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【ナムトゥン2ダム・キャンペーン】
第6号 パクムンダムの悲劇を繰り返すな
−軽視される被害住民の生活スタイル−

(特活)メコン・ウォッチ 2004.9.23

ラオスの人々の生計手段を奪い、環境破壊を進めるプロジェクトに、世界銀行やアジア開発銀行の資金が使われないよう、皆さんの力を貸してください!


ラオスのナムトゥン2ダムへの融資を検討している世界銀行は、10年前、メコン河流域国で大きな過ちを犯しました。パクムンダムの建設です。

パクムンダムのお膝元、タイ東北部のウボンラチャタニ大学教員であるカノックワン・マノーロムさんは、以下のような記事をタイのマティチョン紙(タイ語)に投稿しました。カノックワンさんは、タイ政府が試験的にダムの水門を開放した際、その効果を調査したチームのリーダーの一人です。この記事の中ではパクムンの事例をナムトゥン2と比較し、現地の人々の生活を正しく把握した調査を行った上で検討すべきであると提言しています。

以下、メコン・ウォッチの木口由香の翻訳です。

「パクムンダム」の経験を通して見るラオス・ナムトゥン2ダム

カノックワン・マノーロム

(ウボンラチャタニ大学人文学部教員)

2004年9月2日 マティチョン紙(タイ字)

ラオスのナムトゥン2ダムのケースはタイのパクムンダムと共通点が見られる。メコン河流域の生態系だけでなく、問題に直面するタイのムン川下流域の人々と同様の事態をラオスの中の「声なき人々」の生活に与えないように留意すべきだ。

ステークホルダー、特に920MWの電力を買う唯一の購入者であるタイ(訳者注1)は、ナムトゥン2に着手する前に、パクムンの経験を踏まえて環境社会影響評価をよく見直すべきであろう。

ナムトゥン2ダムは、タイ政府とラオス政府の間で交わされた2つの電力売買についての覚書(MOU:Memorandum of Understanding) にある8つのダムのうちの1つである。覚書は1993年6月4日と1996年6月19日に交わされている。そのポイントは、両国が協力して開発にあたること、そしてタイは2006年までに約3000MWの電力を購入しラオスの電力開発に協力するというものだ。この覚書が交わされた時点では、8つのプロジェクトと3596MWの電力売買が計画されていた。

ナムトゥン2ダムは約430億バーツ予算で建設され、995MWの発電能力がありそのうちの920MWをタイに輸出する(訳者注1)。2003年11月8日にタイ政府の名でEGATがラオス政府とナムトゥン2の電力を2010年から購入する電力売買計画を結んでいる。

ダムによって水没する地域はナムトゥン川の集水域のナカイ高原で、これはメコン河の集水域の一部でもある。ダム本体はメコンの支流であるナムトゥン川を堰きとめる。場所はナコンパノム県の向かいであるカンムアン県である。堰き止められる水はナムトゥン川に195キロもの長い距離にわたり蓄えられる。貯水池はナカイ高原につくられ、広さは450平方キロメートル、水はナカイ高原の裾野に作られる発電所に350メートルの落差で落とされる。その後、27キロの水路を通り放水調整池に蓄えられてからメコンの支流であるセーバンファイ(バンファイ川)に放水される。ダムの下流の水はトゥン川のほかの重要な支流であるガタン川に放水される。この辺りには、トゥン川の重要な支流であるナムパオ川やナムカディン川がある。

まとめると、ナムトゥン2ダムから影響を受ける流域は、ナムトゥン川の数多くの支流とメコン河の重要な支流の一つであるセーバンファイ川となる。またこの地域がナカイ−ナムトゥン国立公園に含まれていることもあり、高原や豊かな森林が含まれている。この森林は多様性に富み、アジアの中でも重要なものの一つである。

ダムは、高地に住む数多くの少数民族が生活に利用している生態系を破壊する。これらの民族はバラオ、ワイティック、タイカダイ、タイボー、高地タイ、セックなどである。そのほかにもタイ・ラオグループと呼ばれる川沿いに生活するラオス人も含むと、影響住民は5万8,986人に上る(訳者注2)。

これらの人々への影響調査は、地域をはっきりと分け、かつ包括的に深く掘り下げて行わなくてはならない。なぜなら、各民族はそれぞれの特徴を持っており森林資源に深く依存した生活を送っているからである。文化や信仰、生活のスタイルは森林と野生動物に依る。例えば、バンファイ川流域に住むタイ・ラオグループでは、土地と川の資源に生活を依存しており、水田耕作と漁業がその中心となっている。

