ホーム > 資料・出版物 > メールニュース >ラオス>著名な社会活動家誘拐される(5)
メコン河開発メールニュース2013年7月5日
7月3日(水曜日)、タイ・バンコクの外国人記者クラブ(FCCT)は、「異議申し立てのリスク(The Hazards of Dissent)」と題する公開討論会を開催しました。
開催の目的は、ラオスで発生したソムバット・ソムポーン氏の誘拐事件が未解明のまま、六カ月が経過したことを記憶にとどめておくためです。しかし、三名の発表者によって、ソムバット氏のほかにも、ラオス、タイ、カンボジアの各国で、環境や地域社会を守ろうとしたために、政府や大資本から「敵対者」と見なされ、脅迫・誘拐・暗殺といった被害を受ける人びとがあとをたたない現状が明らかになりました。
こうした事件は報道されることも少なく、ラオス、タイ、カンボジアと経済協力や開発援助を進める「先進国」政府も、強い関心を示そうとはしません。発表者の一人であるシャルマリさんは、「その理由は、現在もてはやされている開発モデルが、大資本の利益を優先する仕組みになっているからで、その部分に手をつけない限り、こうした事件は止まないだろう」と訴えました。
以下は、公開討論会での各発表者の発言内容のまとめです。
討論会での発表の様子。左からアンカナーさん、チャニダーさん(通訳)、シースワンさん、シャルマリさん。
最初の発表者のシースワン(Srisuwan Janya)さんは、タイ各地で産業公害と闘う住民を支援する弁護士で、2009年、東部臨海地域のマプタプット工業団地で、76ヶ所の工場の拡張計画を差し止める行政裁判所判決を勝ち取り、全国の人びとからその名を知られるようになった。シースワンさんは、「タイが民主国家になって80年以上が経過し、憲法にも人権が明記されているが、いまだに政治家、官僚、大企業が結託して住民の権利や命を脅かす例が絶えない」と述べた。シースワンさんの手元の記録にあるだけでも、この12年間で、23人もの人びとが環境や地域社会を守ろうとして命を落とした。最近では、産業廃棄物の投棄に抗議した住民リーダーが射殺される事件が発生し、シースワンさん自身も、マプタプットの件で訴訟を起こしたために脅迫を受けたことがある。「企業はむしろ私に助言を求めたり、助言を活用してくれたこともある。問題は、政治家と官僚だ。私は国際法の強制力には期待していないが、タイ政府がもっとも恐れるのは、国際的に面子をつぶされることだ。海外メディアには、ぜひともタイ政府の動きをきちんと報道してもらいたい」と、シースワンさんは、討論会に出席したメディア関係者に呼びかけた。
5月に来日し、東京の上智大学で政治的強制失踪について講演したアンカナー(Angkhana Neelapaijit)さんも、数字や事例を並べて、「タイでは、第二次大戦後の長い歴史の中で、1960年代の共産主義者への弾圧に始まり、労働運動の指導者、学生活動家、住民リーダー、海外からの移住者などが、国家や開発に反対する者として弾圧を受け、時には、政府関係者や国会議員まで犠牲になってきた」と説明した。行政権力による脅迫・誘拐・暗殺といった行為は、個人やその家族への影響にとどまらず、国民全体に恐怖と萎縮をもたらす。アンカナーさんによると、2002年から2011年の約10年間で、20件の強制失踪が発生し、33人が犠牲となったが、大半はマレー系のムスリム住民である。そして、犠牲者の一人は、アンカナーさんの夫で、ムスリム系住民の人権問題に取り組んでいたソムチャイ弁護士である。アンカナーさんは、「強制失踪に対して、タイ政府は家族に見舞金を支給するなど一定の手当てを施しているが、もっとも重要なのは真相の解明、すなわち事実を知る権利の尊重を実現することである」と強調した。
最後に発言した、市民団体Focus on the Global Southのシャルマリ(Shalmali Guttal)さんは、「ソムバット氏が誘拐されて今日が199日目になるというのに、真相の解明が進まないばかりか、ラオス国内では、事件をきっかけに国民の間で恐怖が蔓延し、弁護士がソムバット氏の家族に接触しないよう脅されているといった事態にまで至っている」と切りだした。また、ラオス南部で、土地をめぐる紛争に巻き込まれた住民が、首都ビエンチャンの国会議員に窮状をうったえに行ったところ、会見を前に逮捕されるなど、信じがたい事件が頻発している。ラオスに比べれば、政治的自由があると云われるカンボジアでも事態は変わらない。もっともよく知られた事例として、昨年5月、クラチエ州で、経済土地コンセッションによって農作業を妨害されたと抗議した住民を、政府は「分離主義者」と断じて、軍が村を包囲し、その後の発砲によって14歳の少女が犠牲になる事件が発生した【注】。シャルマリさんは、「しかし、ソムバット氏の誘拐事件をはじめ、こうした事件の発生が、ラオスやカンボジアに対する海外からの援助や投資を見直すきっかけにはならない。それは、現在もてはやされている開発モデルが大資本の利益を優先している、つまり、こうした事件の発生をモデルとして内在化しているからだ」と指摘した。シャルマリさんは、「こうした困難な状況の下でも住民は声をあげつづけている。そうした住民の闘いに、私は明日への希望を見出したい」と発言を結んだ。
【注】カンボジア・クラチエ州で発生したこの事件については、以下の声明を参照のこと。
LICADHO Calls for Investigation into Deadly Kratie Shooting
http://www.licadho-cambodia.org/pressrelease.php?perm=277
(文責 メコン・ウォッチ)