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ベトナム・アーヴォンダム>建設労働者に脅かされる少 数民族の女性たち

メコン河開発メールニュース 2006年6月29日

住友商事が発電機を受注し、国際協力銀行(JBIC)が融資を、日本貿易保険(NEXI)が保険付与を検討しているベトナム・アーヴォン水力発電事業についてのニュースです。

以下に紹介する現地新聞タイニエン紙の記事によれば、この事業の建設労働者が、現地の山岳民族の女性を身ごもらせ、すでに20数名の女性たちがパトゥイ【訳注:父親がいない子どもの意】の母親となっています。この事業が行われているベトナム中部の山岳地帯では、これまでも土木工事にために平地から短期間やってきた労働者が、少数民族の女性を騙して身ごもらせたり、暴行をしたりする事件が起きています。

この事業に関与している住友商事の経営理念には、次のような項目があります。
『健全な事業活動を通じて豊かさと夢を実現する』
『人間尊重を基本とし、信用を重んじ確実を旨とする』

また融資を検討しているJBICの環境社会配慮ガイドラインは、次のように定めています。
『女性、こども、老人、貧困層、少数民族等社会的な弱者については、一般に様々な環境影響や社会的影響を受けやすい一方で、社会における意思決定プロセスへのアクセスが弱いことに留意し、適切な配慮がなされていなければならない』

『環境アセスメント報告書には以下の項目が含まれるべきである。(中略)環境管理計画(EMP)―建設・操業期間中に負の影響を除去相殺、削減するための緩和策、モニタリング及び制度の強化を扱う』

しかし、大量に流入する建設労働者が少数民族の女性たちに及ぼす影響を回避・緩和する対策はなんらとられていません。以下のタイニエン紙の記事はこう結んでいます。

『・・・結婚詐欺は、元来極めてプライベートな話から始まって、深刻な社会問題に発展したのである。大規模工事現場における地元女性に対する教育宣伝活動が必要であり、特に地元婦人会の役割が極めて重要だ。このような状態は、クアンナム省ではアーヴォン、ソンチャイン2水力発電所建設事業のような大規模建設工事においては、事前によく研究され、予防されなければならない』

少数民族の女性たちへの教育活動以上に、建設労働者、雇用者、更に事業を進めている政府機関や民間企業こそが対応を検討するべきでしょうし、この状態を知っているJBICが何の対策もないまま融資をすれば、その責任も重大です。

やまむすめの涙

タインニエン紙 2006年4月12日
記者:フア・スエン・フイン

アンナム省ドンジャン県の山岳地域における大規模建設工事のために、平地からやってきたキン族労働者たちとの束の間の逢瀬の後、多くのカトゥー族の娘たちが、パトゥイ【訳注:父親のいない子どものこと】を生んだ。ドンジャン県のカトゥー族だけでなく、ナムチャミ県のセダン族・カゾン族の集落でも、同じように不誠実な男性に騙されて子どもを産んだ女性たちの河岸ができつつある。一見屈託のなさそうな暮らしぶりであるが、平地からきた男性たちが馬を駆り風を追うように去来したあと、そこは、ここで生きていかなければならない人間の恨み辛みで満ちている。

夫の無い母親たち

ホー・タイン・バー氏は記者を単車の後部座席に乗せた。バー氏はナムチャミ県チャマイ社の青年たちのリーダーであり、弱冠28歳にして3000本の肉桂を植えた農園の半分を村のカゾン族やセダン族の青年にただで分けるという義挙を行った。
バー氏と共に曲がりくねった道を行き、着いたヌオクラ橋のほとりは、とても静かだった。バー氏たち3人の駆る単車―ホンダ・ウィン100ccが余りにも飛ばすので、橋近くに座っていた男女が驚いていた。「この橋のたもとが三叉路だ。右折してヌオクラ橋を渡れば山人参の産地ゴクリン山に続く。もと来た道をまっすぐ行けばチャヴィン社、チャヴァン社に着く。明るい満月の夜は、セダン族やカゾン族の少女たちがここで逢瀬の約束をする。ナムチャミ県にはこういうところが二箇所ある。ヌオクラ橋とナムタン滝だ」。ここが、不誠実な男性に騙されて子どもを産んだ女性たちが住む河岸の始まりである。

バー氏はしばしばこうした境遇で子どもを産んだ女性のいる家々を訪ねる。記者も同行した。2000年に、セダン族の女性のホー・ティ・ベーさんは思いがけず赤子を産んだ。ベーさんは言う。「自分で産んだわけですが、とても驚きました」。
さらに、その2年後に、ベーさんはまた子を産んだ。長男の父親は北部のどこかの出身だという建設労働者、次男の父親はTという技師で、いずれもヌオクラ橋建設工事のために来ていた。彼らは風のようにベーさんの生活に入り込み、子供に素敵な名前をつけた後、風のように消えた。記者がインタビューしているとき、ベーさんは3番目の子を身ごもっていた。「父親はおそらくL氏であろう」とベーさんの実弟は言った。