このため、ダム建設地周辺の自然と関係し変化にさらされる人々の生活スタイルに関する掘り下げたデータは、慎重に調査されなくてはならない。なぜなら、このようなデータはそこで暮らす人々が、誰であるか、どのような生活を送っているのか、どのような歴史・社会を持っているのか、という民族のアイデンティティを映し出すからである。仮にデータが深みや包括性に欠けるものであれば、自然や生態系、そして地域で暮らす人々に対し、とどまることを知らない様々なリスクを生み出す。そうなれば、長い時間に渡って、タイのパクムンダムの問題と同様に、地域と国際的なレベル双方での社会的な紛争を引き起こす。

パクムンダムは、1991年に建設が始まってから10年以上に渡ってタイ社会に問題を投げかけ学びをもたらしている。数多くの政権が解決を図ったが、問題を終わらせることはできないどころか、政府とダムに反対する住民の間に暴力的な紛争を何度も起こすこととなっている。タクシン政権は2003/2004年の決定で、ダムの水門を4ヶ月開放し、漁業への影響を緩和する決定を行った。

パクムンの問題の紛争の原因は、政府が村人の生活スタイルについての掘り下げた情報に不足していたことから起きている。自給的な生活スタイルを行う条件、主要な現金収入、魚の文化、米の文化、ムン川とその川岸の資源に依存する生活、そして魚の種類やメコン河とムン川の間の魚の回遊についての情報が欠けていたのである。

漁業機会の喪失による住民の反対運動がおきて、住民の知恵を用いた調査が行われた結果、メコンの魚はムン川に毎年回遊して産卵していることが明らかになった。パクムンダムは2つの川の間の回遊を妨げる最も障害をもたらす因子となり、ムン川の魚類資源を減少させた。これは、魚という資源に依存する人々の生活に直接の影響を与え、最終的に長期的で終わりのない貧困問題となっている。

政府は、魚道を建設して影響緩和を図ったが、これはメコンからムンへの回遊をほとんど助けていないという調査結果がでている。ダムが1994年に完成してから政府は後追いで漁業の機会喪失について解決を図ることとなった。実際この地域に貧困が発生したからである。

政府の年間4ヵ月の水門解放は、従来の漁業を取り戻すことにはならない。ムン川の生態系は大きく変わってしまったからである。魚類資源の豊かさと自然の植生は、ダムのない状態での自然のサイクルに従ったようには回復していないのである。

このため、パクムン・プロジェクトをメコン流域での大型ダム開発の参考例として、その経験を生かすことは理にかなっている。特にナムトゥン2ダムのケースは、地域で自然資源に依存して暮らす貧困者の生活スタイルを、このような大型プロジェクトの建設前の基本的な検討課題とすべきだ。マクロ経済への利益だけを見るべきではない。また、それが地域の貧困を解決する道具であると期待すべきではない。なぜなら、政府が予想したような成果がなかったことはパクムンダムのケースで証明済みだからである。

訳者注1:ナムトゥン2電力会社(NTPC)によれば、ナムトゥン2ダムの発電能力は1070メガワットで、そのうち995メガワット分をタイが購入する計画。
訳者注2:NTPC・ラオス政府「ナムトゥン2水力発電ダム環境・社会影響評価要約(草稿)」中の影響地域の村落人口を足し算した数。実際には10万人を超えるという推計もある。

ナムトゥン2ダムとは・・・

ラオスのナムトゥン2ダム計画は、日本が第2の出資国となっている世界銀行が支援をするかどうかで、国際的に最も論議を呼んでいる大規模インフラ事業です。約6000人の立ち退き住民を含め10万人を超える農村住民に被害をもたらし、アジア象など貴重な野生動物の生息地を破壊します。総事業費は、ラオスのGDPの70パーセントに相当する12億ドルで、そのうち70パーセント以上を海外からの借金でまかなうことになります。計画の実現は資金が集まるかどうかにかかっており、そのカギを握っているのが世界銀行の支援です。もし世界銀行が協力を約束すれば、それが「お墨付き」となって民間銀行団の金利の高い融資が、重債務貧困国のラオスに流れ込むでしょう。経済的にもリスクが高いプロジェクトなのです。

キャンペーンの呼びかけ

ナムトゥン2ダムが地域住民の生活やそれを支える生態系に及ぼす影響に懸念を抱いてきた私たちメコン・ウォッチは、世界銀行とADBに巨額の資金を提供している日本の市民社会に向けて、この事業の概要や懸念される問題について情報を共有し、公的国際金融機関の融資を阻止するべく、このキャンペーンを始めました。是非、世界銀行、ADB、財務省国際局に対してナムトゥン2ダムへの資金協力を行わないよう働きかけにご協力下さい。

キャンペーンのサイト

http://www.mekongwatch.org/env/laos/nt2/index.html

現在、以下のペーパーが日本語で読めます。

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