日本の国際協力銀行(JBIC)と世界銀行が建設資金を融資したタイ東北部のラムタコン揚水式発電所の建設工事は、地元住民に深刻な健康被害をもたらし、人々を貧困化させたとの批判を受けています。
貧困削減のためにODAを増額する動きが盛んですが、ODAがもたらした貧困を解決するためにはほとんどお金が使われません。被害を受けた住民自身が、健康診断
や治療の資金を自己負担するという二重の苦しみを背負っているのが現実です。
そんな中で、次々と住民たちが呼吸器疾患で倒れています。
貧困削減の大合唱の中でもJBICや世銀から何の解決策も与えられない被害住民たちへの寄付活動が現地で細々と始まりました。以下は、この問題を追跡している メコン・ウォッチの木口の報告です。
7月9日、ナコンラチャシマ県クロンパイ郡カオヤイティアン村で、仏教行事である「パーパー」と呼ばれる儀式が行われました。通常「パーパー」は寺に寄進するお金を集めるためのものですが、この日は重い呼吸器疾患を抱える住民の治療にあてるため寄付が集められました。
集まったお金は僧侶に供えられた後、村人の基金に入金される手続きが取られました。住民代表はこのお金で症状の重い人からバンコクの専門病院に連れて行くと話しています。寄付は5万バーツほど集まりましたが、重篤患者の一回の診療と薬代は1万バーツ以上になると見られており、状況を改善するにはほど遠いものです。
影響住民の間には肺や気管支の病気を抱える人が増加し、医療費の負担で生活は困窮を極めています。この数年間で肺の疾患、皮膚がんなどで亡くなる方がでています。また、一部の重金属や化学物質が村の水源や土壌に残留している可能性も懸念されていますが詳細は明らかにされていません。 解決の糸口が全く見えないことから、住民は国の独立機関であるタイ国家人権委員会に窮状を訴えまし
た。現在、委員会が介入し、住民の健康被害に対する補償をタイ発電公社(EGAT)に働きかけています。しかしEGATは「住民の証言は虚偽のものであり補償どころか援助する必要もない」と強硬な態度で、委員会の要求すら退けています。
東北タイのナコンラチャシマ県に建設されたタイ初の純揚水式発電所。総工費は
4億7540万ドルで事業実施主体はタイ発電公社(EGAT)。このプロジェクトに対
して国際協力事業団(JICA)が1991年に事前の開発調査を、また1994年に国際協力銀行(JBIC)が世界銀行との協調融資を行っている。(JBIC:182億4200万円、
世銀:1億ドル)そして、特殊法人電源開発(現J-Power)が工事の施行管理を行っ
ているという日本と関係の深いプロジェクトである。
工事の際、近くのカオヤイティアン村(行政区6区と10区)に、粉塵が2年7か月 もの間降り注いだ。この粉塵が農作物や家畜、そして住民の健康にまで被害を引 き起こした。粉塵には、火薬や添加剤由来の重金属や様々な化学物質が含まれて いたと見られるが、詳しい調査結果は公開されていない。