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メコン河開発メールニュース 2005年10月25日
メコン河に次ぐ東南アジア大陸部の国際河川サルウィン川(中国、ビルマ、タイを流れる)のダム開発に関するニュースです。
9月13日のメコン河開発メールニュースでお伝えしましたように、中国の市民グループがサルウィン川/怒江のダム計画の環境影響評価報告書(EIAレポート)の公開を求めています。
これに呼応して、下流のタイやビルマの市民グループも声を挙げています。
以下は、カナダのNGOのProbe Internationalが出しているThree Gorges Probe(三峡調査)のニュースを、メコン・ウォッチの大澤香織(雲南・昆明)が翻訳したものです。
c2005年10月19日
Three Gorges Probe ニュースサービス、Kelly Haggart
中国雲南省における怒江の開発計画をめぐって議論が渦巻いているが、ビルマ、タイの90の環境保護団体と現地グループは今回、中国政府に対しこの貴重な国際河川をダムから守るよう、アピールを行った。
1999年からサルウィン川のビルマ、タイ部分における大型水力発電所建設に抗議してきたサルウィン・ウォッチ連合は、中国政府に対し「怒江のEIA報告を中国の法律に基づき全面的に市民へ公開するよう求める」書簡を送った。
「われわれはタイおよびビルマ政府が、これらのプロジェクトについて最初に議論を始めた頃からサルウィン/怒江/Thanlwin Riverの水力発電所開発計画について懸念してきた。これらの開発計画は、これまでに多くの人々の移転と現地調査を確保するための軍事行動、そして大規模な森林伐採を引き起こしてきた…」。
「中国の中央政府が(怒江ダムの)ネガティブな環境社会が下流にもたらされ、地域的な影響を与えることについて考慮することは重要である…われわれはただ中国の指導者がみずからの行動により被害を受ける人々について考慮するよう願うだけである」。
9月29日付けのこの下流国からのオープンレターは、8月25日付けの中国の団体による北京政府へのアピールを支持している。8月25日付けのレターは現在までに87の中国の団体と、380の科学者、環境保護活動家、ジャーナリスト、その他の個人によって承認されている(8月25日付けの中国の団体によるレターはもともと61団体、99個人によって署名されていたが、北京に拠点をもつ自然の友のウェブサイトに掲載されたことにより継続的な支持を集めている)。
この中国語のオープンレターは中国政府に対して大型インフラ・プロジェクトにおける市民参加を定めた中国の法律にもとづき、怒江計画のEIA報告書を公開するよう求めている。
サルウィン・ウォッチのウェブサイトの地図には怒江/サルウィン川の流経路が赤く記されている。この川は中国では怒江と呼ばれ、下流ではThalwin(ビルマ語)あるいはSalween(英語)で知られている。
この川はチベット高原に源流を発し、中国西南部を通ってビルマに入る。ここで川はタイとビルマの120キロメートルにおよぶ国境を形成し、最後にアンダマン海に注ぐ。2800キロメートルを流れ、東南アジアにおいて瀾滄江/メコン河につぐ第2の長さを誇り、この地域のダムのない川としては最長である。
しかし怒江/サルウィン川の自然な流れは、この川が流れる3カ国すべての国々からの深刻な危機に直面している。怒江に13のカスケード・ダムを建設しようとする中国の計画は2004年4月に温家宝首相によって暫定中止とされ、プロジェクトは「より科学的な研究」が必要であるとされたが、計画がなくなったわけではなかった。
一方、タイとビルマは8月30日にエネルギー協力に関する契約に署名した。この契約は「サルウィンおよびTenasserim川の流域における5つの水力発電ダム建設計画を含む」と9月1日づけのバンコク・ポストは報じている。バンコク・ポストはまたタイの大使がヤンゴンに対して「フィージビリティ・スタディは今月(9月)にもはじめられ、2カ国政府に対する最終報告は来年末までに行われるだろう。EGAT(タイ発電公社)も投資に参加する」と示したことを引用している。
