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マニラに本部を置き、日本が最大の資金拠出国であるアジア開発銀行(ADB)は、これまでいくつかの融資プロジェクトや技術協力によって、メコン河流域国の森林と人々の生活を脅かしてきたとの批判を受けてきました。ラオスのナムルックダムの建設をめぐっては違法伐採が発覚し、事業が一時中断しましたし、ラオス中部の産業用植林プロジェクトは、早生樹種のユーカリの拡大が問題として指摘されています。
そうした中でADBは8年ぶりに森林政策の見直しを行っています。詳細は以下をご覧下さい。9月14日までパブリックコメントを受けつけています。
現在パブリックコメントを受けつけている作業ペーパーの前のバージョンが出た際に、熱帯林保護を進めるアドボカシーNGOである世界熱帯雨林運動(World Rainforest Movement)は、以下のような記事を会報に掲載しました。
メコン・ウォッチ翻訳ボランティアの伴昌彦さんが訳して下さいました。
WRM BULLETIN 70、2003年5月
http://www.wrm.org.uy
ADBによるプロジェクトへの融資は、常に融資を受けた国の政府に問題をつきつけている。政府が銀行に適宜返済をするためには、プロジェクトが利益を産み出さなければならない。単純な経済学のように思われるかもしれないが、銀行が林業プロジェクトに融資する場合は、森林から利益を捻出しなければならないということになる。森林から利益を得る最も簡単な方法は木の伐採だ。伐採は社会や環境にとって破壊的な影響を及ぼすことが頻繁にある。一方、共同体に森林へのアクセスや利用、保護、及び森林の中や周辺で居住する権利を保証するプロジェクトは、政府には不人気である。政府の金庫に多額の金を呼び込みそうにはないためだ。
ADBが森林セクターへの貸出に当たって、この根本的な問題を考慮に入れ、新しい森林政策は、特に、地域の森林と地域住民の生活の保護を保証する規制のシステムとして定着するのであれば、歓迎すべきものかもしれない。たとえば、少なくとも先住民族の権利の保護対策や、森林に影響を及ぼす全てのプロジェクトに対する環境及び社会影響評価の義務付け等に基づく政策は始められる可能性がある。
2000年6月には、ADBは1995年に制定した森林政策の見直しを開始した。2年後、この見直しの結果が森林政策草案の形になったが、草案は全く政策を記述したものにはなっていない。どちらかといえば、アジア開発銀行の地域の森林への見解を示した討議資料である。
森林政策に期待されていたのは、たとえば、政策の説明や、銀行が森林に影響を及ぼす融資を行う際に適用する原則と基準を含んでいることであったと想定される。また、ADB職員の政策の遵守を確認する方法の説明も求められていた。しかし、2002年6月の森林政策草案は、せいぜいADBに雇われたコンサルタントの書いたレポートを基にした多少の見解に毛が生えた程度のものに過ぎない。
ADBは、1980〜1999年に林業プロジェクトに融資した10億米ドルは、ADBの融資の僅か1.5%に過ぎないと主張しているが、融資を受けた多数の他のプロジェクトが森林に影響を与えている。大きな影響を及ぼしてきたのは水力発電用のダム、かんがい計画、道路・輸送網、送電、換金作物と商業的農業を進めるプロジェクトなどである。政策草案は、林業プロジェクトのみに焦点をあて、銀行が融資するインフラ整備等のプロジェクトが森林に与える影響には言及していない。
森林政策草案のサブタイトルの「全ての人の、永遠の森林」という言葉からうかがえるように、ADBとそのコンサルタントは森林セクターへのADBの関与に対し、楽観的な見解を示している。たとえば、「ADBからの支援が、最も大きい影響を及ぼしている政策領域は共同体に基盤を置く自然資源の管理である。共同体を森林資源の開発と管理に関与させることは、ADBの貧困問題への関与を強化するという観点から重要である」と書いている。しかし、ラオスでADBが支援した「産業用植林プロジェクト」は、共同体が管理する森林、焼畑、農地を、単一栽培のユーカリ植林に転換させてきた私企業を支援してきた。ADBの森林プロジェクトにより、地域社会は事実上自らの資源から排除されてきた。
カンボジアでは、ADBは地域社会を完全に締め出してしまう私企業、及び伐採権を、支援し続けてきた。2000年にはADBは伐採権制度の「完全な制度障害」について記述した、伐採権調査を公表したが、伐採権制度の廃止には言及出来ていない。
ウォリデン・ベロー氏の述べた「目的の混雑」という表現は、ADBの2002年6月の森林政策草案をよく表している。最近の論文では、ベロー氏は、株主が近年融資に付与してきた、貧困の削減、社会開発、持続可能な発展、女性の福祉向上、グッド・ガバナンス、といった様々な条件を達成するために、銀行の現場スタッフが、如何に必死に努力してきたかを描写している。森林政策草案は同様にこうした状況を強調しているが、実行されるのは、旧態依然の専門技術者による介入のごときプロジェクトである。勿論プロジェクト名は変わったかもしれない。たとえば、今年スタートする、ラオスのADBの「産業用植林プロジェクト」フェーズ2の名称は「生活向上のための植林」に変更される。いずれのプロジェクトにも、主にパルプや製紙部門に使用される早生樹の1万ヘクタールに及ぶ植林地の形成が含まれている。フェーズ1では植林は産業用であったものが、フェーズ2では魔法のように「生活向上用」植林に変わっている。
ベロー氏は匿名の幹部職員の言葉を引用している。「人々は困惑し、途方にくれており、殆どの人々にはどうやって始めるかのとっかかりすらない。・・・新しい目的はあっても、古い考え、古い目的が消えたわけではない。なんとかして「女性と開発」をプロジェクトの計画に含まなければならず、それをこっそりやる方法を知らなければ叱責される。その結果は支離滅裂になる。
ADBの森林政策草案は銀行が直面するジレンマを際立たせるものだ。環境の持続可能性と貧困軽減を語りながら、プロジェクトから利益を産出しなければならないのが現実だ。森林政策草案が議論しているのは、経済成長と環境面での持続可能性との「並行した軌道」である。
新たな森林政策の最も重要な目的は、ADB加盟の途上国政府が、森林の完全な保護と開発の可能性について認識し、森林セクターへの投資が貧困削減に及ぼす影響を最大にできるように支援することである。このためには「並行した軌道」による取り組みが求められる。1つの軌道は、森林に基盤を置く最大限の経済成長と社会開発を達成するための方法を支える必要があるが、それは、環境面での持続可能性を推し進めるというもう1つの軌道がもたらす限界と好機の中で進められるのである。
アジア開発銀行の用いる比喩的表現は内部に広く行き渡った、現実をゆがめた見解を示している。ADBのスタッフとコンサルタントは「森林に基礎を置く最大限の経済成長」(森林の伐採と木材の販売)の言葉に御満悦で、それが社会開発にも環境の持続可能性にもほとんど関係がないことに気付いていない。