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トンレサップ港計画>ADBの暴挙

メコン河開発メールニュース 2004年11月3日

メコン河流域の生態系にとって最も重要な存在がカンボジアのトンレサップ湖です。天然のポンプとして、渇水期に水を下流に吐き出し、増水期に溢れる濁流を飲み込んでくれます。魚の宝庫として多くの農村人口の生活を支えてきました。

日本が最大の出資国で歴代総裁を出しているアジア開発銀行(ADB)は、ここに「環境改善」という名目で港を建設しようとしています。湖の汚れや生態系の変化の原因は住民にあり、住民を水上生活から陸地に追いやり、そのあとに港を建設すれば、環境が保全され、商業が盛んになるという発想のようです。

以下のプノンペン・ポスト紙でも引用されていますが、メコン・ウォッチは、トンレサップ湖の環境悪化の原因をすべて水上生活者に押し付けて移転させ、環境改善とは無関係な港の建設を持ち込むことで、結果として湖の生活環境が破壊されると考え、カンボジアのNGOとともに、トンレサップ湖の環境改善策の代替案をADBに求めています。

ADBトンレサップ湖計画の暴挙―ADB Tonle Sap Plan an Outrage

By Liam Cochrane

プノンペン・ポスト(2004年6月14日付)

トンレサップ湖125万ヘクタールの漁業管理および開発の詳細計画は、同計画が食糧安全保障、生計手段そして環境にどのような影響を及ぼすかを懸念する人々によって、「暴挙」であり、「ところどころベールに覆われた投資計画」だと酷評されている。

ADBが資金を提供した「漁業総合計画」(GFP)は、政府の漁業局からのインプットを受けながら、国連食糧農業機関(UN Food and Agriculture Organization:FAO)が作成した。

定期的に検討されることになるこの5か年計画は、湖の漁業資源を守り、漁業地域へのアクセスの規制を改善し、共同体漁業を支援し、違法漁業を統制し、漁村のインフラを改善し、漁業の商業化を行うための戦略を描いている。

政府に(GFPが)承認されると、20のADB融資プロジェクトを含む45の既存調査および開発プロジェクト、そして政府が新規に形成するプロジェクトを通して、漁業計画が実行されることとなる。

GFPの現在のプロジェクトの推定額は3,000万ドルであるが、計画によると、一旦主要インフラプロジェクトが承認されると5,000万ドルから7,500万ドル程度に上る。

匿名の開発アナリストは、この計画は「投資を推し進めるための煙幕(smokescreen)」だと呼んでいる。

しかし、ADBのメコン局農業・環境・自然資源課のOlivier Serrat氏は、このような主張は「ばかげたもの」であると言った。

「規制と管理の枠組みやキャパシティの改善をしなければ、トンレサップ地域への投資は、徐々に生産性が低下していくだろうと、確信をもって言うことはできる」とSerrat氏はマニラから送られた6月3日付けの電子メールで述べている。

「このような状況で、どうしてADBはそのような投資を『推し進める』ことを望もうか」

詳細計画は、この計画を実施により、漁業セクターは年間2億7,300万ドルを生み出しうるとしているが、より現実的な予測はその半分だろうと認めている。どのようにしてこれらの数値にいたったのか、この計画は説明していない。

しかしながら、シェムリアップ近くの新しい港、湖周囲の卸売市場、高付加価値な魚種の養殖といった漁業の近代化の提案は、NGOや漁業専門家たちからの批判を巻き起こしている。

Fisheries Action Coalition Team (FACT)のMak Sithirith代表は「去年も今年も、すでに漁獲高は減少しており、さらにこのようなインフラを建設することは、湖自体のためにならない…実際、湖や漁業環境を悪化させるだろう」と述べている。

ADBの調査によると、トンレサップ湖はカンボジア人が消費するたんぱく質の約3分の2を提供しており、人口の15%が生計を湖に頼っている。

NGOは低価値な魚―現在はプラホック(訳注1)にされているような魚―は、水産養殖用の高価な魚の餌に大量に使用されるようになり、また加工施設が改善され、輸出が増えていくのに伴い、魚は貧しい人々からより豊かな消費者のもとへと離れてしまうだろうと懸念している。

メコン地域への日本の援助資金を監視しているメコン・ウォッチのプノンペン代表の杉田玲奈氏は「GFPの実施は小規模漁民に損害を与えうる。また、貧しい人たちの安くて入手可能な魚へのアクセスを奪ってしまうし、湖の自然資源を劣化させてしまう可能性がある」と述べた。