Probe International(Three Gorges Probeを発行している)の政策ディレクターGrainne Ryder(グラニア・ライダー)氏は、世界銀行が融資をおこなった破壊的なパクムン・プロジェクトが翌年ひきおこした市民の抗議によって、タイは1994年以来、水力発電ダムの建設ビジネスから距離を置かざるをえなかった、と指摘する。
「しかしそれ以来、タイのEGATはラオス、ビルマ、中国雲南省から水力発電ダムを輸入する取引を交渉している。これらの国々では報復を恐れ、市民は政府のプロジェクトに対して容易に疑問を呈することはできない」と彼女は語る。
サルウィン・ウォッチ連合が協力して昨年、出版した“The Salween Under Threat(危機にさらされるサルウィン”というブックレットのなかで著者らはこう記している:「関連する人々は緊急に発言をする必要がある。なぜなら現地で影響を受ける可能性のある人々がこれらの破壊的なプロジェクトに抵抗するためには、危険に直面しなければならないためだ。この危険とは特にビルマのような国では明らかで、ダムの反対者は深刻なチャレンジに直面する。彼らは激しい、時には死にもつながる報復を受ける可能性が高い」。
タイの環境保護グループをリードし、サルウィン・ウォッチ連合のオープン・レターの署名を集めたMontree Chantawong氏、生態系回復のためのプロジェクトのキャンペーン・コーディネーターは、中国、ビルマ、タイ政府はすべて河川にダムを建設したいのだ、と語った。彼は「しかし彼らの決定はつねに環境面での影響と人権を無視している」と語る。「サルウィン川はそれ自体がひとつのエコ・システムで、上流で起こることは絶対に下流のコミュニティと生態系に影響を及ぼす」。
「プロジェクトの情報公開と市民参加を求めることは、すべての国々において法に定められている基本的権利である。さらに国際河川であることでサルウィン川流域で暮らす人々は彼らへの影響を知り、懸念を伝える権利がある」。
一方、中国民政部によって設立された北京に拠点をもつ新聞社は、官報メディアとして初めて中国の団体によるオープン・レターについて報道した。10月12日に発行された公益時報(Public Welfare Times)の長い記事では、レターに署名を行った何人かの人々にインタビューを行っている。この中にはこのアピールの草稿を作成した環境コンサルタント、馬軍(Ma Jun)氏も含まれている。
馬(Ma)氏は『中国の水危機』の筆者で、新聞社に対して以下のように語った。影響を受けるグループが意思決定をするための情報へのアクセスを欠いた状態では政策決定プロセスに効果的に参加をすることはできない、市民の知る権利は最優先事項とされなければならない。
「何故われわれは政府当局に対し怒江のEIAを市民へ公開するよう求めるのか? …私たちは今後の大河における政策決定が科学的かつ民主的な基礎の下に行われることを確保しようとしているのだ。われわれは怒江にダムを建設することによってもたらされるであろうすべての環境、社会問題がすべて十分に検討され 、(ダムに対する)代替案が考慮されたかどうかについて、たいへん懸念している」。
北京にある中国水保護および水力発電研究所のエコロジー部門ディレクター、Tang Kewang氏は、怒江峡谷への環境面での大きな懸念から、オープン・レターに署名をしたと語った。怒江の自然遺産は中国全体のものであり、その運命が、市民参加というプロセスなしに決定されるのはとてもリスクが高いと語った。EIA報告の一部が非公開にされねばならなくても、その主要な結論は公開されるべきである、と彼は新聞社に対して語った。
「現地政府はもちろんダム・プロジェクトを推進するのに熱心だ。なぜなら彼らの願いは現地の開発の速度をあげることだからだ。しかし、市民としてわたしは、怒江峡谷の環境保護についてどのような結論が引き出され、われわれがダム建設決定によって起こるであろう環境問題を解決するために、十分な注目を払ったのかを知りたいのだ」。
「ダムは建設のために100億ドルものコストを必要とし、さらに重要なことは何千人もの人々を移転させることだ。彼らは適切に移転させられなければならない。電力会社と現地政府は怒江峡谷における水力発電開発からの莫大な利益を得るのだから、こうした決定を行うのは当然だ」。
「われわれがキャンペーンに参加するのは政策決定者に面倒をかけようとしているのではない」とTang教授はつけ加えた。「しかし、われわれは政策決定プロセスの改善を促したいと願っている」。