ダム貯水池に水没して立ち枯れる木
ラオスのナムトゥン2ダムは、国際的な市民社会からの懸念が払拭されないまま、2005年3月・4月に世界銀行とアジア開発銀行の融資が決定され、建設が進められているプロジェクトです。ナムトゥン2ダム計画が論議を呼んできたのには大きく2つの理由があります。1つは人口500万人のラオスにとっては非常に大規模なダムであり、水没による立ち退きや河川水量の変化によって、山岳少数民族や低地の農民ら十万人規模で影響が生じるからです。もう1つは、世界最大の公的開発金融機関である世界銀行が、ダムがラオスの貧困を解消するという視点で支援を決定しましたが、その実効性への危惧が強くあるためです。
ナムトゥン2ダムは、ベトナム国境付近からラオス中部を横断してメコン河に流れ込むナムトゥン川(流域面積は約1万4000平方キロ)の中流域に建設されました。水力発電用で、1070メガワットの発電能力を備えています。そのうち995メガワットは隣国のタイに輸出され、残りの75メガワットはラオス国内に供給されています。つまり、ダム計画の目的は、電力輸出による外貨の獲得にあります。水没面積は450平方キロ、山岳少数民族などおよそ6200人が立ち退きを余儀なくされました。また、発電後の水が転流されるセバンファイ川沿いに住む12万人あまりが、増水による被害を受けています。
2018年2月6日から9日にかけて、メコン・ウォッチとインターナショナル・リバーズはラオス・ナムトゥン2水力発電事業の影響村を訪問した。貯水池から移転したナカイ高原の移転村8つの村及び(発電後の水が転流される)セバンファイ川下流にある1つの村に住む18世帯/グループを訪問しインタビューを行った。 本調査の中では、移転地に住むコミュニティが抱える未だ解決されていない問題が確認された。セバンファイ下流域でも、起こり続ける川岸の浸食に対して補償金をもらえず資産を失い、損害を被るケースも見られた。 また、今回の調査及びインタビューでは、世銀の出資によるナムトゥン2社会環境事業が2017年12月末で終了した直後であるのにも関わらず、移転実施期間(The Resettlement Implementation Period: RIP)の終了に向けた、包括的行動計画(Comprehensive Action Plan)の優先項目が達成されていないことが確認された。
メコン・ウォッチは2017 年1 月5 日〜7 日に、本案件の影響村を訪問した。貯水池からの移転が行われたナカイ高原の移転村6 村の16 世帯と、セバンファイ川下流の2村の11 世帯を訪問し、インタビューを行った。移転地では灌漑整備や追加的な土地分配、職業訓練などへのアクセスが全影響住民に行き渡っていないこと、村の中の貧富の格差が拡大していることなどが明らかになった。また、事業の移転プログラムは2017 年末まで2 年間延長されたものの、その目立った効果は見られず、長期的な生計回復の道筋は依然として不透明な状況である。セバンファイ川下流では、引き続き深刻な漁業影響が生じており、補償プログラムとして行われた村落貯蓄基金による債務によって村人が当局に拘束されるという事件が起きていたことも明らかになった。
メコン・ウォッチは2011年3月16日〜19日に、本案件のプロジェクトサイトを訪問した。貯水池からの移転が行われたナカイ高原の移転村2村と、セバンファイ川下流の2村を訪問し、影響住民26世帯にインタビューを行った。(1)水田・果樹への補償の支払いの混乱と住民の苦情申し立てに対する対応の遅延、(2)移転住民による違法伐採による収入への依存と生計回復の遅れ、(3)補償農地の灌漑の機能不全、(4)セバンファイ川の漁業の壊滅的な打撃、(5)セバンファイ川の下流の補償事業による債務問題などが明らかになった。
2010年11月、メコン・ウォッチはナムトゥン2ダム事業の影響を受けている移転村6と、セバンファイ川下流の3村を訪問し、影響住民および関係者計35名にインタビューを行いました。移転村では補償の遅れにより、水田や果樹などの村人の資産が確認不可能になっており、多くの村人が不満を抱えており、対応の遅れによる悪影響が深刻化している事例が見られました。生計回復プログラムのどれ一つをとっても、長期的な移転住民の生計回復にはつながっていません。また、セバンファイ川下流では、村落生計回復基金を用いた活動に失敗したことによって、村人の一部が借金を負うといったことも起きています。詳しくは、以下のレポートをご覧下さい。
2008年8月29日〜9月5日、メコン・ウォッチはラオスの開発問題に関心を持つ学生や研究者らとナカイ高原の移転村、ナムトゥン2電力会社(NTPC)タケク事務所、世界銀行およびADBのビエンチャン事務所などを訪問しました。2009年末の操業開始に向けて、建設工事は順調に進められています。しかし、事前に作られた社会開発計画(SDP)が適切に実施されておらず、事業の環境社会配慮については、問題が顕在化してきています。今回の現地訪問では、生計回復プログラム、移転住民への食料支援、苦情申し立てメカニズム、貯水池のバイオマスの除去などについての問題が明らかになりました。詳しくは、以下のレポート(英文)をご覧ください。
2008年4月26・27日、住民移転が「ほぼ」完了したナカイ高原を訪問し、移転住民へのインタビューを行いました。ナカイ高原では、移転住民たちがNTPCの補償に生計を頼る中、生計回復プログラムや水没予定地のバイオマス除去など、プロジェクトが行った様々な「約束」の破綻が浮き彫りになってきています。現地訪問で聞かれた移転住民の声と、訪問から見えてきたナカイ高原の現在と将来の懸念をレポートします。 詳しくは、以下のレポートをご覧下さい。
2006年12月20-21日、ナムトゥン2ダムによって水没するナカイ高原と発電後の水が転流されるセバンファイ川沿いの村を訪問しました。2005年3月31日に世界銀行が、4月4日にアジア開発銀行が同プロジェクトへの支援を決定した後、現地では着々と建設工事が進められていますが、世界銀行が自信を示していた移転計画にはすでに問題が生じています。
詳しくは、以下のレポートをご覧下さい。
2017年5月に横浜で開催された第50回アジア開発銀行年次総会に合わせ、同事業の問題をまとめた資料集と提言ペーパーを作成しました。以下からダウンロードできます。
2004年9月〜2005年3月に行ったナムトゥン2ダム・キャンペーンの資料を無料で配布しております。以下からダウンロードできるほか、紙媒体をご希望の方はメコン・ウォッチまで名前・所属・送り先をお伝えください。