タクゴ集落は坂の上に8軒の高床住居が建つ。そこにはキン族の青年に騙されて子どもを産んだ4人の女性たちがいる。ホー・ティ・トゥイ・ホンさんはベーさんの家から100メートル離れた家に住む26歳の女性であるが、同様に、2人の父親を持つ3人の子を産んだ。彼女は苦笑いしながら次々生まれた子供たちについて説明した。「長男は6歳になるホー・ヴァン・ギー、父親はNGという行商人だと思います。彼は独身だと自称していました。次男は3歳になるリン。3番目の長女はホー・ティ・リー。この子の父親はフニン県タムヴィン社のTという行商人です」。

こうした女性たちが住む河岸はナムチャミ県チャマイ社タクポー集落の西南まで続く。オンバン集落のファム・ティ・レーさんは26歳で、同様に3人の子持ちである。その向かいの丘にあるオンフオン集落のホー・ティ・シーさんは25歳でやはり3人の子持ちである。あるカゾン族の青年が、憤懣やるかたない表情で、チャマイ社第1村、第2村、第3村の集落やチャタプ社(茶集社)に住む同じカゾン族の女性たちの名を列挙した。ディン・ティ・X、ホー・ティ・M、ホー・ティ・U、ホー・ティ・TH、ホー・ティ・V、ホー・ティ・T、アラン・B、ディン・ティ・L、 グエン・ティ・L...。みなこうした境遇にあり、彼は彼女たちの気持ちはとてもよくわかると話した。

アーヴォン水力発電所建設事業により急変した少数民族の暮らし

ドンジャン県マコーイ社ドーレン村に住むアラン・ティ・ボオさんは、毎晩のようにアーヴォン川の河岸に行き、息子アゾット・クアの行く末を思って一人泣く。
カトゥー族社会は父系社会であるが、クアはパトゥイなので、結婚するときには婿養子に入るしかない。ボオさんは20歳のとき、タインホア省出身の建設労働者Tが音信を絶って以来、夫のない身となった。彼との幾夜の逢瀬の後、ボオさんは身ごもった。

アーヴォン水力発電所建設事業が起工されると、マコーイ社の暮らしは豹変した。
幾人ものカトゥー族の女性たちが、平地から来たキン族男性に騙されて身ごもった。身ごもると祈祷師を呼び、鶏をお供えにしてヤーン(神々)の許しを請う。アラン・ティ・チョープ、ブラオ・ティ・ビア(アソー村)、アラン・ティ・ブン(トルグン村)、アラン・ティ・シエク(アゼン村)など、20数名の女性たちが同様な境遇にある。夜になると彼女たちはバーボオイクと呼ばれるもの悲しい民謡を歌い、わが身を嘆く。

タクゴ村のトゥイ・ホンさんの妹であるホー・ティ・ハーさんも24歳で二人の子持ちである。彼女は子供たちを養うために山に薬草取りに行く途中、男性に乱暴される被害にあった。平穏だった彼女の生活は平地から来た男性たちによって一変した。4年前、省道ヌオクラ・チャゾン線のブルドーザー運転手のCという男性がハーさんと契りを交わした。ハーさんがみごもり、子を産み、その子がまだ数ヶ月であるときに、Cは突然家を出てダナン市に去り、二度と戻ることは無かった。その後、ハーさんはバクチャミ県から来たNGという男性と契りを交わした。しかし、ハーさんが妊娠を知らせると、NGは腕時計一つを持ってきて償いだと言った。ハーさんが受け取りを拒否すると、NGは子供が生まれるのを待つことなく風のように去った。

立て続けに起きた悲しい事件に、父親であるホー・ヴァン・バン氏は、パトゥイとなった孫たちを撫でながら語った。「子供たちを養うために、わが娘だけでなく、多くの女性たちが森に薬草取りに入らなければならない。誰が、この娘たちを助けてくれるだろうか」。

樹木が生長するように、この「身元不明」の子供たちもいずれ大きくなるのは自明のことである。しかし、これらの女性たちは誰にも保護されないままでいる。
ナムチャミ県人民委員会主席ホー・ヴァン・ニー氏は「地元自治体が事態を正確に把握できていなかった」と認める。「今では、どの会議でもわたしは繰り返し警告している。大量の労働者が集中する大規模工事現場では、地元自治体と公安当局は戸籍をきっちり管理する必要がある。女性たちの一生を台無しにする結婚詐欺をこれ以上見過ごしてはならない」。

しかし、実際には、自治体といえども常に干渉できるわけではない。結婚詐欺は、元来極めてプライベートな話から始まって、深刻な社会問題に発展したのである。
大規模工事現場における地元女性に対する教育宣伝活動が必要であり、特に地元婦人会の役割が極めて重要だ。このような状態は、クアンナム省ではアーヴォン、ソンチャイン2水力発電所建設事業のような大規模建設工事においては、事前によく研究され、予防されなければならない。

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