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メコン下流本流ダム>(3)ラオス・サイヤブリ&パクレイダム

メコン河開発メールニュース2007年11月29日

メコン河下流の本流ダム計画が、カンボジアとラオスにおいて、民間投資によって急ピッチで進められています。2007年9月12日から14日まで、カンボジア中部のクラチエ州で、メコン河流域のダム問題に関わってきたNGOが集まって、情報分析と今後の活動戦略などを話し合いました。その中で、自然環境や社会面での深刻な悪影響にもかかわらず、建設の一歩手前まで来ている本流ダム計画があることに参加者の間で強い懸念が共有されました。

このクラチエでの『メコン河下流本流ダムに関する市民会議』に出席したメコン・ウォッチの大澤香織が、会議で共有された情報を翻訳してお伝えしています。

第3回は、「ラオスのサイヤブリダムとパクレイダム」です。

メコン河下流本流ダム(3)ラオス・サイヤブリ&パクレイダム

2007年9月12〜14日
メコン河下流本流ダムに関する市民会議(於:カンボジア・クラチエ)

2007年2月、ラオス国家エネルギー委員会が「ラオスにおける電力開発計画」と呼ばれるリストを発表した。このリストは現存、または計画中の発電事業の現状をリスト化したもので、大部分が水力発電計画である〔1〕。リストでは合計70の発電計画が挙げられているが、「not open to development」のカテゴリーに分けらたのはわずか7件で、そのほとんどがメコン河本流(下流)に位置する発電計画である。このリストが発表された数ヶ月後、ラオス政府は中国と対の出資者と2つの北ラオスに位置する本流ダムに関する実施可能性(F/S)調査を行う契約に合意した。それぞれ、サイヤブリダムとパクレイダムである。

2007年5月4日、タイの建設会社Ch.Karnchang Public Company Ltdがラオス政府とサイヤブリ・ダムの調査を行うというFS調査に契約を結んだ。この会社によると、事業は約17億米ドルかかると見られ、1260MWの電力がタイに輸出される〔2〕。F/S調査は2009年までの完成が見込まれ、2011年には建設が始まる予定だ。

2007年6月、ラオス政府は2つの中国企業―Sinohydro LtdとChina NationalElectronics Export Import Company(CNEIC)―とパクレイダムの調査に関して契約を結んだ。パクレイダムは、1994年の暫定メコン委員会事務局の調査によるとサイヤブリダムの約110km下流に位置するという。計画されている1320MWのパクレイダムは、報道によれば17億米ドルかかり、電力はラオス国内の需要を満たしタイへの輸出にも使用される〔3〕。

潜在的な影響

2つの事業についてはどちらもほとんど情報がないものの、1994年の暫定メコン委員会事務局の調査では、サイヤブリダムとパクレイダムはそれぞれ1720人と1万1780人を移転させる。両方の事業は北タイとラオスの6つのメコン河本流流し込み式(run-of-the-river)連続ダムの一部であり、1994年に暫定メコン委員会事務局が発表した「メコン本流の流し込み式水力発電所調査」の中で評価が行われた。同じ年に出された漁業調査では、各事業の詳細な影響についての評価に関してはデータが不足していると指摘している〔4〕。

サイヤブリダムとパクレイダムの下流への影響としては、漁業と生態系に影響が出るであろうということは、すでに中国で建設された漫湾と大朝山という2つのダム――両者ともにメコン河委員会によってサイヤブリやパクレイと同じ流し込み式ダムとカテゴリー分けされている――による影響が北タイで出ていることからも明らかであろう〔5〕。漫湾ダムと大朝山のダム建設は、水文の変化、堆積量、漁業と重要な魚の生息地の破壊、河岸の侵食を引き起こし、沿岸コミュニティの生計に深刻な打撃を与えた〔6〕。

サイヤブリとパクレイの2つのダムの建設が予定されている部分のメコン河は、生態学的には下流の氾濫原とは区別される。「氾濫原が少なく、急な峡谷を通り過ぎる典型的な峡谷の川」だと言われている。この区間で、魚は主にサイヤブリ―ルアンパバーン間の川の中の深いくぼ地(deep pool)から上流の産卵地に移動する〔7〕。この動きは魚の個体数を維持するのに必要不可欠であり、サイヤブリとパクレイのダムが建設されれば阻害されるだろう。

ダムによる魚の回遊への影響は、回遊路を阻害するだけではない。同じくらい懸念されているのは、水文の変化であり、環境への影響と、重要な生息地―乾季の間、魚にとって逃げ場を提供するdeep poolなど―への影響である。「ラオスのサイヤブリ県の漁民はMuang Liap村近くのdeep poolの存在を報告している。これはメコン大ナマズの乾季の生息地になっていると信じられている。ボーケーオ県の漁民もまた、彼らが捕獲する大ナマズはサイヤブリから来たものだと考えている」〔8〕。

メコン河委員会(MRC)漁業プログラムから出版されたメコン河流域のdeep poolに関する既存の情報をレビューした論文のなかで、ダムの建設と操業によってdeep poolが埋まってしまうことが懸念されている。こうしたことはすでにヤリ滝ダムを持つセサン川やトゥンヒンブンダムを持つトゥン川などメコン河の支流で起きていることである〔9〕。この論文は、セサン川やトゥン川沿いのいくつかの地域では「deep pool生息地とそれが支える魚はほとんど消失している」と書いている。〔10〕

MRCの漁業プログラムでは、水力発電、灌漑、洪水抑制計画などの水上構造物は「将来的なメコン河の魚と漁業に対する相乗的な脅威となっている・・〔11〕
これが世界中の川での漁業にとっての主な脅威であることは疑いの余地がない」と警告している。サイヤブリとパクレイのメコン河でのダム建設については、計画が進行中のドンサホンやサンボーダムなど他のダムと比べてあまり調査が行われていない。メコン河流域におけるダム建設の経験は、どれも、事業が漁業と水産資源に、そしてそれらに食料保障と収入を頼っているコミュニティにとって負の影響を与えるであろうと明確に示している。

脚注:
〔1〕http://www.poweringprogress.org/energy_sector/pdf_files/Electric_Power_Plants_in_Laos_as_of_Fe_2007.pdf
〔2〕http://www.ch-karnchang.co.th/news_activities_detail_en.php?nid=135
〔3〕中国がサイヤブリ水力発電の調査へ、ビエンチャン・タイムズ、2007年6月13日
〔4〕Mark.T Hill and Susan A.Hill,1994, Fisheries Ecology andHydropower in the Mekong River:An Evaluation of Run-of iver:An Evaluation of Run-of-the River Projects. Mekong Secretariat,Bengkok,p.53
〔5〕MRC Hydropower Development Strategy 2001,p.41
〔6〕“The Mekong’s Changing Currency”, Watershed Vol.11
No.2,pp.12-25、SEARIN.2004.Downstream Impacts of Hydropower and Dvelopment of an International River: A Case Study of Lancang-Mekong;Lazarus, K,et al.2006, An Uncertain Future:Biodiversity and Livelihoods along the Mekong River in Northern Lao PDR, IUCN, Bangkok, Thailand and Gland, Switzerland,49ppなど参照
〔7〕Poulsen, Anders, et al.2002. Deep pools as dry season fish habitats in the Mekong Basin, MRC Technical Paper No4. Mekong River Commission, Phnom Penh, p.3
〔8〕Ibid,p.3
〔9〕Ibid,p.11
〔10〕Ibid.
〔11〕Poulsen,A.F.et al.2004.Distribution and Ecology of Some Important Riverine Fish Species of the Mekong River Basin.MRC Techinical Paper No.10,p19

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