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メコン河開発メールニュース2010年12月20日
大河メコンの水のうち、約35%はラオスから供給されています。内陸国であるためラオス政府はその豊富な水力をエネルギーに変え海外に売電し、経済発展を実現しようとしています。一方で、ラオスの国民の8割は農村部で自給的な生活を営んでいます。そこでは、森や川といった自然が人々の生存を支える重要な資源です。ラオスでの環境の劣化は、人々の生活の質の劣化に直結します。ダムの貯水池建設は水質悪化や森林破壊を伴う場合が多く、また、放水による水位変動は河川の生態系を劣化させるといった影響があります。
メコン河開発メールニュースでは、「東南アジアのバッテリー」を目指すラオスの水力発電開発について、現地情報を交え最近の状況を5回にわたってご紹介します。第1回は、水力発電開発の概観です。
インドシナ半島で続いた戦乱と東西冷戦の影響で、鎖国同様の状況だったラオスで、水力発電が本格的に始まるのは、ソビエト連邦崩壊とカンボジア和平の進展があった1990年代前半からです。一方、隣国タイでは1960年代から経済成長優先の開発を続けてきた軍事政権時代から政党政治に移行し、1980年代には住民運動が活発化しました。このため、住民に犠牲を強いるような開発事業は進めにくくなっていきます。特に1990年代のパクムンダムに対する強い反対運動によって、タイ発電公社の関係者が「もはやタイではダム建設は不可能」と言うまでになっています。結果として、経済成長を続けるタイは、電源を隣国に求める動きを強めていきます。更に最近では、中国やベトナムといった国々も急激な経済成長を遂げており、不足する電力を求める地域全体の圧力は高まっています。
ラオスのエネルギー鉱業省の傘下にあるエネルギー振興開発局 (EPD)の運営するウェブサイトによると、ラオス国内の理論上の発電可能量は26,500メガワット(MW)にのぼり、これにはメコン河本流での水力発電ダムも含まれています。このうち18,000MWが技術的に利用可能で、過去30年間ではこのうちの2%以下しか開発されていないとされています。2007年、ラオス政府は2015年までにタイに7,000MW、ベトナムに5,000MW、カンボジアに1,500MW を供給すると表明しました。
現在、ラオス政府がタイへ電力輸出を計画し、コンセッション・アグリーメント(事業内容、事業権付与期間、契約終了時の規定などを定めた契約)などを結んだ主な水力発電事業には、下記のようなものがあります。
・ナムグム3 (440MW)
出資企業:MDX社、ラチャブリ社(タイ)、丸紅(日本)、Lao Holding State Enterprise(略称LHSE、ラオス)。
商業運転開始予定2014年
・ナムニエップ1 (262MW)
出資企業:関西電力 (日本), EGAT International (タイ) 、LHSE (ラオス)。
商業運転開始予定2015年
・ナムトゥン1 (523MW)
出資企業:Gamuda Berhad (マレーシア)、 EGCO (タイ) 、LHSE (ラオス)。
商業運転開始予定2014年3月
・ナムウー (1100MW)
出資企業:シノハイドロ社(中国)、EGCO (タイ)が共同で融資。
達成可能な商業運転開始2015年
2010年9月の時点でラオス全体でのダム開発(注:1MW以上の発電能力を持つダム)は、稼働中12基、建設中7基、計画中24基、実施可能性調査中42基となっています。しかし、こうした大規模のダム開発は、住民移転や漁業被害などの社会影響、河川や森林の生態系の破壊などの環境影響を伴います。一方で、言論の自由が制限されているラオスの政治・社会な状況下では、被害を受ける人々の声が反映されず、環境社会影響に関する十分な情報公開も行われないまま事業が進められているのが現状です。
次回以降、現地情報を交え、最近の水力発電開発の状況を報告します。
(文責 木口由香/メコン・ウォッチ)