. 出資者の立場で、問題解決作業部会にオブザーバーとして出席する

という2点を挙げている。また、問題の解決に向けた調査のための予算を、タイ発電公社(EGAT)が早急に拠出するよう、JBICからEGATへの働きかけも要求している。

会合においてJBIC代理は、現地訪問などについて、事業実施者であるEGATとの協議の上決定する、と発言した。また、被害を出した工事部分は世界銀行の融資であり、JBICは機材に融資している、という説明が繰り返された。

4月17日には住民側から、早急に上記の点に返答するようJBICへ確認の書簡が送られている。健康被害による負債の増大は住民生活を圧迫、被害は深刻さを増しており、住民側はJBICの早急な対応を求めている。

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