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メコン河開発メールニュース 2006年12月24日
メコン河流域国では、中国の援助や投資が拡大し、それに伴う環境・社会影響が懸念されています。そうした問題の解決に向けた中国国内での初めてのワークショップが今月初め北京で開催されました。
以下は、このワークショップに主催者の一員として関わってきたメコン・ウォッチの大澤香織による解説と中国語記事の翻訳です。
メコン・ウォッチは2006年12月2日、3日、北京にて自然之友、緑色流域、オクスファム香港ら中国で活発に活動するNGOと共同で『中国の環境、金融、協調社会』と題するワークショップを催しました。
ワークショップの目的は、世界銀行等の多国間金融機関、輸出信用機関、民間銀行の環境社会配慮政策とそれぞれの制定、改善に市民社会がどのような役割を果たしたかなどについて中国のNGOに紹介することで、将来的にアフリカ諸国やメコン流域諸国など途上国で顕著になりつつある中国の金融機関が関わる開発の現地での負の環境・社会影響と、これら金融機関の政策改善について中国のNGOの関心と働きかけを促進することにありました。
ワークショップにはおよそ20余りの現地のNGO、メディア、研究者などが参加し、今後の中国でのNGOの役割について討論を行いました。世界銀行の環境社会配慮専門家、日本の国際協力銀行(JBIC)及びみずほコーポレート銀行らにそれぞれの環境社会配慮政策について紹介して頂き、またメコン・ウォッチやアメリカのNGOが市民社会からの働きかけの経験を紹介しました。
以下はワークショップを取材した中国のメディアによる報道です。
公益時報、2006年12月5日
「グローバル化する経済には、グローバルな道徳システムが必要だ」。
Environmental Defenseの国際プロジェクトを担当する弁護士のブルース・リッチ氏は、12月2日、『中国金融、環境と協調社会』ワークショップの中でこう述べた。
「ますます多くの人々が、出資者や銀行は事業に投資する際、その資金が支える事業が引き起こす環境・社会面での負の影響について責任を負うべきであると意識するようになってきている」。
グローバル経済の過程において、中国は対外投資大国になりつつある。データによると、2005年中国輸出入銀行と、日本国際協力銀行、および米国輸出入銀行は世界3大輸出信用機関である。
「2010年には、中国はおそらく世界で最大の輸出、投資額の資金源となり、他の機関を大きくしのぐ可能性がある」。
ある金融専門家の予言である。どのように金融と銀行業の環境社会政策制定を促進し、中国国内の金融体制の歩調を国際金融体制とあわせるのかは、現在われわれの直面する重要な問題である。
「われわれがプロジェクトに資金提供をする際には、事業が環境を破壊しないようにだけではなく、環境にとって利益になるようにするところまで見なければならない」。世界銀行北京事務所の環境専門家、ワン・ペイシェン氏は述べる。
「われわれ世銀は、福州南台島でこのような政策を採用した」。
現在、持続可能な発展は金融銀行業の主要な目的として採用され、国際金融及び銀行業の一大トレンドとなっている。これは一方で、銀行業と企業の苦労と突破の努力によるものだが、もう一方で、これは市民社会による積極的な努力と働きかけを必要とする。
現在、国際的には40行もの資金的に潤沢で業務範囲が100カ国以上にまたがる民間銀行が、銀行業の「持続可能性」に関する原則---『赤道原則』に署名しており、これらはNGOが提唱した「金融機関と持続可能性に関するCollevecchio 宣言」に基づいている。
2006年12月12日
公益時報、宋楊記者
ある環境破壊事件がおきると、人々は直接の加害者――企業に注目する。だが、企業の後ろにあるさらに巨大な力はしばしば無視される。それは企業に投資する金融機関―銀行である。銀行が企業に資金提供をして初めて企業は事業を実施できる。銀行は、企業に事業を実施する資金を提供しているのだから、銀行は企業の支持者であり、その企業の事業を認めている、といえるだろう。
2000年、アメリカの Hunt 石油会社と韓国のSK 企業が16億ドルを投資しペルーでCamisea ガス開発事業を行った。この事業は Urubamba 谷での探査、化石燃料の採掘を含み、Urubamba 谷からペルー海岸まで2本の天然ガス輸送パイプラインを建設し、リマ海岸付近の2つの天然ガス加工工場から輸出する。
事業の75%の天然ガスの採掘地点は現代社会とは隔絶した先住民族の暮らす地域に位置し、Camisea 事業は運行を始めて18ヶ月のあいだにパイプラインが4回破裂し、少なくとも3回の重大な漏洩を起こした。2004年5月にはペルーの衛生局伝染病学事務所が、22の先住民族地区や多くの農業区が魚類の消失、山崩れ、伝染病、性病の発生など直接、間接的な影響を受けたとするレポートを発表した。
実施主体であるCamiseaガス事業の2つの財団が市民社会からの批判を受けただけでなく、この事業を資金的に援助したとしてシティ・バンクもまた、国際熱帯雨林行動ネットワークなど多くの環境NGOから強い批判を浴びた。
