ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > ラオス・ナムトゥン2ダム>ナムトゥン2ダム融資から一年 - (2)論戦が続く経済性
一年前の2005年3月31日、世界銀行はラオスのナムトゥン2水力発電プロジェクトへの支援を決定し、その4日後には、アジア開発銀行も融資を決めました。それぞれ、日本が第二、第一の出資国となっている国際開発金融機関です。
豊かな生態系が残るナカイ高原の450平方キロを水没させ、約6200人の移転住民を含む十数万人の生計を大きく変えるこの巨大ダム事業に対して、社会・環境・経済面での大きなリスクが指摘されていました。しかし、そうした国際的な市民社会からの懸念が全く払拭されない中での世界銀行・アジア開発銀行の融資決定でした。
あれから一年。現地の住民生活やプロジェクトを取り巻く状況がどのように変化してきたのか、数回にわたってお伝えしています。第2回は、論戦が続く経済性の問題についてです。
2006年4月4日
メコン・ウォッチ 東 智美
ナムトゥン2ダムは、生態系の破壊や住民移転など、環境・社会面のコストについてだけではなく、経済面でのリスクや疑問点についても論議を呼び続けています。その意味では、環境か開発か、という問題ではなく、開発自体の効果も自明ではないのです。
ナムトゥン2ダムの電力の95%を購入するタイでは、2月7日に2つの英字新聞が事業の経済効果とリスクをめぐって異なる論調の記事を掲載しました。バンコク・ポスト紙は、ナムトゥン2の電気料金は低く、タイの電力料金削減に貢献すると主張しています。一方、ネイション紙は、ナムトゥン2ダムは多額の社会・環境面でのコストを負担しなければならなくなるとの記事を載せています。
バンコク・ポスト紙で強調されているナムトゥン2ダムからタイへの電力供給の利点をめぐっては、融資が決定される前から疑問の声が挙げられてきました。記事の中では、ナムトゥン2の電気料金は、1キロワット時あたり1.7バーツ(約5.2円)と格安であると述べられています。しかし、タイの環境NGO・TERRAの共同代表で、タイ国家経済諮問委員会の委員だったウィトゥーン氏の分析によれば、送電線敷設費用を含めると、ナムトゥン2からタイが買う電力の価格は、1キロワット時あたり1.8バーツ(約5.5円)になります。さらに、タイ初の独立発電事業体(IPP)である700MWのガス燃焼式のコンバインド・サイクル発電所からの電力料金は、送電線敷設費用も含めて、約1.5バーツ(約4.6円)に過ぎません。
カナダのNGOでエネルギー問題に詳しいProbe International(http://www.probeinternational.org)のグラニア氏も、ナムトゥン2ダムはタイの人々にとっては不必要でコストがかかるプロジェクトであるばかりか、タイにおける再生エネルギーや自然エネルギーの推進を妨げると主張しています。
ネイション紙は、ナムトゥン2ダムは、譲渡契約の中で計上されている金額をはるかに上回る社会・環境面でのコストを負うことになると論じています。こうしたコストを事業者がきちんと負担するのか、また環境・社会面でのコストを精算した上で、ラオスが本当に利益を得ることができるのか、多くの疑問が残されています。
バンコク・ポスト紙、2006年2月7日
Yuthana Praiwan記者
ラオスのナムトゥン2水力発電プロジェクトの操業が2009年に始まれば、タイの高い電力料金を抑えることになる。ナムトゥン2の電力料金は、世界でも最も低い水準だからだ。
プロジェクトのパートナーのElectricity Generating(EGCO)社の資産管理部門の副部長であるParnuwat Gurutatana氏によれば、地理的な条件のおかげで、ナムトゥン2は大きさや発電量が同じ他のプロジェクトと比べて、最も低コストで建設される。
