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メコン河開発メールニュース2008年1月21日
アジア開発銀行(ADB)が融資したカンボジアの道路改修事業で立ち退きにあった住民63世帯が、2007年7月、悪化した生活の回復などを求めてADBのアカウンタビリティー・メカニズムに問題解決を要請する書簡を提出しました。
「立ち退き住民の生活を悪化させてはならない」と自ら謳った住民移転政策を、ADBがないがしろにした責任が問われています。
住民の申立てを受けたADBのSpecial Project Facilitator(SPF)は、2007年9月、カンボジア現地で住民代表と会見し、申立てが本格的調査に進む要件を満たしているかを審査しました。そして9月19日、SPFは住民の申立てが適格であるとの決定を下しました。
以下は、SPFの審査に同行した体験にもとづく報告です。
2008年1月21日
ADBのアカウンタビリティー・メカニズムには、住民が直面する問題を解決することを目的としたSpecial Project Facilitator(SPF)と ADBが自らの業務政策を遵守したかを審査するCompliance Review Panel(遵守審査パネル、CRP)の二つの部局があり、被害住民はまずSPFに異議を申立てて問題解決の道を探ります。それぞれの部署は一定の手続きにしたがって住民の申立てに対応しますが、その第一ステップは申立てが本格的な調査に進むための要件を満たしているかどうかの審査です。
63世帯の住民からの申立てを受けたSPFのロバート・メイ氏は2007年8月にカンボジアを訪問し、29日・31日と現地で住民を支えるカンボジアのNGO、Conservation and Development on Cambodia(CDCam)と会合・打合せを行いました。 その上で9月1日、首都プノンペンから車で約2時間半離れた、プレイヴェン州のストゥンスロット(Steung Slot)移転村を訪問しました。63世帯の多くがこの移転村に住んでいます。ここでメイ氏は、異議申立てに署名した住民代表のシン・チンさんとパン・ヴァンナさんの二名から聞き取りを行いました。チンさんは2007年5月に開催されたADB京都総会の折に来日して、ADBの黒田東彦総裁に対して仲間の窮状と問題解決を訴えた女性です。
聞き取りを終えたメイ氏は数日後にフィリピン・マニラのADB本部に戻りましたが、9月19日、住民の申立てが本格的調査のための要件を満たしているとの決定を下しました。63世帯の住民の要請がまずは「適格である」と判断されたわけです。
私たちは住民やCDCamとともに、SPFの決定を歓迎します。しかしながら、同行していてSPFの持つ課題も何点か見えてきました。まず、SPFは現地訪問という絶好の機会を十分に活用しませんでした。実は63世帯以外に、依然として十分な補償をもらえていないと訴える住民が170世帯あまりいます。これらの人びとはさまざまな理由で正式に異議を申立てるには至っていません。しかしCDCamが、「SPFはせっかく現地まで来ているのだから、他の住民のところにも足を伸ばして事情を聞くべきだ」と提案しました。事前に資料まで提出しておいたのですが、SPFはこの提案を受け入れようとしませんでした。同様に、SPFの現地訪問は2名の住民代表に限られていました。せっかく移転村を訪ねて、他の住民もその場にいるのに、話を聞こうとしなかったのです。住民の中にはSPFが自分たちの話に直接耳を傾けてくれるものと期待した人も多かったに違いありません。しかし、SPFは「今回は要件審査だから」と言うばかりで、他の住民たちのところは素通りしてプノンペンに戻ってきてしまいました。
アカウンタビリティー・メカニズムは、ADBの開発プロジェクトによって被害を被った住民が正式に異議を申立てられるユニークな制度で、なかでもSPFは住民が直面する問題を解決する目的で新設された部局です。問題解決を目指す以上、問題が生じている現地の状況をできるだけ的確に把握することが求められます。SPFにはせっかくの現地訪問の機会をもっと有効に活用してもらいたかったと思います。
(文責 土井利幸/メコン・ウォッチ)
カンボジアの首都プノンペンとベトナム南部の商業都市ホーチミン市を結ぶ幹線道路のうち、メコン河との交差地点から東方ベトナム国境までの105.5キロ区間を整備する開発事業で、1998年にアジア開発銀行(ADB)が4,000万ドルの融資を決定しました。道路の改修拡幅工事にともない約1,200世帯(6,000人)の沿線住民が立ち退きなどの対象となりましたが、当初から土地や家屋への補償がほとんど支給されないなど深刻な問題が発生しました。カンボジアのNGOの要請でADBは2004年にようやく実態調査を実施し、カンボジア政府に問題の解決を働きかけました。しかし、その後も被害住民から、「移転先で仕事がうまくいかず収入が激減した」、「補償の遅れでかさんだ借金が返せない」など窮状を訴える声が絶えず、2007年7月には二つの被害住民グループ(63世帯)がADBのアカウンタビリティー・メカニズムに正式な異議申立て書を提出しました。なお、同じ幹線道路のプノンペン−メコン河渡河地点間も日本政府の無償資金協力によって改修が進んでいます。
(カンボジア国道1号線改修事業(ADB融資区間)のサイトを合わせてご覧下さい。)