ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > 【ナムトゥン2ダム・キャンペーン】第1号 世界銀行とアジア開発銀行の支援を止めよう!
(特活)メコン・ウォッチ 2004年9月1日
ラオスの人々の生計手段を奪い、環境破壊を進めるプロジェクトに、世界銀行やアジア開発銀行の資金が使われないよう、皆さんの力を貸してください!
ラオスのナムトゥン2ダム計画は、日本が第2の出資国となっている世界銀行が支援をするかどうかで、国際的に最も論議を呼んでいる大規模インフラ事業です。
ラオスは、日本の本州ほどの国土面積に、500万人余りが住んでいる東南アジアの内陸国で、ナムトゥン2ダム計画は、この国の中央部に位置する自然豊かな高原の湿地帯450平方キロメートル(琵琶湖の約4分の3)を水没させ、発電能力1070メガワット(107万キロワット)の水力発電を行おうというものです。
このうち995メガワット分は隣国タイに輸出され、残りは国内消費にまわされます。民間企業体のナムトゥン2電力会社(NTPC)が建設(Build)及び操業(OPerate)を行い、25年後にラオス政府に引き渡す(Transfer)BOT方式で進められています。NTPCには、フランス電力公社(出資率35%)、ラオス電力公社(同25%)、タイ発電公社の子会社EGCO社(同25%)、イタルータイ開発会社(同15%)が出資をしています。
事業の実現は資金が集まるかどうかにかかっていて、そのカギを握っているのが世界銀行の支援なのです。世界銀行が何らかの協力を約束すれば、それが「お墨付き」となって民間銀行団の金利の高い融資が、重債務貧困国のラオスに流れ込みます。
私たちは、以下に挙げる理由から、この巨大ダム計画に、世界銀行やアジア開発銀行(ADB)など日本が出資している国際機関が資金協力することに反対します。
ダムで水没する地域に住んでいる人たちは焼畑・水田農業や林産資源(竹、筍、樹脂など)、淡水漁業、小規模な伐採や狩猟、それに畜産などによって生計を維持してきました。ところが93年頃からダムを前提にした激しい伐採が軍系企業によって行われ、村人たちは生活を支える自然環境を失いました。村人がダムの補償を期待して事業に賛成するようになった背景はそこにあります。現在の環境・社会影響調査は伐採後に行われていますし、このような開発プロセスを世界銀行が認めるべきではありません。
世界銀行は25年間で名目19億ドルの歳入をラオス政府にもたらすと言います。もし、その皮算用が当たったとしても、この歳入が貧困削減に向けられる保証はありません。世界銀行がモデルとしているアフリカのチャド・カメルーン石油開発・パイプライン事業の場合、原油販売の収入は高速道路に振り分けられ、被害を受けた地元への還元も行われていません。モデルがこのように躓いている中で、ナムトゥン2ダムを貧困削減の名のもとに進めることは認められません。
ナムトゥン2ダムから電力を買うタイは設備能力の3分の1が余剰です。右肩上がりの楽観的な需要予測が過剰投資を生んできました。しかも、ナムトゥン2ダムからの電力料金は、タイ国内のガス燃焼式コンバインドサイクル発電より10パーセント前後も高いのです。タイには、ナムトゥン2ダムより多い1500メガワット分程度の再生エネルギー発電の可能性がありますが、それらは今後の電力開発計画に盛り込まれていません。タイ政府はナムトゥン2ダムを進めるため、クリーンで安いエネルギーではなく、高価で破壊的なエネルギー開発を行おうとしています。
ダムのための立ち退きは1996年に始まっていました。審査の前に立ち退きが行われれば世界銀行は支援できないのに、世界銀行はこの事実に目を瞑っています。また、世界銀行も認めた上での移転パイロット村が2003年に始まりましたが、ここでは米の代わりに商品作物生産を奨励されたものの、市場がないので米を買うお金がないという有様。一党独裁のラオスにあっては、自由に懸念や問題を口にすることはできませんが、立ち退き住民たちは、移転後の生活に大きな不安とリスクを感じています。貧困削減どころか、より深刻な貧困を引き起こす可能性が高いのです。
ナムトゥン2ダムは発電後の水を、セバンファイ川という別の川に転流します。それによって、最大で毎秒330立方メートルの水が転流され、セバンファイ川の水位は最大4メートル50センチも上昇します。回遊魚や河岸の生態系は破壊され、流域の住民生活は甚大な被害を受けます。この補償には、ダム事業の収益を充てるのではなく、世界銀行が5000万ドルの援助を検討しているのですが、海外の出資企業や銀行団にもうけさせ、それによる最大の被害のツケは援助で、というよりもラオスへの借金で補おうというのです。
カンボジア和平後の援助拡大の中で、この10年間ラオスではナムソンダム(ADB)、トゥンヒンブンダム(ADB)、ナムルックダム(ADBと日本の円借款)、ホアイホーダム(韓国企業らの民間投資)など水力発電ダムが次々と建設されました。そうしたダムは大きな環境社会被害を引き起こし、問題回避・軽減策は実行に移されていません。原因はラオス政府の意志と能力の欠如にあります。過去のダムの問題を解決しないまま、ナムトゥン2ダムだけはうまくいく、そんなことを信じられるはずがありません。
ナムトゥン2ダムに沈むナカイ高原は、東南アジア大陸部に残る最大の熱帯雨林地帯と言われています。アジア象、ハジロモリガモ、それに20世紀に初めて確認された大型哺乳動物のサオラーなど、稀少で絶滅が危惧される動植物が生息しています。近年急速に個体数が減少しているアジア象にとって、広大なナカイ高原は最も生存に適した地帯です。ナカイ高原の40パーセントを水没させるダム湖によって、アジア象の季節移動は妨げられ、緩和不可能な致命的な影響を受けると言われています。
現在、ラオス政府とNTPCは環境社会配慮(セーフガード)のための文書を作成しています。間もなくこれらの文書が完成すると、世界銀行やアジア開発銀行(ADB)は、この巨大ダム建設への融資を具体的に検討する審査プロセスに入ります。来年初めまでの融資承認を目指しているようです。
ナムトゥン2ダムが地域住民の生活やそれを支える生態系に及ぼす影響に懸念を抱いてきた私たちメコン・ウォッチは、世界銀行とADBに巨額の資金を提供している日本の市民社会に向けて、この事業の概要や懸念される問題について情報を共有し、公的国際金融機関の融資を阻止するべく、このキャンペーンを始めました。随時新しい情報をお伝えしていきます。
http://www.mekongwatch.org/issues/namthuen2.html#SEC1
http://www.mekongwatch.org/env/laos/nt2/index.html
現在、以下のペーパーが日本語で読めます。
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