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メコン河開発メールニュース2008年9月24日
今年、メコン河下流域では記録的な洪水が起こりました。この間、たくさんの報道があり、「洪水は中国のメコン本流ダムによる影響」と報じたものもかなり見られました。結局、今回の原因は記録的な豪雨が原因、という見方が強まっています。
しかし、深刻な被害を受けた人々の間には中国の巨大ダム開発に対する将来の懸念が高まっています。メコン・ウォッチのボランティア鈴木香織さんの翻訳で、タイ・バンコクポストの報道をお伝えします。
バンコク・ポスト 2008年8月25日
Kultida Samabuddhi記者、ウボンラチャタニ県
先週メコン河流域で発生した洪水は、周辺に住む村民たちの暮らしに被害をもたらし、全長4,350kmあるメコン河が、一昔前と大きくその様相を変えてしまったことを示した。洪水によりメコン河は決壊し、チェンライ、ナン、ナコンパノム、 サコンナコン、ノンカイ、ペッッチャブーン、ムクダハンの7県、2200以上の村が浸水の被害に見舞われた。また、ナコンパノムと ノンカイで4人の犠牲者が出た。この影響で、ラオス、ベトナム、カンボジアにおける100,000ライ(1ライ0.16ha)以上の農地で被害が相次いだ。
メコン河の水深は乾季に1mにも満たないが、今月初めには14mまで上昇し低地に浸水被害をもたらした。メコン河の高水位が支流の水を押し戻したために、(河から離れた)内陸に位置する村にも洪水の被害が出ている。
この件に関し関係当局は、洪水による被害の規模が予期されたものよりも大きくなった理由として、例年よりも多い雨量を挙げている。しかしその一方で、世界12番目の長さを誇るメコン河において、近年異変が起こっていることを指摘している。
ムクダハンのムアン郡に暮らすMethee Kaengrangさん(36)は家の側を流れるメコンの濁流を指差しながら、メコン河沿いでの暮らしは、以前まで天からの恩恵と考えられていた、と話す。川の流域に暮らす村民たちは主に、川から魚を獲ったり、乾季には川岸の肥沃な土地を利用して農作物を耕作して生計を立てている。しかし、メコン河周辺に暮らすことはもはや安全ではなくなった、と彼女は感じている。
「私は、生まれた時から川の側で暮らしていますが、その頃と比べ川はその様相を大きく変えてしまいました。その変わり様に、私は不安を感じています。」
メコン河の流れは以前に比べ大きく勢いを増し、氾濫してはその川岸を荒らすようになった、と家の前の崩壊したコンクリート道路を指差し彼女は言う。
その道路が数年前に敷かれた時、道路は川から約3、4m離れた距離にあったのだが、度重なる川の氾濫によりその道路は壊されてしまった。
数ヶ月前にMetheeさんは、川の方からくる激しい振動と大きな轟音で夜中目を覚ました。後に彼女は、氾濫した川が何メートルにも渡って川岸を浸食し、彼女の家のすぐ側まで押し寄せて来ていたことを知った。「これ以上の浸食を防ぐために堤防が築かれなければ、私の家は今後数年以内に川に押し流されるでしょう。」
ムクダハン県によれば、川の浸食は毎年2,3mずつ進んでいるという。同地域では、川岸の浸食を食い止めるために72kmに及ぶ堤防の建設を急いでいる。
Metheeさんは、つい最近のニュースで中国の超巨大ダム建設や、メコン河上流にある小島(訳注:早瀬や岩場を指す)の爆破で水深を深くし、巨大貨物船が川を行き来できるようにしていることについて知ったばかりだ。
彼女は、近年メコン河に見られるようになった変化や大規模な浸食の原因として考えられる勢いを増す川の流れは、このダム建設が影響しているのではないか、と考えている。
中国は、マンワン(漫湾)、ダッチャオサン(大朝山)、そして今年6月に完成したジンホン(景洪)の3つの巨大ダムをメコン河上流に建設している。そして4つ目となるシャオワンダム(小湾)は現在建設中であるが、2012年には運転が始まる予定になっている。
ジンホンダムは、タイのチェンライ県からおよそ300kmと最も近い。中国が建設したそれらのダムは、下流域の洪水だけではなく、水不足をも引き起こすとされる。Metheeさんは、乾季に中国がダムからの放水を拒否する事態を懸念している。
メコン河上流域において中国のダムによる生態系への影響は、現時点では未だ顕著にはなっていないものの、村民が被る精神的な影響は明らかであるといわれている。「私たちは不安を胸に抱き日々生活しています。最近中国では地震が多く発生しているので、いつか地震によってダムが崩壊するかもしれません。そして、ダムからの大量の水がメコン河下流域に暮らす私たちを襲うでしょう。」
ムアン郡の川岸でレストランを経営しているNapassorn Charoensuk Maliwanさんは、メコン河の浸食によって大きな被害を受けたひとりである。今年6月、氾濫した川は、彼女のレストランの一部を押し流した。
タイ当局や地元住民たちが、川の水文変化に適応するためには、ダム建設・操業に関し中国政府から何らかの説明がなされるべきだ、と彼女は話した。このレストラン経営者は、メコン河における生態系の変化により、川から獲れる魚の量も激減した、ともいう。
最近では、ムクダハンの魚市場に並ぶ魚はめっきり減ってしまっている。「お店に出すために十分な魚を仕入れることができない日もあるんです。」とNapassornさんはいう。ムアン郡のポンペット市場で、ある魚屋に勤める人が言うには、川から獲れる魚の中でも最も人気のあるナマズの仲間や大型のナマズ、コイ科の魚は、小さいものしか獲れなくなってきているらしく、事態は深刻である。
メコン河を挟んでラオスと国境を接するウボンラチャタニ県の コンヂアム郡で生活する漁師たちは、先細りする漁獲量を懸念し魚の乱獲を非難している。 Pha Chan村出身の漁師Dam Kongtonさん(77)は、メコン河では、大網やバッテリー式電気ショック銃などの破壊的な釣り具を使う漁師が多くいる、と話す。
彼はこれまで毎日10キロ以上の魚を獲っていたが、最近では2キロほどしか釣れなくなっている。Pha Chan村のKamphan Cherdchai村長が最も懸念しているのは、メコン河の水量が非常に不安定になっていることである。「河の水かさは、非常に素早く変化するようになってきています。ここ数年、水量の増減は3日毎に繰り返されていますが、そのような変化を私は今まで見たことがありません」こうした現象は、漁師だけでなくメコン河周辺の農家にも影響している。
彼はこう続ける。「メコン河の変化は、ますます予測できなくなってきています。私たちは、今までもそうしてきたように、これからも川と共存していけることを願うばかりです。」
(翻訳 鈴木香織/メコン・ウォッチ ボランティア)