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発電能力が1000メガワットを超え、かつては東南アジア半島部で最も豊かな生態系を誇っていた高原の湿地帯45,000ヘクタールを水没させるラオスのナムトゥン2ダム。いよいよ、世界銀行が本格的に乗り出してきます。
世界銀行は、これまで掛け声だけで実現できたことなどない「貧困削減と環境保全を実現する巨大ダム」という標語を、またしてもこのダムに貼っています。日本の財務省出身の原田理事をはじめとする世界銀行理事たちが、現在ラオスを訪問しています。
以下、The Economistの記事を、メコン・ウォッチボランティアの伴昌彦さんが翻訳しました。
2003年11月27日
The Economist
ラオス政府は数十年間に渡って、メコン河の支流をなすナムトゥン川への大型ダムの建設について、検討を重ねてきた。過去十年間は、ラオスは世界銀行に対し、12億ドルの計画(ナムトゥン2ダム)の融資保証を求めてきた。ダムの貯水池によってその一部が沈むナカイ高原周辺を、非常に多くの技術者、環境保護主義者、ソーシャルワーカーらが嗅ぎまわっている。最近の代表団の立ち寄りの際、彼らに会うために連れてこられた地元住民の一人は、「この2年間、14回もこういう会議に出た」と不満を漏らし、一体いつになったら、お偉い代表団は決定を下すのだろうと尋ねた。
現在、少なくとも一部の人たちは決定を下した。今月(2003年11月)、タイの電力会社が、遅れに遅れていた契約に署名した。契約内容は、このダムが発電する電力の大部分を購入するというものである。契約ではダムの建設企業連合体に、融資を固めるための期間として18か月が与えられた。しかし商業銀行は、ラオスの旧態依然の社会主義政権との連携や、大型ダムが必然的に引き起こす、環境、社会への影響に対する抗議の殺到を懸念し、慎重な姿勢をとっている。商業銀行は世界銀行の承認がない限り、一銭たりとも資金を出さないだろう。
銀行の選択は容易なものではない。ダムからの収入は、極貧にあえぐラオスにとっては望外の利益と言える面がある。ラオスの昨年の国家歳入は、わずか2憶7500万ドルだったが、2009年の開始が見込まれているダムの操業によって、25年間でおよそ20億ドルの歳入が期待できる。更に、政府と開発業者はありとあらゆる甘い餌を約束している。彼らは村が水に沈む5700人の人々に対し、瀟洒な新築住宅への再定住と、農・漁業を始める支援を約束している。また、政府はナムトゥン川の山地の流域における動物や樹木の保護についても誓約している。
その一方で、政府は既に世界銀行との初期の契約に違反し、ナカイ高原から自由に木材を切り出すことを許可してきた。また、政府はそのわずかな収入を、教育や保健衛生ではなく、防衛費に振り向けている。しかし、外交官によれば、ダムからの全ての収益を開発プログラムのために蓄えておくという計画に対して、政府は何れも主権の侵害だと非難しているという。その上、世界ダム委員会が2000年に言及したように、通常大型の水力発電計画からの利益は過大に、コストは過小に見積もられている。
世界銀行が意思決定を慎重に検討している一方で、ラオス政府はベトナムからの援助により、より小型のダムを5つ建設する計画を発表した。世界銀行の財政支援には環境や社会への配慮が付随してくるので、ラオス当局は、世界銀行に頼らずにやる方が簡単なことを学習したのだと皮肉る者もいる。