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メコン河開発メールニュース 2004年1月15日
ここ数ヶ月、中国・怒江のダム計画に関するニュースが急増しています。怒江は、中国からビルマータイ国境、ビルマ国内を流れてアンダマン海に注ぐサルウィン川の上流中国部分の呼称です。サルウィン/怒江は、延長2400キロで、メコン河に次ぐ東南アジア第2の国際河川です。
サルウィン川流域のダム開発としては、これまではビルマ国内のタサンダム(日本の電源開発株式会社=現在のJ-Power社が実施可能性調査を受託)に環境・人権グループの懸念が集まっていました。しかし、ここに来て、上流中国部分の13の大規模ダム建設と、タイービルマ国境の2つの巨大ダム建設に焦点が移っています。
以下は、年明け早々に中国国内で報じられたニュースを、元メコン・ウォッチスタッフで現在イギリス留学中の大澤香織さんが翻訳したものです。
2004年1月8日、新華社ネット
中国青年報、張可佳(ジャンカチァ、Ms. Zhang Ke-jia)
怒江上に13の大型ダムを建設すべきかどうかをめぐる論争は、3ヶ月余りを経ても未だおさまらない。エコロジー、水利、電力の専門家さらには現地政府、ますます多くの市民がこの議論に参加をしている。これは西部大開発と生態保護が両立するのかをためす試金石ともいえる。
先日、国家環境保護総局、中国社会科学院、雲南省政府など各方面からの専門家が集まり、怒江における開発を今後いかに進めていくのか、いかに雲南省の自然資源を評価、利用していくのか、どのようにしたら雲南及び怒江流域すべての持続可能な発展が可能になるかなどについて突っ込んだ話し合いが行われた。
昨年8月12日から14日にかけ、北京において国家発展と改革委員会による『怒江中下流における水力発電計画報告』審議会が開かれ、怒江中下流における13のカスケードダム(松塔(ソンター,Songta)、丙中洛(ビンジョンルオBingzhongluo)、馬吉(マーチーMaji)、鹿馬登(ルーマーダンLumadeng)、福貢(フーコンFugong)、碧江(ビージャンBijiang)、閃打(シャンダーShanda)、亜碧羅(ヤビルルオYabiluo)、瀘水(ルーシュイLushui)、六庫(リウクLiuku)、石頭寨(シートウサイShitousai)、賽格(サイカーSaige)、岩桑樹(アンサンシューYansangshu)および光坡(グアンポーGuangpo))、総発電容量2132万kWの開発計画が可決された。
この『報告(レポート)』は北京勘測設計研究院、華東勘測設計研究院によって提出された。『報告』によると怒江本流の中下流は河川全長742キロメートル、落差が1578メートルで水力資源に富み、我が国の重要な水力発電基地のひとつであるとされている。
このニュースが伝わると、多くの専門家が明確に反対意見をあらわした。中国科学院植物所研究員、東南アジア自然保護研究観測及び訓練センターの主任、李渤生氏および四川地質専門家、范暁氏は共に怒江に大ダムを建設することは大変危険であり、中国が将来大変な損害を被るばかりでなく、世界自然遺産に承認された地点を保護することにもそむく、としている。
李渤生氏はこれまで61回にわたりチベット、四川、雲南における現地調査を行ってきており、雅魯藏布(ヤルツァンブ)大峡谷や世界的に著名な多くの峡谷や河川の調査をおこなってきた。范暁氏は年間を通じて山間部の河川、森林、湿原における地質、生態調査をおこなっている。
李氏の指摘によれば:この地域はすでに世界で最も優先的に保護すべき生態区域及び世界自然遺産名簿に名を連ねている。我々はこの特殊な地域に対してただ「利用可能な水資源」として認識するのみではなく全面的、科学的な理解をする必要がある、という。
伝えられるところによると、高度が100メートル上昇するたびに、温度は摂氏0.4から0.7度低下する。我が国にもしチベット高原がなければ、北緯23度半、海抜4500メートルの高度では零下10数℃摂氏になる。しかし現在チベット高原の昼間は非常に温暖である。この250万平方キロの地域内において、ここでは巨大な熱源によって大気が形成され、大量の熱気が上昇することによって高気圧が形成され、こうした特殊な高原季節風気候が西インド洋季節風を誘発している。二つの季節風気候は我が国の四川盆地を湿潤多雨にしており、雅魯藏布(ヤルツァンブYaluzangbu)江、怒江および金沙江が大量の水資源を提供することを可能にしている。そのためこの世界最高の高原上では森林が生い茂り、目下中国最大の原始林となっている。森林の下部は一面の灌木林で、そのあと草地となっている。この地域の動植物生態システムはすべて高原の生態環境と生存に適応して生息している。これらは人類が今にいたるまで保全している数少ない重要な生態資源宝庫のうちのひとつである李氏は怒江にダムが建設されれば、これらはすべて変わっしまうだろうと認識している。
