ホーム > 資料・出版物 > メールニュース > セーブ・ザ・メコン・キャンペーン特集 第2号 死に瀕した母なる河!
メコン河開発メールニュース2009年5月10日
第1号発信後、さっそくたくさんの方がたがオンライン署名に参加して下さいました。まことにありがとうございます!
メコン河の豊かな自然と資源は、流域に住む6,000万の人々の生活を支えています。しかし今、この大河の本流をさえぎる巨大ダム建設計画が11ヶ所もの地点で着々と進行しています。1ヶ所でもダム建設が始まれば、メコン大ナマズやイラワジイルカなどの絶滅危惧種や多くの回遊魚が壊滅する恐れがあります。人々の暮らしと生物多様性を守るため、地元住民やNGOが「セーブ・ザ・メコン連合を設立しました。メコン・ウォッチもこの動きに加わり、第一弾の活動として、流域各国政府や国際機関にダム建設を再考するよう呼びかける国際署名への協力を呼びかけています。
みなさんの声がメコン河の環境と人々の生活を守り、メコン河の豊かさを未来の世代に伝える力となります。ぜひ署名活動にご協力下さい。署名活動は5月末まで継続する予定です(4月29日現在のオンライン署名数2233名。これとは別にメコン・ウォッチ東京事務所にも約300名の方からハガキ署名などをいただいています)。署名方法についてはこちらをご覧下さい。
キャンペーン・ニュース第2号では、メコン河と共に暮らす人々の生活にダム開発が及ぼす影響について、流域で活動するNGOスタッフが現地英字紙に投稿した記事を日本語訳で紹介します。執筆者の一人カール・ミドルトンさんは、今年2月・3月にメコン・ウォッチの招きに応じて来日し、東京・名古屋・人吉・福岡でメコン河のダム開発問題について講演をしました。講演の模様は、『伝えたいメコンの今』第3章をご覧下さい。
(タイ・ネーション紙2009年3月26日)
Pianporn Deetes、Carl Middleton
東南アジアで国境をまたぐ河川流域に暮らす何百万人もの人々が、水力発電開発計画の実施により壊滅的な影響を被り始めている。
タイ・チェンコン郡のメコン河漁民サオ・ラワンシーさん(70才)は、漁師を続けられなくなるかもしれない。
「私は漁師だ。親父や祖父もそうだったように。メコン河にはかつてたくさんの魚がいた。だから漁師で暮らしを立ててきた。だが、はるか上流にできたダムのせいで、それもできなくなった」。彼はそう言って、上流の中国領内で建設され障壁となっているダムの方角を指差した。
3月22日(日)は「世界水の日」で、河川が人々や地球に生命をもたらす恵みについてじっくりと考える時だ。今年のテーマは「越境する水:水を分かち合い、機会を分かち合う」で、現在のメコン地域にとって格好なものとなっている。
東南アジア大陸部の全諸国を流れる広大なメコン河は現在、深刻な脅威に直面している。この2年間で、本流下流部に11ヵ所の大型ダム計画が持ち上がった。このうち9ヵ所のダムはラオス領内にあり、その中の2ヵ所のダムはタイと国境を接している。残りの2ヵ所のダムはカンボジア領内にある。
メコン河本流でのダム建設により、域内全体に深刻な影響が生じる。無数の魚の回遊が阻止されるため、生計と食糧安全保障をメコン河に依拠している何百万人もの人々が危機に瀕している。世界各地の経験を踏まえると、こうした大型ダムが河川漁業に及ぼす悪影響を緩和する対策は存在しない。
メコン河の内水面漁業における生産性の高さは、世界最大級である。最近の公式推計によれば、メコン河の漁獲高は年間30億ドルにのぼり、世界の淡水魚漁獲高の4分の1を占めている。しかし、この驚異的数字さえ真の価値を十分に表しているとは言えない。というのも、地域住民にとっての漁業は栄養面や食糧安全保障の面でも柱となっているからだ。メコン地域の河川は、流域の地域社会だけでなく、そこから離れた町や都市に暮らす人々のお腹も満たしている。
また、メコン河の水生生物多様性はたぐいまれであり、世界最大の南米アマゾン地域に次ぐ水準である。本流ダムの建設により、イラワジイルカ、メコン大ナマズ、無数の回遊魚などの絶滅危惧種が絶滅の瀬戸際に追い込まれるであろう。こうした生態系の豊かさの喪失は、世界的規模に達する悲劇となろう。
このような危機に瀕しているのはメコン河に限らない。域内のもうひとつの大河、サルウィン川にも同じような脅威が切迫している。この河川は中国からタイへ、そして紛争で荒廃したビルマを下っており、本流には20ヵ所近くでダムが計画されている。さらに、各支流にも多数のダム計画がある。
「金槌には何でも釘に見える」ということわざがある。ダム技師には、すべての河川がダム建設候補地に見える。しかし、こうした本流ダムに関する意思決定過程では、当該河川の生物学的・文化的豊かさに損害を与える可能性がほとんど無視されている。世界では大型ダムはとてつもなく破壊的な開発形態になり得るとの認識が高まっているのに、こうしたメコン地域の本流ダムは旧態依然として密室の中で検討され続けている。
世界が直面している食料および水の危機はますます悪化しており、域内の意思決定者が優先すべき課題は、こうした河川の豊富な共有資源の破壊ではなく、保護するために一致団結して取り組むことである。
幸いなことに、時代は変化している。今や世界を席巻しているエネルギー革命により、電力需要を満たす選択肢が数多く生まれており、河川を破壊する大型水力ダム建設技術は前世紀のものとなっている。電力必要量を満たすうえでもっと良い方法には、エネルギー効率性の向上や分散型および再生可能エネルギー技術における最近の革新がある。こうした新エネルギー技術への投資を奨励する政策の導入により、メコン地域の各政府は1950年代に始まる大型ダムの時代から大きく飛躍して、健全な河川がもたらす恵みを失うことなく、持続可能で現代的な経済を発展させる端緒につくことができよう。
前述のサオ・サワンシーさんは最近、メコン本流ダムの一つドンサホンダムが計画されているラオス南部のシーパンドンを訪問した。
彼の見立てによれば、「メコン河の魚はとても豊富だ。チェンコンの古き良き時代のようだ」という。
そして、自分に降りかかった不運がメコン河全流域の漁師たちにも起きる恐れがあることを嘆いた。
「私たちの母が殺されようとしている」そう悲しそうにつぶやいた。
(執筆者について)
Pianporn Deetes(ピアンポン・デート)は、チェンマイを拠点とする非営利環境団体「Living Rivers Siam」のキャンペーン担当。
連絡先:pai@loxinfo.co.th
Carl Middleton(カール・ミドルトン)は、米国に拠点を置くInternationalRiversのメコンプログラム・コーディネーター。
連絡先:carl@internationalrivers.org
両団体はセーブ・ザ・メコン連合(the Save the Mekong Coalition)参加団体である。記事の原文は、次のウェブサイトを参照http://www.nationmultimedia.com/option/print.php?newsid=30098849
(翻訳 長瀬理英/メコン・ウォッチ理事)
署名に関してご不明な点がありましたら、下記までお問い合わせ下さい。
event@mekongwatch.org