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メコン河開発メールニュース 2005年11月26日
パクムンダムをはじめ、タイで多くのダム問題を引き起こしただけでなく、現在はラオスのナムトゥン2ダムなど、周辺諸国の巨大ダム開発の推進役となっているタイ発電公社(EGAT)の民営化に対して、タイ最高行政裁判所が、直前でストップをかけました。
分割せずに巨大組織のまま民営化することや、EGATが「支配している」川や水が民営化されることへの批判が高まっています。更に、タイのタクシン首相が牛耳る通信業界との癒着疑惑も指摘され、大きな政治問題化しつつあります。
以下、メコン・ウォッチの木口由香の報告です。
世界銀行の「アドバイス」で3つの公社が一つになり誕生したタイ発電公社(EGAT)。時に閣議決定をも無視する力のある機関に育ち、各地の発電所で地元住民との紛争を抱えています。
最近の構造改革の一環で、世銀は「公社は非効率」であると民営化を進言。タイ政府も各公社の民営化を積極的に推し進めています。しかし、EGATは分割されないまま民営化される予定で、巨大な独占企業が誕生する寸前でした。
タイ社会でほとんど話題にならなかったこの問題ですが、最高行政裁判所の判断で最後の瞬間でどんでん返しが起こりました。これを機に一気に報道が増え、EGATの職員が優先的に自社株の購入を受けられることなどで国民の反感も高まっています。仮に訴えが認められれば、EGATの民営化は白紙に戻りますが、この件でタイの株式は下落しており、民営化圧力も高く、綱引きが続く模様です。
以下、ここ一週間ほどの報道をまとめてみました。
11月15日、翌日に予定されていたタイ発電会社(旧タイ発電公社、EGAT)の株式購入予約が最高行政裁判所の命令で無期延期となった。この判断は、タイ消費者連盟と11人の代表の提訴を受けてのもの。市民グループは、公社を解散するための2つの勅令が憲法に抵触しており、廃止すべきであると訴えている。裁判所は審議を行うために株式の予約・販売を無期延期する命令を出した。
マネージャー紙(タイ語)に掲載された訴訟団代表のロサナーさんへのインタビュー記事によると、公社民営化法は国民に対する公聴会を定めているがそれは実施されておらず、政府が「手続きに従っている」としているのは誤りだという。また、政府の解釈では憲法(彼女の理解ではおそらく230条)が国会が制定し、国王が署名した法律ではなく勅令でも公社を解散できるとしているが、この条項が対象としているのは、省や局であり公社は含まれていないなど、いくつかの重大な違反を指摘している。その上、公社の公共性を無視した民営化自体も憲法に反するという。
野党であるタイ民主党のアピシット党首も、公共団体としてEGATが水力発電に利用してきた河川の水などがどのような契約で民間会社となるEGATにリースされるのか不透明、として契約の公開を求めている。EGAT代表は記者会見で、契約はタイ財務省にあり調べることは可能、と答えたのみで、内容には触れなかった。
一部の報道では、EGATが所有している通信ケーブルが、非常に安い価格で通信会社に貸し出されるのでは、という点も指摘されている。通信王であるタクシン首相との関わりを臭わす報道で、EGATの民営化が政治的に大きな問題になる可能性も出ている。
【以上、ソースはマネージャ紙、マティチョン紙(タイ語)、バンコク週報】
住民運動のネットワーク、サマッチャーコンヂョン(貧民会議)の相談役で著名な社会活動家のワニダーさんは、メコン・ウォッチのインタビューに対し、「今、政府の管理下にある状態でもEGATは多くの未解決の紛争を各地の住民と抱えている。住民は、EGATがこのまま民間企業になった場合、今までの責任を逃れてしまうと懸念している。また、多くの発電事業はコミュニティの犠牲という社会資本を払って行われいる、ということをタイ社会は理解しなくてはならない。どのような計画でも住民参加が必要だ。EGATは未だに電気が足りないと主張し新規事業を進めているが、実際は電力はかなり余っている。また、既存の発電の利益は投資家に配る前に被害を受けているコミュニティに還元されるべきだ」とコメントしている。