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メコン河開発メールニュース 2004年5月30日
北ビルマでアウンサンスーチー氏が拘束され、多くの支持者が殺害された2003年5月30日の事件から1年が経過しました。先日再開された国民会議には民主化グループや民族グループが参加せず、民主化はほとんど進展がない状態です。
その一方で、日本の対ビルマODAは何の説明もなく正常化へと道を進めています。
この1年間の対ビルマODAの動きを追いました。
5月30日、北ビルマでアウンサンスーチー氏が拘束され、大勢の支持者が殺害された事件から1年を迎えた。日本政府は、事件後、「経済協力案件を何事もなかったかのごとく進めることはできない」としていた。しかし、ビルマの政治情勢が改善されない中、昨年末以来、外務省は何の説明もなく対ビルマODAを『普通の状態』に戻してしているのだ。
日本政府は、昨年5月30日の事件直後は問題を過小評価していたが、その後欧米の政府高官の発言やメディアの報道を見て、厳しい姿勢に転換した。事件発生から3週間後、外務省の矢野副大臣がビルマを訪問し、『スーチー女史の即時解放』『NLDの自由な政治活動の速やかな回復』『5月30日の事件に対して国際社会に対する説得ある説明をすること』を、軍事政権に強く申し入れた。また、昨年7月7日の記者会見で、外務省の竹内事務次官は、こうした問題が解決する方向に動いていない中では、新規の経済協力案件を何事もなかったかのごとく進めることはできないと発言している。それまで日本政府は、基礎的生活分野における人道支援のためのODAは例外的に認めていたことを考えると、外務省首脳の発言は人道援助すら今まで通りには供与できないと解釈できる。
確かに5月30日事件以降、日本政府のビルマ軍事政権へのODAは止まっていた、ようである。関係者の話を総合しても、NGOによる小規模プロジェクトを含めて、全て止まっていた。ところが、昨年10月から事態は少しずつ変化した。外務省のホームページの情報をもとに、昨年5月30日以降に決定された援助を一覧にしてみた。
昨年6月の矢野副大臣のビルマ訪問で強く求めた3つの問題解決は、全く達成されていない。にもかかわらず、人道援助が何の説明もなく再開されているのである。なぜか・・・。
今年3月30日、メコン・ウォッチの質問に対して、外務省南東アジア第一課の山野内課長は、次のように答えている。「5月30日の事件は、国内外に衝撃を与え、そのまま援助を続けるわけにはいかなかった。新規案件は見合わせようと判断した。ただし、緊急性、人道的側面、民主化や経済構造改革に資する案件は粛々と実施することにした。また、ASEAN全体やCLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)全体でやっているものも例外とした」。
ここで挙げられた「例外」は、5月30日以前に実施していた援助と全く同じである。もし山野内課長の発言通りだとすると、日本政府は5月30日事件以降も対ビルマODAの方針を変更していなかったことになる。「新規の経済協力案件を何事もなかったかのごとく進めることはできない」という竹内次官の説明はうそだったのか?
実は、外務省幹部によれば、日本政府は、何の説明もなく、段階的に対ビルマODAの『事実上の制裁』を緩めてきたのである。9月に人道援助を、12月に民主化に資する案件とASEAN全体やCLMV全体でやっている案件を『解禁』した。先ほどの表を見て欲しい。確かに昨年10月に草の根無償が再開され、12月には人間の安全保障基金や日本NGO支援無償といったスキームにも拡大している。それぞれの時期に、矢野副大臣が掲げた3つの問題に何ら本質的進展がなかったのに、である。軍事政権下のビルマへの人道援助が適切かどうかという議論はここでは置いておく。ここで問うているのは、説明責任であり、透明性なのである。
日本の対ビルマODAが更に大きく親軍事政権に動くとの噂が流れている。背景にあるのは中国の存在である。
中国を源流に持ちビルマを縦断してインド洋に注ぐイワラジ川のインフラ開発に中国政府が協力する見返りに、中国はこの川を物流ルートとしての利用することを許可されると報道された。つまり、中国は南シナ海を通らずに、イラワジ川からインド洋に抜けることができるようになる。ある国会議員によると、日本政府や与党議員はこの動きを相当警戒しており、中国の南下を阻止するためにも、ビルマの軍事政権を積極的に支援する方向を検討している、という。
中国のこうした動きを防ぐのであれば、民主化を急ぐ方が効果的だと思うが、日本政府は逆に軍事政権支援の最大の理由としている。しかし、こうした議論は公(public)には行われていない。日本政府の対ビルマ援助方針はいつも闇に包まれている。アウンサンスーチー氏拘束から1年がたったが、すでにそんなことがなかったかのように、日本の援助は「普通の状態」に戻っている。いや、むしろ「5月30日事件」前より拡大する動きさえ見せているのである。