ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > ベトナム・セサン川ダム>依然続くヤリ滝ダムの悪影響
メコン河開発メールニュース 2005年12月18日
ベトナムからカンボジアに流れるメコン河最大の支流セサン川・スレポック川に次々とダムが建設されています。セサン川に建設された最初の大規模ダムであるヤリ滝ダムによるカンボジア、ラタナキリ県への悪影響は、完成から5年を経た今でも継続しています。
以下は、2005年10月に公表されたハーバード大学ロースクールによる分析レポートを、メコン・ウォッチで越境問題を担当する大澤香織が解説したものです。
メコン河最大の支流で、ベトナム中部高原からカンボジア、ラオスにまたがる国際河川であるセサン川に、ベトナムによって建設されたヤリ滝ダムは人権、国際環境法の深刻な侵害であるとする分析レポートが2005年10月完成した。
ハーバード大学ロースクールのTyler氏らによって作成された同レポートによれば、ヤリ滝ダムによる被害は2000年6月以来、正式には報告されておらず、また水位変動は1999年および2000年ほど深刻ではないものの、2005年4月から5月に実施された調査によれば、漁獲高の減少による現地住民の食糧安全保障の悪化など、ダムによる下流ラタナキリ県への悪影響は継続中であることが明らかとなった。
レポートの中では、カンボジア政府およびベトナム政府は1995年に結ばれたメコン協定に違反していることが指摘されている。そしてこの協定に基づき両政府は国境を越える影響をただちに食い止め、過去、現在および将来おこりうるダムの悪影響について現地住民に対して補償するべきだとの勧告がなされている。
またベトナムでのダム建設は、メコン協定や国際法の原則に定められているステークホルダーの参加が確保されておらず、今後建設が予定されているダムを含め、影響を受けるグループの意思決定への参加を確保するようなプロセスを踏むべきだとの勧告がされている。
さらに、ダムからの放水についての通知体制は多くの問題を抱えていること、セサン川の問題に関するカンボジア政府内の意思決定の不透明さ、両国政府の意思疎通の不足、両国政府の補償体制の欠落を指摘している。
メコン・ウォッチは2004年度から日本の国立環境研究所によるメコン河生態系モニタリング(MeREM)プロジェクトに協力しており、研究機関がいかにしてセサン川の問題解決に寄与できるかを調査・検討している。
なお、ハーバード大学ロースクールが作成した調査報告書、及びメコン・ウォッチのMeREM請負調査報告書は、メコン・ウォッチで入手可能である。関心のある方はinfo@mekongwatch.orgまで。