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メコン下流本流ダム>(4)ラオス・ドンサホン・ダム

メコン河開発メールニュース2008年2月17日

メコン河下流の本流ダム計画が、カンボジアとラオスにおいて、民間投資によって急ピッチで進められています。2007年9月にカンボジア中部のクラチエ州で、メコン河流域のダム問題に関わってきたNGOが集まって情報分析と今後の活動戦略などを話し合いました。その中で自然環境や社会面での深刻な悪影響にもかかわらず、建設の一歩手前まで来ている本流ダム計画があることに参加者の間で強い懸念が共有されました。

このクラチエでの『メコン河下流本流ダムに関する市民会議』で共有された情報を翻訳してお伝えしています。

発行が遅れましたが最終回の第4回は、事業段階がもっとも進んでいる「ラオス南部・コーンの滝、ドンサホン・ダム」についてです。

メコン河下流本流ダム(4)ラオス南部・コーンの滝、ドンサホン・ダム

2007年9月12〜14日
メコン河下流本流ダムに関する市民会議(於:カンボジア・クラチエ)

ラオス南部のコーンの滝付近では遅くとも1994年頃には大型ダム建設の計画が存在した。現在、メコン河下流本流で計画されているダムのなかでもドンサホンはもっとも事業段階が進んでいるダムである。もし建設されれば、ドンサホン・ダムはメコン河下流における最初の本流ダムとなる。

2006年3月23日、Mega First Corporation (MFCB)というマレーシアの企業は、ドンサホン・ダムに関してラオス政府との間で18ヶ月間の実施可能性調査を行う契約を結んだと発表した。現地の報道によると、事業の関連データはすでに集められており、建設予定地付近のドン・サダム村の村人達は、少なくとも14世帯が移転をする必要があると知らされたという。より最近では、Australian Power and Water社 (APW)(注1)が行った環境影響評価報告書の最終ドラフトがラオス政府に提出され、現在レビュー中であると言われている。

MFCBによると、この事業は2010年までに完成する計画で、事業費は約3億ドル、240MWを発電し、カンボジア、タイ、ベトナムなどへの売電が見込まれている。
技術的な詳細は公表されていないものの、事業はおそらく過去にこの場所で計画されていた高さ26メートルのダムの4倍の発電能力を備える見通しだ(注2)。

潜在的な影響

コーンの滝はメコン河下流における唯一の主要な滝であり、メコンにおける漁業にとっても重要な地域である。1994年に暫定メコン委員会事務局が発表したメコン河本流ダムによる漁業への影響についての評価は、コーンの滝について「生態学的にユニークな地域であり、メコン河下流の縮図である」と述べ、「こうした自然豊かな貴重な場所は、開発事業から守られるためのあらゆる努力が払われるべきだ」と指摘している(注3)。1994年以降、コーンの滝についての数多の科学的調査によれば、大規模な魚の回遊がコーンの滝を通過していることが記録されており、コーンの滝が「流域の魚の回遊にとっていかに重要な通過点であるのか」を示している(注4)。

ドンサホン・ダムはカンボジアとの国境から上流に1キロメートル以内に位置し、ラオスではカンボジアから回遊してきた魚が通過するHoo Sahongとして知られている。結果として、ドンサホン・ダムはカンボジアからベトナムやタイ、ラオスへの唯一の魚の回遊路を塞ぎ、ひいてはこの4カ国の漁業に頼る生活様式を破壊することにつながる。実際、メコン河委員会による1996年のニュースレターは「Hoo Sahongを堰止めることはラオスのメコン河における漁業に壊滅的打撃を与える可能性がある」と指摘している(注5)。

2007年5月には、30人以上の科学者が流域政府に対する書簡において、計画されているダムによる漁業への懸念を表明した。このなかでは「現在、提案されている場所は魚の回遊が集中し、世界最大の淡水漁業を支える場所であり、おそらく240MWのダム位置としては最悪の場所である」と述べられている。

2007年6月にWorld Fish Centerから出された科学ブリーフィングのなかでは、メコン河の捕獲漁業は、地方における生計や食糧安全にとって意味があるだけでなく、メコン流域国の経済(年間およそ20億ドルの価値と推定される)にとっても重要である、と指摘されている(注6)。World Fish Centerのブリーフィングはさらに、魚の回遊の遮断に関するそれまでの研究を引用し、 「さまざまな試みに関わらず、この地域におけるダムの漁業への影響を減少させたという効果的な例はない」と強調している(注7)。

さらに2007年4月にNGOがラオス政府に送ったレターのなかでは、ダムの漁業への破壊的な影響に加えて、ダムはラオスで唯一の通年、イラワジイルカが生息する地点のすぐ上流に位置しており、ラオス・カンボジア国境におけるイルカの絶滅と、それらに頼る観光業の破壊を招くだろうと指摘している。

 

【注1】 APWの前身はHEC Pty Ltd,はかつてラオス南部のセカマン1ダムに関わっていた("Xekaman 1 Hydroelectric dam", Watershed Vol.3 No.2参照) APWについての情報は http://www.auspw.com.au/参照。
【注2】 Munuseell and Lahmeyer International.2004, Power System development Plan for Lao PDR, Final report, Volume C: project Catalogue.
【注3】 Mark.T Hill and Susan A.Hill, 1994, Fisheries Ecology and Hydropower in the Mekong River: An Evaluation of Run-of-the -River
Projects. Mekong Secretariat, Bangkok, p.90.
【注4】 World Fish Center, The Don Sahong Dam and Mekong Fisheries, A sceience brief, June 2007, p.2.
【注5】 Baird,I.G.1996 Khone Falls fishers, Catch and Culture(MRCnewsletter), Vol.2 No.2 November 1996.
【注6】 前掲書注4, p.2。
注7 前掲書注4, p.3。

(翻訳 大澤香織/メコン・ウォッチ)

 

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