もし投資の前に、銀行がこの事業に対する環境社会影響評価を行い、事業の実施が環境や人々の生存権に対して引き起こす可能性のある各種の負の影響を調査していれば、銀行はこの事業に対して資金的な支持を断ることもできた。こうした情況になれば、企業はこの事業を諦めるか、あるいは事業は改善され、負の影響を減らすことができた。
シティ・バンクは、ペルーのCamisea 天然ガス事業のほか、アメリカのカルフォルニア州水源林マホガニー伐採事業、エクアドル・パイプライン事業、パプアニューギニアのGobe 油田などで森林破壊、コミュニティの破壊、さらには地球温暖化を加速させるなど、自らが支持した多くの事業が環境に破壊的な影響と長期的な問題を引き起こしていると環境NGOから指摘された。
環境NGOとの数年に及ぶやり取りの後、2004年1月、シティバンク・グループは自ら全面的な環境保護政策を採用し、新しい投資スタンダードをもうけることで投資が危機に瀕しているエコロジーの破壊を引き起こさないようにすることを表明した。
2004年、2005年にシティバンクは職員や業務パートナーに対して数回のキャパシティ・ビルディングのトレーニングを行い、実施ガイドラインを制定して、不断に銀行の環境社会配慮政策を改善し続けている。2005年にはシティ・バンクは21の潜在的な影響が顕著な事業について、わずか3事業しか批准せず、また赤道原則と環境社会リスク管理政策を厳格に執行した。
「銀行の環境社会影響ガイドライン制定は、多国籍開発銀行から始まった」。
Environmental Defenseの国際プロジェクト・マネージャーのブルース・リッチ
氏は言う。1980年代、世界銀行は大型事業の環境社会影響評価制度の実施を始め、その後、多くの多国籍銀行が類似の政策の実施を始めた。
2003年6月4日、世界十大民間銀行は『赤道原則』の実施を宣言した。赤道原則 (The Equator Principles、EPs)はこれらの銀行による世界銀行の政策に基づく政策及びガイドラインで、プロジェクト・ファイナンスに関わる社会環境問題を管理するための原則が定めてある。シティ・バンクもその後、『赤道原則』に署名した。
「EPsバンク」は世界的に資本コストが5000万米ドルを超える事業借款に対して赤道原則を実行する銀行で、鉱山開発、石油と天然ガス及び、林業に関わる事業を含む。
「銀行は必ず、この原則と一致する内部の政策とプロセスをつくり、条件にあてはまるプロジェクト・ファイナンスを行う際には事業者に対して銀行がプロジェクト実施において社会責任と合理的な環境マネジメントに関する総合的なプロセスをとることを保証しなければならない。日本のみずほ銀行グローバル環境室主任の小田原氏は『赤道原則』について、銀行内部にかならず整合性のある制度とプロセスをつくるべきであると語った。みずほ銀行は2003年12月に『赤道原則』に署名した。
同時に借入人は必ず銀行に対してその事業が現地の法律や世界銀行など関連機関の汚染防止やミティゲーションのガイドラインに沿ったものであることを証明しなければならない。新興市場の事業については、借入人はさらに環境評価のなかで関連機関のセーフガード政策を考慮しなければならない。セーフガード政策とは、自然生息地、先住民族、非自発的移民、ダムの安全性、林業及び文化財産などの問題についてガイドラインを提供している。
2006年11月までに、世界中で43の銀行が赤道原則に署名しており、世界100余りの国々で、プロジェクト・ファイナンスの総額は全世界のプロジェクト・ファイナンスの80%を占めている。
「近代的な金融体制を構築しつつある中国の銀行については、経済制度を改革すると同時に、銀行の企業社会責任(CSR)を実行してはじめて国際金融体制と歩みをともにすることができる。また環境と社会に関する政策を制定することは、まちがいなく企業のCSRにとって重要である。」12月2日、「中国金融、環境と協調社会」のワークショップにおいて、会の主催者はいかに金融と銀行業の環境社会政策制定を促進することができるかについて、研究交流会を行った。
国際的な経験からも分かるように、市民社会とNGOの参加は、金融銀行業が環境社会政策を制定する過程で極めて重要であり、積極的な役割を果たしている。世界銀行、アジア開発銀行などの環境社会セーフガード政策の政策と改訂は、すべてNGOによる働きかけが積極的な役割を担い、また『赤道原則』もNGOが提唱した「金融機関と持続可能性に関わるCollevecchio
宣言」から多大な利益を得てい
る。
また現在、中国のNGOも、まさに中国の銀行に対してプロジェクト・ファイナンスにおける環境社会影響評価政策を打ち立てようと、積極的に活動を始めている。
中国のNGOが政府の支持のもと、環境に関わる政策決定の場面でますます重要な影響を果たしていることは疑う余地はない。しかし、どのように参加と環境に関わる政策決定を金融の領域にまで広げることができるだろうか?どのように金融や銀行業界が環境保護業界と力を合わせ、中国の銀行のなかに環境と社会に関わるセーフガード政策を制定することができるのかについては、中国のNGOが新たに考えはじめたばかりの問題である。