ナムトゥン2ダムは、高さはたった39メートルであるが、1,070MWの電力を発電するための水を蓄えることができる。一方、同じくラオスにあるナムグムダムは、高さは75メールで発電量は150MW、タイのターク県にあるブミポンダムは、高さは154メートルで発電量は731MWである。
ナムトゥン2ダムの総発電能力のうち95%は、25年間の契約の下、タイ発電公社(EGAT)を通じてタイに売られる。
Parnuwat氏によれば、ナムトゥン2で発電される電気料金は平均で、1単位(キロワット時)あたり、1.7バーツとなる。一方、他のラオスのプロジェクトはこれよりもう少し割高である。
ナムトゥン2ダムは、およそ10%まで建設が進んでいる。
ナムトゥン2電力会社(NTPC)のコミュニケーション・アドバイザーであるLudovix Delplanque氏によれば、このプロジェクトは、ロイヤリティ・税金・配当として、ラオス政府に800億バーツ(約2,435億円)の利益をもたらす。
貿易収支の面では、このプロジェクトからタイに電気を輸出することで、ラオスは毎年31億バーツ(約94億円)を得ることになる。これはラオスの年間予算の30%にあたる。
また、ナムトゥン2プロジェクトによって、現在タイの発電の70%を占めている天然ガスへの依存を減らすことができる。このプロジェクトには、フランス電力公社(EDF)が35%、ラオス電力投資会社(LHSE)とタイのEGCO社がそれぞれ25%、イタル・タイ社が15%を出資している。
The Nation紙、2006年2月7日
Watcharapong Thongrung記者
関係筋によると、タイの主要な電力源となるラオスのナムトゥン2水力発電プロジェクトは、1億ドル(39億バーツor118 億円)もの環境・社会面のコストを背負わなければならなくなるという。これは、プロジェクトの価値総額の10%にあたる。
この金額は、事業者であるナムトゥン2電力会社(NTPC)とラオス政府が結んだ譲渡契約の中で、環境・社会セーフガードのために計上されている4,080万ドルの2倍以上にあたる。
ナムトゥン2水力発電プロジェクトは、16億ドルのプロジェクトで、1,070メガワットの発電能力があり、ラオスのナムトゥン川に建設されている。このプロジェクトには、長年、環境団体から反対の声が挙げられてきた。昨年5月に建設が始まり、3年後に発電所の操業が始まる予定である。「エーヤワディ(イラワジ)−チャオプラヤー−メコン経済協力戦略」の枠組みに参加する国々は、石油に代わるエネルギー源を探そうとしている。
ナムトゥン2電力会社(NTPC)のコミュニケーション・アドバイザーであるLudovic Delplanque氏は、ナカイ高原、セバンファイ高原、そしてナカイ・ナムトゥン国立生物多様性保護地域など、プロジェクトに関係する全ての地域で、環境と地元住民の利益を守るための方策がとられていると語った。
ナカイ高原では、企業はナムトゥン2ダムの影響で水没する池の回りの農地から、1,000世帯、6,200人を移転させる計画である。移転住民には、より良い地域で生活できるように土地が用意されており、そこに移転することになるとDelplanque氏は語った。
セバンファイ高原では、ナムトゥン川(訳者注:セバンファイ川の誤りと思われる)沿いに生活している約10万人の人々も、企業が用意している計画のもとで、「より良い生活ができるように支援を受ける」ことになっている。
NTPCは2002年に、ナムトゥン2プロジェクトを開発、融資、所有、操業するために、ラオスの法律のもとで組織された有限責任会社である。NTPCの株主は、35%の株式を所有するフランス電力公社の子会社のEDF International社、ラオスの国営企業で、25%を所有するLao Holding State Enterprise社、25%を所有するタイのEgat社(訳者注:EGATの子会社のEGCO社の誤り)、15%を所有するイタル・タイ社である。
2009年の後半に操業が開始されれば、ナムトゥン2ダムはタイへ電力を輸出し、税金・ロイヤリティ・配当としてラオスに収入をもたらすことが期待されている。