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メコン河開発メールニュース 2004年3月25日
メコン河上流の異常低水位についてのニュースです。3月中旬にメコン・ウォッチのスタッフがラオス北部のウドムサイ県パクベン郡に船で訪問した際にも、これほどメコン河の水が少ないのは異常で、ここ数年水質にも変化が起きているという話が地元で出ていました。
以下、シンガポールのThe Straight Timesの記事を、メコン・ウォッチ(バンコク)の土井利幸が翻訳しました。
ザ・ストレイト・タイムズ
2004年3月16日
Nirmal Ghosh署名記事
【バンコク発】旱魃にみまわれやすいタイ東北地方に本格的な乾季が訪れ、メコン河の恩恵にあずかる農民・漁師・行商人たちは、メコン河の水位がこの20年で最低のレベルにまで下がっていることに警戒感を強めている。
地元の人々は中国が上流に建設している大規模ダムのせいだとしているが、専門家は中国から流れ込む水はメコン河の水量の20パーセントに過ぎないという。残りはラオスやベトナムの山岳地帯から流れ込むというのである。
タイ・ラオス・ベトナム全土にわたって、森林を開拓した農地が拡大するにつれ必要な水をますますメコン河から取水するようになってきている。
今年の水危機はこれから起こることの前兆にすぎない、とプノンペンに本部をおくメコン河委員会の専門家たちは警告を発した。先週バンコクで同委員会が「より少ない水でより多くの食物をつくる」ことを目標とした地球規模の調査への正式参加を表明した席でのことである。
十数基ものダムをはじめメコン河で計画されている大規模開発を背景に水をめぐる緊張関係が流域6か国の大きな課題となってきている。
年間3200万トンにおよぶ米の生産をはじめとする農民たちのニーズと年間約200万トンの淡水魚を水揚げする漁民たちのニーズとの間にも葛藤がある。
魚類の多くは回遊し、生存と繁殖のためにはさえぎるもののない水の流れと周期的な氾濫が不可欠なのである。
水位の低下は極端で、地元の人々がタイ・ノンカイ県にあるタイ・ラオス友好橋の下を徒歩でメコン河を渡ってラオスに行けてしまうほどである。
しかし問題はもう1つある。水位が日毎に変化し、それが魚に良くないのだ。日毎の漁獲量が大きく落ち込んだ。
先週のことだが、タイにとってメコン河の問題はきわめて深刻だ、とタイ政府環境天然資源省の事務次官をつとめるSiripong Hungspreug博士がメディア関係者に対して述べた。
人口2300万人をかかえ、タイの全農地の55パーセント以上と耕作可能な土地のほぼ半分を持つ東北タイ(イサーン)は米とキャッサバの最大の生産地でもある。
「森林が失われ農地になっていくが、その農地も収穫可能なのはたかだか2、3年だ。灌漑も非常に少なく、水不足も深刻だ」、とSiripong博士は語った。
だいたいが発電用としてメコン河に建設されるダムも心配のたねである。
中国にはメコン河の雲南省部分に8基ものダムを建設する計画がある。
中国がメコン河開発を一方的に押しすすめれば下流の国に被害がおよぶ恐れがある、と批判する人々もいる。また、下流の国々も大規模ダム建設を計画している。
ところが、ラオスやベトナムでの森林伐採が中国のダム建設以上にメコン河に影響をおよぼしている可能性もある。
メコン河委員会で流域開発計画を担当するRobyn Johnston博士によれば、「中国のダムの問題はおそらく水をせき止めることではなく、むしろ水流の変化にあるだろう。特に乾季には水量は実のところ増すかも知れない。その場合、魚にどのような影響があらわれるかは分からない」。
メコン河委員会はタイ、ラオス、ベトナム、カンボジア、雲南省をまとめているが、中国とミャンマー(ビルマ)は正式加盟しておらず、話し合いに参加するのみである。
約1000万ドル(11億円)を投じて水資源管理と統治の研究が行なわれ、メコン河委員会の専門家たちはこの研究の成果がより賢明な意思決定に反映されることを期待している。
「これは衝突への対処であるとともに先を考え衝突を防ぐためのものなのだ」、とJohnston博士は語った。