杉田氏はGFPのような開発プロジェクトは、トンレサップ湖での生活の「偽りの現実」を反映していると述べた。

「この現実の中では、小規模漁民および貧しいコミュニティは環境破壊の根源として紹介される。一方、商業用の資本集約的漁業は自然資源管理を改善し、貧困削減を導くものとして描かれる」と彼女は言う。

「このような操作された現実は、結果として、大規模な投資事業を正当化し、ADBのような国際金融機関のより多くの資金拠出を許してしまう」

GFPが提案している投資プロジェクトのうち、もっとも議論となっているものの一つが、シェムリアップ観光用フェリーの埠頭で、7つの水上村があるチョンクニアス(訳注2)での港建設である。

「チョンクニアス環境改善プロジェクト」という名のADBの別の技術援助スキームのもと、港の建設および浸水しない地盤(flood-free platform)上に造られる新たな居住区についての実現可能性調査が行なわれた。

(新たな居住地の)地盤というのは、既存の運河をより広く、より深くする際に掘り出された土を使って建設される。それによって、年間を通して船舶のアクセスが可能になり(訳注3)、(現在は水上で生活している)コミュニティが、湖の水位の季節的な変化により、8キロも移動しないで済むようになる。

「このプロジェクトの考え方の根本にあるのは、チョンクニアスの水上家屋の住民たちを、乾いた地面の上に固定された家屋に移し、生活状況の効果的かつ持続的な改善を達成しようというものである」、2002年11月の技術援助の提案はそう述べている。

プノンペン・ポスト紙の6月2日のインタビューによると、Sithirith氏は、運河を掘削することの環境被害や、船舶交通が増えることによる油漏れの危険を憂慮していた。

Sithirith氏はまた、チョンクニアス港により影響を受ける1,000もの家族が、水上村から離れた生活への適応のために苦労する恐れがあると述べた。

Sithirith氏は2月13日にADBへの手紙で、港建設を地元のインフラの改善の一部として容認する以外の代替案がコミュニティに示されていないと述べ、懸念を表明した。

メコン局農業・環境・自然資源課の当時の課長であったCR Rajendran氏が差出となったADBからの同月(2月)の返事は、ADBの過去の調査は、「影響住民の(陸地への)移転への希望は、船着場を改善するどのような事業においても不可欠な要素であることを確認した」と述べている。

しかし、現在のSithirithの交渉相手であるOlivier Serrat氏は、水上村の移住へのADBのアプローチを軟化させている。

Serrat氏は「移転は完全に自由意思による。現在ボートの上で生活している人々は、自ら望むのであれば、ボート生活者として残ることも、居住区へ移住することも選択肢としてある」と書いている。

今年1月16日に開催したチョンクニアスを開発する計画についての公聴会には、約450人のステークホルダーが参加した。

メコン・ウォッチとFACTは、地元漁民や貧しい人々の声が漁業総合計画の最終案に組み込まれていないとして、公聴会を批判している。(訳注4)

カンボジア国内のコンサルタント・チームを率いている漁業局のThay Somony氏は、公聴会プロセスは中身の濃いもので、漁業総合計画のよい出発点となったと評している。

Somony氏は「これは生きた書類であり、状況に適用できないことがわかれば、更新することができるものである」と述べている。

GFPは現在クメール語に訳されている最中であり、農林水産省に承認を受ける前の同僚によるレビュー(peer review)を受ける予定となっているとSomony氏は述べた。


(訳注1) プラホックとは地元の人たちの日常食で、魚を貯蔵用にペースト状に加工したもの。

(訳注2)英語ではChong Khneasというスペルである。現地語での発音は「チョンクニエ」に近いが、ここではチョンクニアスと一貫して表記する。

(訳注3)現在は、小さく浅い運河を村人や小規模船が使用している。実際には、ADBの事業計画によると、新たに2本の水路が建設される。ひとつは商業用の大水路であり、長さ5km以上、幅50m以上が計画されている。もうひとつは村人用の水路である。

(訳注4)チョンクニアスで行われた港建設に関する公聴会には、港建設予定地周辺の住民しか招待されず、湖周辺5県の漁民やNGOは港建設に関する意思決定に参加できなかった。ADBによる資金拠出で行われた、「漁業総合計画」の公聴会において、湖周辺5県の漁民やNGOは、同港建設が起こしうる環境社会への悪影響に関する強い懸念を表明し、明確に反対したにもかかわらず、である。また、「漁業総合計画(GFP)」の公聴会プロセスにおいても、港建設や高価な魚種の養殖に反対した漁民やNGOの声は全く無視されるなどの、数々の問題点が参加した村人やNGOから報告されている。

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