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先日バンコクポストの記事でお伝えしましたタイ北部のメコン河異常渇水についてのタイ字紙の報道です。異常渇水の原因についての中国政府の見解や、メコン河上流交易への影響が、より詳細に報じられています。
以下、メコン・ウォッチの土井利幸(バンコク)が、タイ字紙の中では質が高いと言われているプージャッカン紙の記事を抄訳しました。
プージャッカン紙
2004年2月21-22日号(地域経済面)抄訳
【北タイ・ニュースセンター発】メコン河の水量が徐々に減り水位の低下はすでに最大9メートルにも達している。タイ・中国間貿易にも大きな影響が出はじめ、タイ港湾局も船舶が寄港できるよう3メートルにおよぶ浚渫工事の必要に迫られている。
タイ北部チェンライ県チェンセンでは、黄金の三角地帯を基点にメコン河の至るところで巨大な砂洲が多数姿をあらわすほど水位が低下し、1億9000万バーツ(5億7000万円)を投じて昨年(2003年)10月1日に開港したばかりのチェンセン港付近もひどい状態にある。このため中国からの貿易船が入港できるように付近を3メートル以上も浚渫する必要が生じている。中国船の寄港数は一日あたり10隻から6隻へと減少している。
チェンセン港を管轄するチャリンイン海軍少尉の話では、メコン河の水位が低下してかれこれ1か月になる。この水位低下の原因について、中国政府は昨年12月に雲南省昆明市で開催されたメコン河委員会の席で、「今年は降雨量の減少が水位低下につながっている。また厳冬の長期化で雪解けのもたらす水量が少ない」と説明したが、中国政府がメコン河本流に完成させた大規模ダムのこともあるだろう。さらに大量の水を貯水する新規ダムの建設も計画中である。
中国船の航行上の障害となっているメコン河の早瀬をビルマ・ラオス国内で爆破する作業も進行中である。この作業のために中国政府は、本流ダムの水門を一日開いて放水してはその後三日閉めきる、ということを何か月にもわたってくりかえしている。
今年(2004年)のメコン河の水位は、昨年9月の時点と比べてすでに9メートル以上も低下している。これまでのデータと比較しても、今年は最低水位の記録を1ないし2メートル更新する勢いだ。ただし中国は浚渫作業を続行し、ダムを建設するためにも放水する必要があり、いずれ貿易は回復するはずである。この時期タイが中国に輸出する重点品目は干しりゅうがんの果肉などで、逆に中国からの主な輸入品目には、野菜・果物・ひまわりの種などがある。通過品目としては日本からの中古車が年間300台以上にもおよぶ。
チェンセン港には今年4月総重量200トンのコンテナを積んだ中国船が寄港することになっている。浚渫工事に4200万元(2億1000万バーツ=6億3000万円)以上もの費用をつぎ込んでいることからも、中国政府関係者は輸送ルートとしてチェンセン港を重視するに違いない。
一方タイでも第二チェンセン港の建設調査を進めており、予定地は現チェンセン港の南方ソップコック村付近である。チェンライ県庁のナリン氏からは、チェンセンの歴史的町並みを保存するために世界遺産指定区を設け、世界遺産や湿地への悪影響を避けるためにタイ・中国工業団地は建設しない、との話があった。そのため同工業団地はチェンライ県ドイルアンに建設することで提案する。チェンセンとチェンライ県都市部を結ぶ高速道路は、100億バーツ(300億円)の費用をかけてチェンライ県とチェンマイ県を結ぶ高速道路と連結される。
チェンセン港税関からの情報によると、今年1月に出・入港した船舶は191隻で、2002年1月(262隻)、2003年1月(242隻)に比べて減少している。ただ貿易全体は依然として上向き傾向で、チェンセン港での取引も年間50億バーツ(150億円)から、将来は100億バーツ(300億円)に伸びると予想される。またタイ・中国間の自由貿易圏(FTA)設立がプラス要因として作用し、農作物の輸出・入も非関税となる。しかしタイ国内産の農作物、とりわけ野菜や果物は大量生産・低価格の中国産農作物におされて市場を失う恐れがある。
チェンライ県商工会議所のセリムチャイ会頭のもとには、今年のメコン河の水位低下について地元企業関係者から多くの懸念の声が寄せられているという。セリムチャイ会頭は、水位低下は長期化しないと楽観視する一方で、不安を感じた投資家が中国から海路でバンコクのクロントイ港に達する海上輸送に切りかえる可能性があることを認めた。
中国政府が今のようにメコン河の水量を調整する以上、投資家の不安を取りのぞくには情報の収集と提供が急務である。この件は今日(2月21日)開催される「チェンライ県国境地域でビジネス・貿易・観光・投資を行なうための準備セミナー」の席でも話し合われる。メコン河の水位低下は深刻で、中国から来航する船舶に大きな障害が生じているとの話もある。今年1月には20隻以上もの船舶が立ち往生し、そのうち1隻は船底に穴があいて火災が発生し船体を損傷した。この事故でタイからビルマ・中国向けに出荷された積荷の自動車7台も被害を受け、業者を直撃した。これは積荷を対象とした損害保険がないためで、船体だけは中国の保険会社の保険で処理されることになっている。