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東南アジア大陸部のダム計画の中で、国際的に最も論議を呼んでいるラオスのナムトゥン2ダム(BOT方式、総事業費12億ドル、最大出資フランス電力公社、1080MW)に対して、日本が最大ドナー国であるアジア開発銀行(ADB)も支援を始めようとしています。
ナムトゥン2ダムは深刻な環境社会影響や経済効果への疑問があるため、過去10年間建設資金の調達ができないでいます。にも関わらず450平方キロ(琵琶湖の4分の3)にも及ぶ水没予定地の伐採は終わり、森林に依存する現地の生活は完全に破壊されてしまいました。
このようなプロセスで進められた事業を世界銀行やADBが支援することは認められません。もし認めれば、今後ダムを建設するため、あらかじめ水没予定地の伐採をして住民がダムを受け入れざるをえない状況にしたり、強制的に住民を立ち退かせて「水没予定地には誰も住んでいない」という状況を作り出したりすることで、次々に大規模な破壊的ダムを国際機関が支援できることになってしまいます。
以下、熱帯雨林の保護運動で有名な世界熱帯雨林運動(WRM)の会報の記事を、ボランティアの栗林健太さんが翻訳してくれました。
世界熱帯雨林運動(World Rainforest Movement)会報
2003年4月号
アジア開発銀行(ADB)はラオスのナムトゥン2水力発電所計画の評価と適切な注意が払われているか(due diligence)を調査するために、140万ドルを支援している。計画が森林に多大な影響を与えるにもかかわらず、提案されたADBの新しい森林政策によれば、ナムテトゥン2ダム計画がADBの森林政策に沿っているかどうか検討する義務はないとされている。
今年度初めに、ADBはホームページ上でラオスの電力開発への技術協力プロジェクトに乗り出す予定であると発表した。ADBによれば、このプロジェクトは、ラオス政府がある水力発電プロジェクトの準備作業を実施するのを支援するためのものである。
更なる情報請求に対する回答の中で、ADBのSadig Zaidi氏は、ナムトゥン2ダム計画に伴う環境・社会影響を調査し、事業設計に適切な影響緩和策や補償手段が含まれADBの政策やガイドラインを遵守しているかどうかを確かめるために、ADBがナムトゥン2ダム計画について「評価と適切な注意」(evaluation and duediligence)の調査を実施することを認めた。
ラオス軍が所有する森林伐採会社の山岳開発公社(BPKP)は、1990年代初頭から森林伐採を開始し、1000メガワットのナムトゥン2ダムの貯水地予定地の森林450平方キロを完全に伐採した。その中には保護の必要な地域も含まれている。それに留まらず、BPKPは移転住民が将来地域共有林として利用するために確保されていた森林まで伐採してしまったのである。
つまりこの時点で、ダムはまだ建設されていないが、ナムトゥン2計画はもうすでに建設予定地の森林に甚大な影響を及ぼしていたのだ。
にもかかわらず、ADBの技術者たちは、その計画がADBの新しい森林政策に沿うものかどうか検討する必要がないのだ。ADBのJaved Hussain Mir氏によれば、現在この新しい森林政策は草案の段階にあり、6月か7月中には完成するとのことである。ADBの理論によれば、その計画が単に森林に影響を与えるというだけでは、ADBの政策に沿った計画への変更を迫ることはできないのだ。
1995年、ADBは新森林政策を世に送り出し、楽観的にも、将来「直接、間接的に大規模な森林破壊や森林の困窮化を生み出す農村のインフラ整備や公共投資の計画に出資をしない」と宣言した。
だが、ADBがこの約束を果たすことはなかった。メコン地域におけて、ADBは主要道路、鉄道、水力発電ダム、そして送電プロジェクトといった、地域の森林に多大な影響を及ぼすことが考えられる一連の建設計画を認めている。1996年には、「ADBに関するNGO作業グループ」がADBの森林政策への反論を発表した。そのなかで、メコン地域のインフラ計画に関して、「この計画が、地域の森林破壊の一因となるかどうか、またそれはどのように影響するのかなどの分析がない。同様に、顕著に見られる道路建設と商業林の増加の密接な関係については、言及されていなかった」。
ADBがメコン地域で計画している主要な道路は、農民が地元の市場に自分たちが作った生産物を持っていく手助けには、ほとんどあるいは全くならない。むしろ、ラオスの場合は特に木材などの商品を搾取するために道路が建設される。国道9号線はラオスを二分して、タイのムクダンハンとベトナムドンハー港を結ぶ。道路の拡張は、現在沿道に住んでいる6000人の住民の強制退去という結果をもたらす。国道9号線は、ベトナムの伐採業者がサバナケートからベトナムへ木材を輸出するために使われている。しかも、この道路は2つの国家生物多様性保護地域(NBCA)を通っている。ADBのプロジェクト文書は「道路の改修が交通状況を改善するのに役立つ一方で、野生動物や木材の違法な輸出を激化させるだろう」と認めている。
しかしながら、国道9号線はADBの旗艦プログラム(flagship programs)の1つである「東西回廊」の一部をなしている。ADBによれば、メコン地域の政府は「旗艦プログラムの各国担当部分はそれぞれの国の投資プログラムにおいて優先権を得ることが確保されなければならない」。ADBにとっては旗艦プログラムの方が森林政策よりも重要なのであり、1999年12月にADBは東西回廊を整備するための道路改修費用として、ラオスに3200万ドル、ベトナムに2500万ドルの融資を承認した。更なる資金が日本政府から来ている。
前回の政策がスタートしてからたった5年後の2000年6月に、ADBは森林政策を見直し始めた。その同じ年、あるADB職員は、匿名という条件でWalden Bello氏に以下のように語った。「ほとんど全ての森林計画は失敗した。そしてこれはADBでは皆知っていることだ」。
ADBは今回、出来もしない約束を結ぶというような、同じ轍を踏むことはない。新しい草案では、参加、ジェンダーへの認識、貧困の撲滅、能力向上、そして環境面の安全保障といった点の重要性に言及している一方で、ADBが資金提供しているインフラ事業の地域住民や森林への影響についての分析(認識すら)が欠けている。
新しい森林政策が、このままの形でADBの理事会で承認されたならば、ナムトゥン2ダムや甚大な悪影響を与える他のインフラ事業が、森林に与える直接・間接的な影響を考慮に入れないまま、ADBの融資を認められることになってしまう。