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メコン河開発メールニュース2008年8月20日
雨季をむかえたメコン河は、観測地点によって「30年来」とも「100年来」とも言われる歴史的増水を記録し、各地で洪水による被害が出はじめています。
タイの英字紙『ネーション』(8月14日付)は、8月13日、タイ北部メコン河沿いのチェンライ県チェンセン郡で、メコン河の水位が10.49メートルに達したと報じました。ところによっては2メートルもの浸水で、家屋や農地が水没しています。ラオスの英字紙『ビエンチャンタイムズ』(8月15日付)も、メコン河畔の首都ビエンチャンで水位が13.63メートルに達し、これは危険水位を1.13メートルも超えているとのことです。同じく、ラオスの古都ルアンパバーンでも洪水による停電が発生し、住民が高台に避難する一方、地すべりによって国道が寸断されるなどの被害が出ている模様です。
さて、今回の洪水の原因ですが、雨季特有の断続的な豪雨に加えて、メコン河上流の中国国内に建設されたダムの影響を指摘する声が高まっています。8月14日、「TVタイ」のニュース番組でも、チェンライ県で環境保全活動を行っている「チェンコンを保全する会」のメンバーの声として、「中国のダムからの放水と船舶の航行を容易にするための早瀬の爆破が今回の洪水の一因である」との意見が紹介されました。チェンコンを保全する会によれば、地元ではこれまで乾季に水不足で悩まされることはあっても、これほどの大洪水を体験することはなく、今年の洪水の異常さが際立っています。
一方、メコン河流域下流4ヶ国(ラオス、タイ、カンボジア、ベトナム)を正式加盟国とし、メコン河の共同管理・開発を使命に掲げるメコン河委員会(MRC)は、8月15日、今回の洪水に関する声明をHP上に掲載しました。この声明(原文英語)でMRCは、「今回の洪水の原因は、中国で操業中のダムの放水ではない」と結論付けています。
http://www.mrcmekong.org/MRC_news/press08/Flood-situation150808.htm
このMRCの声明に対して、チェンコンを保全する会をはじめとするタイの環境NGOが反論の声明(原文英語)を発表しました。この声明は、MRCが非加盟国の中国の立場を代弁し、加盟国である下流4ヶ国に住む人びとの利益を損なっている点に反発し、中国国内、とりわけダム近辺の水位の情報に基づいた洪水警報を発するようMRCに要求しています。以下では、この声明全文を日本語訳で紹介します。声明英語原文は、
http://www.terraper.org/what_new_view.php?id=42
タイ語版(PDF)は、
http://www.terraper.org/file_upload/FINAL_MekongFlood_THAI_Statement_18%20August.pdf
で、それぞれ閲覧可能です。
なお、MRCは1995年に設立された国際機関で、事務局は現在ラオスのビエンチャンに置かれています。2007年の会計報告書によれば、日本政府は83.67万米ドルを資金援助し、洪水予報・警告を発する「洪水管理緩和プログラム」にも日本政府が資金を提供しています。
また、声明が言及している中国国内の3基のダムについては、メコン・ウォッチのメコン河上流(瀾滄江)連続ダムのサイトをご覧下さい。
2008年8月16日
先週、メコン河に発生した大洪水は流域の住民に甚大な被害をもたらし、惨状はタイのチェンライ県チェンセン郡およびチェンコン郡からラオスのビエンチャン市やタイのノンカイ・ナコンパノム両県に広がっている。私たち「メコン河タイ民衆ネットワーク」は、この危機的現状を監視してきた団体として、メコン河の管理を促進する立場にあるメコン河委員会(MRC)に対して、以下の質問と要求を投げかけたい。
MRCの矛盾した役割
昨日(8月15日)、MRCは、メコン河に発生した大洪水について声明を発表し、声明の中で、メコン河流域北部各所に平年を上回る降水があり、これが熱帯低気圧「カンムリ」の影響で拡大長期化し、北部での大規模な洪水につながったとしている。またMRCは、「ビエンチャンに達した水流の50%あまりは中国からのものである」と指摘している。ところがMRCは、最終的に「現在の(メコン河の)水位は、すべて水文・気象上の条件の結果で、現在稼動している中国のダムの放水によって起こったものではない。中国のダムの貯水量はメコン河の洪水を左右するほどの規模ではない」と所見を述べている。