彼は、特殊な自然環境の特徴がチベット高原の地理的位置を非常に重要にしており、ここは中国西南季節風の主要な水蒸気の通路である、と強調する。またこの通路は変化しており、かつてはこの通行量は非常に大きかったが、現在では非常に少なくなっているという。
范氏は、世界的に大型ダムの建設はすでに時代の流れに反しており、水力発電開発は我々に利益をもたらすが、同時にマイナスの影響ももたらすと認識している。
怒江には多くの水生生物がいるが、ダムが建設されることによってこうした水生生物が生息することができなくなり、一連の生物種が絶滅する。
怒江の地形は1000メートル前後の深く切れ込んだ河谷地形であり、非常に豊富な生物多様性、稀少生物を擁する、世界で最も関心がもたれているホットスポットのうちの一つを形成している。
十数もの大型ダム及び補助工事(公道など)の建設は、水土流失に繋がる植生の深刻な破壊を招き、もともと不安定な地質状況かつ脆弱な生態環境にさらに多くの不安定要素をもたらし、地滑りや土石流、地割れなどを誘発する可能性がある。
怒江流域には16の少数民族が居住しているが、非常に豊富な文化風俗、言語と伝統が集中しており、世界的にもまれな地域である。少数民族は主に河谷地帯に居住しており、一連の大型ダム建設によって居住地が水没する。移住はこの地方の文化環境を破壊してしまう。
ダム建設推進者は重要な理由として「現地の農民の貧困削減に役立つ」としている。一方で別の専門家は、ダム建設は貧困削減にとってよい方法ではないと認識する。その理由として、実際ダム建設によって水没する地域はもっとも豊かな河谷地区であり、農民らが山の上に移住すれば、山の上の土地は痩せており、水土流失をもたらし、必ず生活の質の低下をもたらすからである。さらにダム貯水後は地質災害を誘発する恐れがあり、新たな生態移民を生み出す。雲南省においては現在、すでに生態移民の問題が存在しており、適当な解決策はまだ見つかっていない。
専門家の分析によれば、怒江の開発は現地政府にとって大変都合が良い事柄である―国家が投資を行い、現地政府は多くの税収を得ることができる。大量の投資と税収は現地のGDP成長に直接の作用をもたらすため、彼らは非常にこの件について積極的なのである。
多くの科学者は「水資源は尽きることがない。利用しないのは浪費である」といった見方はすでに過去のものであり、中国はいまや水資源欠乏国家に変化しつつあると指摘する。
伝えられるところによれば雅魯藏布江の水資源開発計画と構想は既に提出されており、前期の論証がおこなわれている。
ダム建設推進者は『高層保護計画』を提出した。ダム建設推進者によれば、海抜2000メートル以下は開発が可能であり、チベットに接する怒江で最も高いダムの貯水高度の設定は1995メートルであるという。
しかし専門家は、自然遺産である『三江併流』はその完全性を保証しなければならないと認識している。怒江の植物、生物の生息帯は2000メートル以上の地点のみに存在するわけではなく、河谷からすでに広がっている。『高層保護』は世界遺産を切断し、上部のみを保護して、下部を破壊することに等しい。
さらに専門家によれば、『中華人民共和国環境影響評価法』に照らして、怒江の開発は流域全体の環境影響評価がなされるべきであり、さらにこの環境影響評価は独立機関によってなされ、水利電力建設部門や投資部門が行うべきではないという。我が国の水力発電開発の面では、こうした流域全体の評価はまだ存在して
いない。
李渤生氏は、雲南は世界で最も花卉資源と観光資源が豊富な場所である、と提案する。観光業はすでに世界でもっとも急速に成長している産業である。雲南においてエコツーリズムを発展させ、花卉王国の潜在能力を開発することによって、国外に流出して現地では失われてしまった珍しく貴重な花や木を再び取り戻し、かならずは現地により持続的な利潤をもたらし、水力発電開発よりもさらに多くの利益をもたらすだろう、としている。
さらに、最近、怒江下流(サルウィン川)のタイ、ミャンマー(ビルマ)市民がタイ駐中国大使館に対して抗議文を提出した、と伝えられている。抗議文のなかでは、上流におけるダムは流域全体の生態システムに深刻な破壊をもたらし、また下流のミャンマー(ビルマ)およびタイ市民の生計に影響をおよぼすことがあげられている。
*中国語の原文は以下で読めます。