MRCは声明で、ビエンチャンに達した水流にしか言及せず、この水流の50%あまりが中国から来たとしているが、これでは十分な情報を提供していることにならない。MRCは、チェンセンを襲った大洪水とそれが中国からの水流である点への言及を避けている。この水流は天然の降雨であるとともに中国の3基のダムによる放水の可能性がある。
中国の3基のダムは総貯水量30億4300万立方メートルで、漫湾ダムが9億2000万立方メートル、大朝山ダムと景洪ダムはそれぞれ8億9000万立方メートル、12億3300万立方メートルの貯水量である。
完全な情報の提供を避けた一方で、MRCは中国・景洪−タイ・チェンセン間に警報システムがあるとしている。景洪は中国国内でタイに最も近いダムが存在する地点である。MRCによれば、18の水位観測点が連携して情報を交換し、「各観測点から水流が達する時間は、景洪−チェンセンで21時間、チェンセン−ルアンパバーン17時間、ルアンパバーン−ビエンチャン/ノンカイ24時間で、これにより短期的な洪水予測が可能となり、MRCは関係諸機関に異常増水の予報を発することができる」。
MRCの声明は矛盾しており、私たちはMRCが中国のダムの代弁者になっている点に納得できない。むしろMRCは中国からの最新情報を分析して、メコン河下流の政府や住民に大洪水の可能性を警告すべきである。MRCはメコン河の状態を監視してきたであろうし、観測地点からの情報もすべて持ち合わせているはずだ。中国からの水流がメコン河下流域に洪水をもたらすことも十分予見できたわけである。ところがMRCは、被害を防ぐべくあらゆる手段を講じて加盟国の人びとに警報を発しようとはしなかった。この点は看過できない。一般市民への情報提供はウェブサイトを通したもののみである。そして事態が悪化するや声明を発して、中国と自らの弁護をしはじめた。
中国のダムと警報システムの神話
中国は一連のメコン河本流ダム建設計画を発表して以来、最初の漫湾ダムが1996年に完成するまで、上流にダムができることで乾季にはより多くの水がもたらされ、雨季には洪水が防止できると主張してきた。しかし、今回発生した洪水で、水流はタイやラオスのメコン河支流ではなく、本流からやって来ている点が明らかになった。この考察は、8月13日付けの『上海日報』の記事内容とも符号する。すなわち、雲南省では、季節的豪雨で11ヶ村に住む125万人の住民が被害に遭い、死者も40名にのぼった。実際、漫湾ダムの完成以来、雨季にメコン河の水位が低下したことはない。ダム建設前と比べて、逆に水位は上昇している。
私たちは、中国国内の水流がメコン河下流域、とりわけタイのチェンライ県の水流や水文に大きく影響していると確信する。一方で、MRC・中国・下流国間の洪水警報システムは機能せず、流域に住む人びとを守りえていない。
MRCは現下の大洪水に関連する中国国内の情報を開示すべきだ。中国からの水量が下流域のどの地点にどれほどの影響をおよぼすのか、とりわけ漫湾・大朝山・景洪で観測した水位を開示すべきである。公明正大なやり方こそがメコン下流域の洪水を防止する。中国が効果的な警報システムやMRCとの協力体制を整えているのであれば、MRCは下流域に住む私たちにそれを実証すべきであろう。
MRCの声明は重要な点を避けている。すなわち現下の大洪水に対する中国のダムの影響である。MRCは、中国のダムの貯水量は小さく、メコン河の水文を左右しないと断言しているが、これは恥を知らない言い様である。なぜならMRCが仕えるべき下流域の人びとを襲った災害や被害を防ぐ鍵となる点に目を向けていないからである。
メコン河タイ民衆ネットワーク(Thai People's Network on Mekong)
生態系回復財団(Foundation for Ecological Recovery)
リビング・リバー・サイアム(Living River Siam)
チェンコンを保全する会(Chiang Khong Conservation Group)
ルーイ財団(Loei Foundation)
タムムーン・プロジェクト(Tam Mun Project)
パクムンダム被害住民ネットワーク(Pak Mun Dam Affected People's Network)
先の声明で漫湾ダムの貯水量について誤りがあった点を訂正し、お詫びします。
本件詳細は、生態系回復財団、モントリー・チャンタウォン(Montree Chantavong)66-(0)81-950-0560、あるいは、リビング・リバー・サイアム、ピアンポーン・デート(Pianporn
Deetes)66-(0)81-422-0111まで。
(文責・翻訳 土井利幸/メコン・ウォッチ)